去る2月16日よりマイナス金利がスタートし、10年物国債利回りまでもがマイナス圏に突入しています。プロ・個人投資家問わず運用先に頭を悩ませるなか、注目を浴びているのが配当利回りの高い株式への投資です。

しかしながら、配当利回りには注意すべき点もいくつかあります。そこで今回以降3回にわたり、配当利回りに着目して銘柄選びをする際の注意点をお話ししたいと思います。今回は基本編として、配当利回りに関して個人投資家が絶対に知っておきたいことがらをご説明します。

今では「国債利回り<株式配当利回り」が当たり前に

ひと昔前までは、国債の利回りと株式の配当利回りを比べると、国債利回りの方が高いのが当たり前でした。配当利回りが国債利回りを上回るとマーケットではちょっとした騒ぎとなり、そんなときに株を買っておけば後々結構儲かったものです。

ところが低金利が常態化してくると、国債利回りより株式の配当利回りの方が高いという状況が普通になってきました。特にリーマンショック以降は、常に配当利回りが国債利回りより高くなっています。アベノミクス相場により日本株が大きく上昇しても、その状態は変わりませんでした。

国債利回りと株式の配当利回りを比較する論調は今でも根強く残っています。でも、これまでの歴史では考えられなかったほどの低金利が当たり前となった今、以前のように、配当利回りが国債利回りより高くなれば株価は割安だ、という考え方は通用しなくなっているという点はまずおさえておく必要があります。

「配当利回り」と債券の利回りとは全くの別物

ところで皆さんは、「配当利回り」の意味を正しく理解していらっしゃるでしょうか。そんなの当たり前だ、と思われる方も多いでしょうが、意外と正しく知っているようでそうでもないのがこの「配当利回り」なのです。

特に初心者の方が勘違いしてしまうのが、「配当利回り」を定期預金や債券の利回りと同じようにとらえてしまうという点です。

例えば国債の利回りが0.1%、A株の配当利回りが4%の場合、「0.1%と4%ならA株の方が明らかに有利。多少株価が下がったとしてもA株を保有し続けていればずっと4%の配当金を受け取れるから大丈夫」と考えてしまいがちです。しかし、その考え方自体に大きな誤りがあります。

債券の利回りは、債券の発行企業が倒産などをしない限り「確定」したものです。0.1%であれば、満期までずっと0.1%の利回りが得られます。一方、配当利回りは当期の予想配当金から計算された利回りの「予想」に過ぎず、さらには来期以降の利回りについては一切保証されていません。

そもそも「配当利回り」とは何を意味しているのか

ここで改めて「配当利回り」の意味を今一度考えてみましょう。配当利回りとは、「当期の1株当たり予想配当金」を「現時点の株価」で割った数値です。例えば、2016年3月期の1株当たり予想配当金が50円、株価が2,000円の銘柄であれば、配当利回りは50円÷2,000円=2.5%となります。

この「配当利回り」の本質を知る際にポイントとなるのが、上記の「予想」と「当期」という2つの言葉です。

まず、「予想」という言葉からです。上記算式では、1株当たりの「予想」配当金という表現になっています。あくまでも予想ですから、数値が将来変わることも当然あります。ですから、例えば現時点で配当利回りが4%の銘柄において、業績不振のため2016年3月期の配当金を当初予想の半分に減らすという発表が企業側からなされれば、株価に変動がなくとも配当利回りは2%にまで低下してしまいます。

そして、「当期」という言葉です。これはさらに長い時間軸で考える必要があります。例えば、現時点で配当利回りが4%の銘柄であっても、業績の悪化により来期の配当金が今の半分に減らされれば利回りは2%となり、再来期の配当金がさらにその半分になったら、利回りは1%にまで下がってしまうのです。こうなると、現時点での4%の配当利回りは、ほとんど意味のない指標になってしまいます。

もし現時点での配当利回りが4%の銘柄であっても、将来にわたってずっと4%の利回りを得られるという意味ではないことは必ず理解しておかなければなりません。

配当利回りというのは、こうした「今後配当金が変動するリスク」が織り込まれた上で形成されている指標なのだという点を十分に理解するようにしてください。言い換えれば、配当利回りが高いほど、将来の配当金が変動(特に減少)するリスクも高くなるということです。

「配当性向」とはなにか?

もう1つ、押さえておきたい用語として「配当性向」があります。配当性向とは、当期純利益のうち配当金の支払いに充てられた金額の割合のことを言います。

例えば、1株当たり当期純利益が100円、1株当たり配当金が30円の銘柄であれば、配当性向は30円÷100円=30%となります。

もし、1株当たり当期利益が20円しかないのに、1株当たり配当金を30円出している銘柄があれば、その配当性向は30円÷20円=150%となります。

業績が低迷している銘柄の中には、無理をして配当金の額を維持しているものも少なくありません。そのような銘柄は得てして配当性向が高くなっていて、100%を超える、つまり当期純利益を超える配当金を出しているケースもあります。

しかし、業績の低迷が続けば、同じ額だけの配当を維持することが難しくなり、結局は減配や無配に転落してしまいます。

ですから、例え足元の配当利回りが高いとしても、配当性向が高い銘柄、特に100%を超えるような銘柄については、将来配当金が減らされるリスクがかなり高いと認識する必要があります。

また、最近では配当方針を定め、ホームページ等で公表する企業も増えてきました。例えば、「1株当たり当期純利益の25%~30%の配当性向を目指す」というようにです。ただし、年ごとの業績の変動が大きな銘柄がこうした配当方針を定めている場合、当然業績の変動に伴って配当金の額も大きく動きます。業績の変動が大きい銘柄の配当利回りは総じて高くなりがちですが、それは将来業績が悪化したときに配当金が減らされるというリスクを織り込んだ結果なのです。

「高配当利回り銘柄」をさらに絞り込んで投資対象銘柄を決定する

では、具体的に配当利回りをベースに投資する銘柄を選ぶ際はどのようにすればよいのでしょうか。例えば、楽天証券ではスーパースクリーナーというものがあり、これを使えば配当利回りが高い銘柄をスクリーニングすることができます。「配当利回り4%以上」という条件でスクリーニングすると、3月5日現在で、配当利回りが4%を超えるものが22銘柄あり、うち4銘柄は5%を超えています。

しかし、単に配当利回りが高いことのみをもって投資対象とすることはリスクが高いことはこれまで述べた通りです。

そこで、スクリーニングした銘柄について、過去の業績や配当金の動向などを調べたうえで、投資対象となるべき銘柄を厳選していく必要があります。

その具体的な方法については、次回の「実践編」にてご説明いたします。

< 新「相続」コラムのお知らせ >

2月25日より、新コラム「個人投資家なら誰もが知っておきたい「相続」の基礎知識」の連載がスタートしました。

巷には相続に関する情報があふれています。個人投資家かつ公認会計士・税理士である筆者がそれらを取捨選択し、個人投資家の皆様にとって本当に必要な知識・情報をご提供いたします。

本コラムと合わせて、ぜひご覧いただければと思います。