執筆:香川睦

今日のポイント

  • 今週も米国でダウ平均が最高値を更新。日経平均も年初来高値を更新した。日米市場で恐怖指数が年初来最低。投資家のリスクオン(選好)姿勢が強く、押し目買いが先行。
  • 米国株のアノマリー(季節性)を警戒。過去20年におけるダウ平均のパフォーマンス(算術平均)を振り返ると、「年末株高の場合は、年明けは調整で始まる」を連想させる。
  • 新年(2017年)を通じて内外株式に一時的な調整を強いる可能性があるリスクオフ(回避)要因は何か?現時点で想定し得るリスクシナリオを「ABCDE」で整理してみた。

(1)日米で「恐怖指数」が年初来最低で推移

市場平均が52週安値(終値)から2割上昇した段階で、当該市場が「強気相場入りした」とみなされることがあります。その観点では、日経平均は6月24日の14,952円から約30%上昇、米ダウ平均は2月11日の15,660ドルから約28%上昇(20日時点)し、日米とも強気相場入りしていることがわかります。市場センチメントの改善は「恐怖指数」の安定にも表れています。恐怖指数とは、各国のオプション市場で株価指数を対象とするオプション価格を元に算出されているボラティリティ指数の俗称です。この指数が高いほど投資家が先行き警戒感を強めているリスクオフ(回避)姿勢を示し、低いほどリスクオン(選好)姿勢を示すとされます(図表1)。米景気の回復傾向にトランプ次期大統領によるリフレ政策期待が重なり、米国の恐怖指数は11.45、日本は17.75と年初来最低水準で推移しています(12月20日)。

図表1:日経平均、ダウ平均、日米市場の「恐怖指数」

(注) 米国の恐怖指数=CBOE SPX Volatility Index、日本=Nikkei Stock Average Volatility Index
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年12月20日)

(2)米国市場のアノマリー(季節性)に要注意

ただ日本株は、米国株の動きに影響を受けやすい特徴があることに注意が必要です。米国市場で知られているアノマリー(季節性)によると、平均的に年初は株価が安く始まった傾向がみてとれます。過去20年間(1996年~2015年)におけるダウ平均の年間パフォーマンスを算術平均して指数化(年初=100)し、今年のダウ平均も重ねてみると、年末の株高の反動で新年は安く始まりました(図表2)。今年も11月以降は「トランプ相場」で株式の騰勢が強かった経緯から、年明けは利益確定売りが先行する可能性があります。

逆に、年初の株価下落が投資機会(市場に参加するチャンス)となったケースは多く、新年のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)動向を視野に入れると、新年の調整もその可能性が高いと考えます。あくまで市場実績にもとづく経験則で、同様の事象が再現するとは限りません。日経平均の堅調が「一本調子」で続いていくことは考えにくく、一時的な反動安やスピード調整は、「想定の範囲」と考えたいと思います。当面、株価が押し目を形成しそうな時期やタイミングとしては、上述した「年明け」の他に、「新大統領就任日(1月20日)」、「大統領就任後100日(「ハネムーン期間」と呼ばれる)後にあたる5月初旬」をイメージしています。

図表2:過去20年のダウ平均と2016年のダウ平均

(注) 過去20年の平均=1996年から2015年までのダウ平均の算術平均パフォーマンス(年初=100)
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年12月22日)

(3)2017年に警戒したいリスク要因(ABCDE)

上述のように、新年は米国株も日本株も一本調子に上昇するとは考えにくく、季節性にせよ不規則にせよ幾度の株価調整を挟む動きとなるでしょう。これら株価調整の契機となりやすい悪材料を「リスク要因」と呼ぶとすれば、どのような要因を想定しておけば良いでしょうか。そこで、2017年を通じて市場が直面する可能性があるリスク要因を、(覚えやすいように)「ABCDE」のそれぞれを頭文字とする5つに分類してみました(図表3)。あくまで、現時点で想定できる材料であり、顕在化する可能性が高い「メインシナリオ」ではありません。換言すれば、生起確率が低いと見積もったリスクシナリオが現実化した場合、市場がこれを「ネガティブサプライズ」とみなす可能性があります。また、予め想定できなかった事象で、金融市場に影響が大きそうな事象(事件)が発生する可能性も否定はできません。

図表3:2017年に警戒したいABCDEリスク

(出所)各種報道や資料より楽天証券経済研究所作成

A(American Yield)は、ドル金利の上昇が加速する場合、米個人消費や新興国経済が受ける悪影響を意味します。特に新興国では、政府や企業がドル建て債務を増やしてきた経緯があり、ドル堅調による債務負担増加がリスク要因となる可能性があります。B(BOJ Tapering)は、日銀が出口戦略を早めるリスクです。資源・商品市況回復と円安効果などでデフレ脱却への期待が強まれば、市場が早々と「日銀のETF(上場投信)買入枠削減」や「量的緩和策の縮小」を警戒する可能性があります。C(China Risk)は、中国の経済不安だけでなく、米新政権の中国に対する強硬策が予想されるなか、地政学的な緊張が高まることを警戒したいと思います。D(Donald Trump)は、新大統領のリフレ策期待が先行していた動きに対する反動とも言えます。新大統領が貿易面や外交面で暴走すれば、金融市場が混乱・失望する可能性があります。E(Elections in EU)は、6月のBREXIT(英国のEU離脱を巡る国民投票)や米大統領選で勢いをみせた「反グローバリズム(ナショナリズム)」がEU域内で拡散していくリスクです。2017年にEU域内で予定されている選挙(3月のオランダ総選挙、4-5月のフランス大統領選挙、9月のドイツ総選挙など)で反EU勢力が台頭するなら、EUや通貨ユーロを巡る悲観が世界市場の不透明要因となる可能性があります。これらABCDEリスクは「メインシナリオ」と考えていませんが、事態の進展次第で日米株式や為替市場に影響を与える要因として目配りしていく必要があると考えています。