危険な「長期投資」の考え方の典型例
今回は、前回の続きとして、長期投資に対する向き合い方について考えてみたいと思います。
長期投資を肯定する個人投資家の中には、将来に対して「楽観的すぎる」傾向にある方が多いのではないかと筆者は感じています。
例えば、足元では原油価格が急落していることは皆様もご存じだと思います。今はまさに価格下落の真っ最中で、価格が明確に下げ止まったという兆しはまだ出ていません。
そんな中、原油価格に連動するETFや、原油関連企業の株に逆張りで投資する個人投資家が増えているというのです。彼らは一様に、「今は原油価格が下がり過ぎている。そのうち下げ止まって再び上昇に転じる」と自信ありげに言います。
しかし、何の根拠があってそう思うのか、筆者には不思議でたまりません。エネルギーに対する需要は将来的に増え続けるから、長期的には原油価格は上昇する、という考え自体が崩壊している可能性すらあると筆者は思っているくらいです。専門家の間でも、近年の原油価格の高騰は歴史的な高値であり、ここからかなりの期間、原油価格は下落傾向が続く、という見解があるのです。
上昇に賭けるなら価格のトレンドが上向くのを待ってから
何よりも、原油価格がまだ明確に下げ止まっていないうちから「近いうちに反転上昇する」と決めつけること自体が非常に危険です。非常にリスクの高い「勝負」をしていることに一刻も早く気が付くべきです。
もし原油価格上昇にベットするならば、少なくとも価格下落のトレンドが終わり、再度価格上昇のトレンドに転じてからで全く遅くないと思います。長期的にみれば原油価格が再び上昇するかどうかなど、誰にも分からないですし、ましてや短期的には原油価格がいくらまで下がるか、正確に予測することは誰もできないからです。
ここでは原油価格の例を取り上げましたが、日本株や外国株であっても同じことです。「長期的にみれば株価は上がる」という根拠のない自信のみを持って、大切な自らの資産を必要以上のリスクにさらすことは、やはり避けるべきだと思うのです。
確かに長期投資の方が「大負け」はしにくいが・・・
ただ、長期投資を擁護するつもりは毛頭ありませんが、タイミングを計った個別銘柄の売買を実践するよりは、長期投資の方が「大きく勝ちにくいが大きく負けにくい」のは事実です。
個別銘柄を売買する場合、銘柄選択や売買タイミングの巧拙、売買技術、知識の差などにより、個人投資家によって投資成果に大きな差が生じます。上手な個人投資家は数年間で資金を5倍、10倍にまで増やすこともできますが、その一方で資金を大きく減らしてしまう個人投資家もいます。そしてもちろん、前者より後者の個人投資家の方が圧倒的に多いのが事実です。
それでも、筆者は株価のトレンドに応じた個別銘柄の売買の方が長期投資に勝ると思っています。日本株を今買って10年、20年もそのまま持ち続けることは恐ろしくてとてもできません。日本株だけでなく、外国株でも同じです。
やはり、長期的な株価上昇に「賭けて」はならないと思うのです。投資とは、確かに見えない将来に向かって自らの資金を賭けるものではありますが、それでも不確実性に左右される部分は可能な限り軽減させるべきだと思います。ですから、仮に日経平均株価やTOPIXやJPX日経400に連動するETFに投資するにしても、それを単に何十年と持ち続けるのではなく、例えば筆者が実践している「株価トレンド分析」を用いて、株価のトレンドが上向きの間だけ保有するのです。そうすれば、大きな損失を被る危険は格段に減らせますし、その結果利益も得やすくなるはずです。
何も日足チャートを使って日々の株価の動きを追いかける必要はありません。月足チャートを使って、長期的な株価の方向性を確認するだけでよいのです。
10年後、20年後の日本、そして世界はどうなっているのか、誰にも分かりません。そんな将来に向けて、単に指数連動型のETFを買って保有を続けるのではなく、そこに「株価のトレンドを確認して上昇トレンドの間だけ保有する」という作業を加えてみてください。そのひと手間こそが、株式投資の安全性を大きく高める手助けとなるはずです。
個別銘柄への長期投資はどうか?
なお、日経平均株価やTOPIX、JPX日経400などの株価指数に連動するETFや投資信託ではなく、個別銘柄に対して長期投資をする方法はどうでしょうか。バブル崩壊後20年以上が経過し、日経平均株価こそバブル時の高値の半値以下にとどまっていますが、個別銘柄をみるとバブル時の株価を大きく上回って上昇しているものも決して少なくないからです。
これに関しては、やはり銘柄選択とメンテナンスが重要です。その点に気をつければ、それなりの成果は出せるかもしれません。以下、筆者であればこうする、という手法を簡単にご紹介しておきます。
まずは、長期的にみて株価の上昇が期待できる銘柄をいくつかピックアップします。そしてそれらの銘柄に実際に投資します。これはいわば「種まき」です。
実際に投資した結果、株価が順調に上昇している銘柄はそのまま保有を続けます。一方、株価が下落をしてしまった銘柄については、損失が大きくなる前に損切りをします。これはいわば「間引き」です。自分では株価は上がると思っていても、意に反して値下がりする銘柄はかなり(自分が思っているよりもはるかに多く)出現します。ですからこの作業を怠ると、長期的に見てトータルの運用成果がマイナスに陥ってしまう可能性が高まります。
そして、損切りをしたことにより回収した資金は、株価が順調に上昇している銘柄へ追加投資したり、新たに将来性が有望な銘柄を発掘したならその銘柄に振り向けたりします。
また、良い銘柄が見つかったにもかかわらず、投資資金が不足する場合は、すでに保有している銘柄のうち、値動きが悪い銘柄と入れ替えるのも有効です。
このように、常にポートフォリオを最善の状態に保っておくことで、長期的にみた株価上昇が期待できます。
いずれにせよ、日本株全体が右肩上がりの長期的な上昇相場ではなくなってしまったわけですから、買った銘柄をそのまま保有しているだけでは満足のいく利益をあげることは非常に難しいです。損切りを含め、自らのポートフォリオに対する定期的なメンテナンスが必須です。