資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動を分かりやすく解説します。

お悩み

円安株高で米国株投資がうまくいっていたのに...

中西和真さん(仮名)会社員・45歳(既婚、共働き、子ども2人)

 中西さんはこれまで将来の教育費を見込んで、5年前から積立投資を続けています。米国株式市場が好調で円安が続いたことで予想よりも大きな資金を貯めることができました。

 そろそろ子どもたちの教育費が少しずつ増えてきていたので、その一部を売却して必要なお金をそろえておこうと考えていました。しかし、ある日急に円高株安に大きく動いたことで投資資金が1割ほど評価減となってしまいました。

 これまで投資をしていた経験から待っていれば上がるだろうと思いつつも、このタイミングで現金化することがもったいなくも感じてきました。積立投資は5年ほど続けてきましたが、一度も現金化することはなかったので、1割の目減りで慌てることはありませんでしたが、もう少し様子を見るべきかもっと下がる前に売却するべきか判断がつきませんでした。

 積立投資を始めたことから毎月の投資資金さえ用意しておけば、あとは放っておけばよかったので、いざ売買のタイミングを考えると決断ができずに日々が過ぎてしまっています。

 中西さんはこの円高株安時にどのように投資判断をすればいいのでしょうか? 

上がっている理由、下がっていく理由を理解すること

 積立投資の普及でインデックス投信の利用が個人投資家の中で広がっており、この流れは今後も続いていくでしょう。しかし、肝心の投資信託の中身にまで興味を持っている方はそれほど多くないと感じています。

 投資において「まずは少額でもいいのでやってみる」という行動は素晴らしいと思う半面、やはり投資をしている商品の中身はインデックス投資であると知ることが大切だと思います。

 例えば日経平均株価は、日本経済新聞社が上場企業225社の株価から算出している日本株式市場の代表的な株価指数の一つです。

 一方東証プライム市場の全企業を対象としているTOPIX(東証株価指数)は、浮動株基準を加味した「時価総額加重平均型株価指数」で算出をしていますが、日経平均株価は増資や株式分割、権利落ちなどの影響を調整した「修正平均株価指数」で算出されています。

 そのため、ファーストリテイリング(9983)ソフトバンクグループ(9984)ファナック(6954)の3銘柄が日経平均株価に対する値動きの寄与度が非常に大きいことは市場関係者であれば常識です。

 また積立投資で人気のS&P500種指数は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが算出している米国の代表的な企業500社による株価指数で、浮動株調整後の時価総額加重平均で算出されています。中身を見るとマグニフィセント7と呼ばれるわずか7銘柄によって比率の約3割を占めています(2024年7月19日時点)。

 このようにシンプルに市場平均価格を狙うインデックス投資であっても、その中身を確認すると価格に対して何の影響が大きいのかを知ることができます。自分が投資する商品の価格が何によって影響を受けているのかを知っておくことは投資の基本です。

 投資している商品を理解していなければ価格が大きく変動したときに慌ててしまい、投資判断を誤りやすくなります。理解できていなければ尚更注意が必要です。そこで今回は、円高株安時に慌てないためにお伝えしたいこと3選をお届けします。

円高株安時に慌てないための投資知識1:「為替」「株価」それぞれの評価損益を知る

 円高株安というのは、積立投資で資産形成をしている多くの投資家にとって、投資資産が評価減することを意味しています。なぜなら積立投資で選ばれている上位がS&P500もしくは全世界株式(オールカントリー)だからです。

 例えば、円高になることで為替の評価損が2%、株安によってS&P500で構成される企業の株価が3%下落すると、日本円ベースでは5%の評価減となります。こうして数値で見ると当たり前のことですが、実際に投資をしていると投資信託など証券口座の残高で見える損益は、為替と株価の損益をいちいち分けて表示してくれてはいません。

 さらに言えば投資信託の場合は、リアルタイムで価格が更新されておらず、商品によって価格に反映されるのは翌日や翌々日だったりします。もちろん調べれば投資信託の価格がいつ時点で更新されるのかはすぐに分かります。

 円高と株安が同時に来ると思った以上に下落することがあります。その差を予測するには為替と株価の下落要因をそれぞれ別々に考えて、円高の理由・株安の理由を理解することが大切です。どんな投資判断をするにも価格変動の理由を把握しなければ始まりません。また突然の評価減で驚いているときでも、その理由を知ることが冷静になるためには必要なのです。