再び語られ始めた「長期投資の有効性」

アベノミクス相場が始まって2年、この間日本株は大きく上昇しました。相場環境が好転してくると必ずと言ってよいほど論じられるのが「長期投資の有効性」です。

ご存じのとおり、日本株はバブル崩壊後の20年間、散々な相場が続きました。長期投資をすればするほど資産が目減りしていったのです。筆者はファイナンシャルプランナーの資格も有しておりますが、教科書や試験問題では「長期投資が有効かつ望ましい投資法」とされています。ところが現実の相場はそうなってはいなかったため、長期投資の有効性を論じてもあまり見向きがされなかったのが実情です。

しかし人間とは不思議なもので、足元で株価が順調に上昇していると、株価は将来も上昇すると思ってしまいます。そうした中で長期投資の有効性を説かれると、「なるほど」と妙に納得してしまうのです。

特にこれまで起こった日本株の乱高下を経験したことがない投資初心者、初級者にとっては、長期投資の話を専門家から聞くと、「買ったら長期間保有するだけ」という手間いらずの方法であることも手伝い、自分に合ったとても素晴らしい手法であると感じてしまうことが多いようです。

でも、長期投資が本当に安全な方法かといえばそうではなく、長期投資をした結果資産が大きく目減りしてしまうおそれもあります。一方で、消極的な理由とはいえ長期投資のメリットも確かに存在します。

そこで今回と次回は初心者向けコラムとして、「長期投資」を取り巻く国内外の経済環境を解説するとともに、「長期投資」に対して個人投資家はどのように向き合うべきか、筆者の考えをお伝えしたいと思います。

なぜ「長期投資」という考え方が生まれたのか

まず長期投資という考え方が生まれた背景を探ってみましょう。そもそも投資の極意というのは商売と同じで、「安く買って、買った価格より高く売る」のが基本です。

ところが実践してみると、安く買ったつもりが買値よりさらに下がったり、高く売ったつもりがそこからさらに上昇したりと、意外とうまく行かないものです。

そこで過去の株価の推移をみてみると、確かに短期間にはかなりの変動があるものの、何十年という長い期間でみてみると、株価は右肩上がりに上昇していることが分かりました。わざわざタイミングを見計らって株を買ったり売ったりしてもうまくいかないなら、株を買ったら長期間持ち続けることで、株価は上昇して利益を得ることができる・・・これが長期投資の根本的な考え方です。多少乱暴な言い方をすれば、「過去のデータを見る限り数十年持ち続ければかなりの利益を得られたのだから、これからもそうなるに違いない」という発想です。

潜在的成長率の低下が招いた日本株の低迷

ところが日本株の場合は、バブル崩壊によって「右肩上がりの長期的上昇」が終焉し、この長期投資の考え方は根底から覆されました。ただし外国株の場合はまだ長期的上昇が続いている国が多く、今のところ長期投資にそれなりの効果が期待できる状況にみえます。

ただし、右肩上がりの長期的上昇が終焉したのは日本株だけで、外国株はこれからも長期的上昇が期待できると考えるのも早計だと筆者は思っています。なぜなら、近年の世界経済は総じて「デフレ化」に向かっているからです。

そもそもなぜ日本株はバブル崩壊から20年以上もたっているのに、バブル時につけた株価の半値以下の水準に今もとどまっているのでしょうか。筆者はデフレによる日本の潜在的成長率の低下が大きな要因だと思っています。

皆さんもご存じのとおり、日本の経済成長率は戦後から高度経済成長期を経てバブル期にかけ、非常に高い水準を維持してきました。日本株上昇の原動力は、高い経済成長にあったのです。ところがバブル崩壊後の経済成長率は、それまでに比べると大きく落ち込んでおり、近年はマイナス成長となることも珍しくなくなってしまいました。

世界的な低成長が続けば外国株もバブル後の日本株のようになる恐れも

株価はその国の経済を映し出す鏡です。バブル崩壊前の日本株で長期投資が有効に機能したのは、「経済成長率が十分に高かった」ためと考えられます。そして、バブル崩壊後の日本株が低迷し、長期投資が機能しなくなったのは、「経済成長率が落ち込んだ」からです。

つまり、バブル崩壊前後の日本株の値動きから見えてくるものは、経済成長率が高水準を維持している限りは株価も長期的に見て右肩上がりに上昇するが、経済成長率が低水準になると株価の長期的な上昇は期待できなくなる、という事実です。

この事実を近年の諸外国の経済状況に照らし合わせてみると、先進国と呼ばれる国の潜在的成長率は押しなべて低下しています。日本ほどひどくはないものの、一昔前に比べるとどの国も低成長となっています。

したがって、今は大規模な金融緩和によるカネ余りの状況から世界的に株価は好調ですが、遠くない将来、金融緩和の効果が剥げ落ちると、世界各国の株価は、まるでバブル崩壊後の日本株のように不安定な値動きを続けることになってしまうのではないかと危惧しています。

次回は、長期投資に対する向き合い方について考えてみたいと思います。