鶏と卵、どちらが先か、知識と実経験、どちらが先か論争
投資をスタートさせると経験が積めます。バーチャルトレードよりもやはり、実際のお金を投じた値動きを経験することのほうが重みがあります。そして経験は知識を蓄える導火線にもなります。実際にお金を投じてみたことで、よりよい投資をしてみたいと思う意欲が具体的にわいてくるからです。
しかしながら、投資知識もなく投資に飛び込むことにも危うさがあります。金融庁が再三指摘しているように金融機関のカモにされたりする恐れは個人のほうの投資知識不足もまた原因のひとつであるからです。また、マーケットで大きな失敗をする可能性も投資知識があるほうが軽くなります。
これが水泳であれば横にコーチがいて、子どもの水泳の経験を補助し効率的にステップアップさせてくれます。最初は水を飲んだりすることもありますが、大きな失敗にならないようサポートがあります。水に入らずに泳ぎを覚えることが不可能である、と誰でも認めることでしょう。
しかし、投資においては「投資知識がない人は投資経験を踏むこともない」「投資経験を重ねない人は投資のレベルも上がらない」という問題をはらんでいます。
投資の誤解が大きいことが投資を避ける理由になっていることは、金融庁の調査などでも指摘されています。また、金銭教育が投資の経験割合を高めることもよく言われるところです。
しかし、このままでは投資家は増えていかないことになってしまいます。すでに社会人になってしまえば、投資教育の受講機会はほとんど期待できないからです。
証券アナリストジャーナルにおもしろい論文が
「証券アナリストジャーナル」という、普通の人はあまり読まない専門雑誌がありますが、そこにちょっと興味深い論文が掲載されていたのでこれをちょっと話題にしてみたいと思います。
(「日本人の金融リテラシーはなぜ低いのか(山口勝業)」証券アナリストジャーナル2017年12月号所収)
一般に、アメリカ人は金融リテラシーが高く、そのため投資を積極的に行っているといわれます。また日本人に「貯蓄から投資へ」を促すには金融リテラシーの向上が喫緊の課題である、と言われます。しかし、その仮説はミスリードではないかと著者は述べます。
実は「客観的知識」では日米の投資リテラシーにはむしろ共通点があり、低所得者より高所得者層、最終学歴は高いほう、年齢は高年齢であるほど、リテラシーが高くなる関係も基本的に日米同様であるといいます。
投資経験が高いと金融リテラシーの高いという関係も見いだせるとのことです。つまり、投資経験者ほど金融リテラシーを求めることもあって、豊富に有するようになるが、未経験者ほどリテラシーの向上の余地がないため、その差が拡大すると考えられます。
これは投資教育や金融教育を不要とする意味ではありませんが、「経験」が先か「知識」が先か、について一石を投じた議論だと思います。