執筆:香川睦
要旨
- 民間調査会社のPMI(10月速報値)によると、三大先進国(地域)の製造業景況感はいずれも改善傾向を示唆。グローバルグロースの底入れは日本株を下支えする見込み。
- 日経平均との相関係数が98%と極めて高い「円換算ダウ平均(ダウ平均×ドル円)」のシナリオ別に、「2017年の日経平均のレンジ見通し(相場の中心値)」を試算してみた。
- 緩やかな米景気拡大を想定し、17年末までにダウ平均は19,500ドル、ドル円は115円を目指すと予想。日経平均の上値は19,700円、下値は16,400円程度をイメージしたい。
(1)主要国の製造業景況感が改善傾向
最近の国内株式堅調は、世界の製造業景況感改善も下支え要因になっていると考えられます。民間調査会社マークイットが24日に発表した速報値によると、10月の米国製造業PMI(購買部担当者指数)は53.2と昨年10月来の高水準に上昇。また、ユーロ圏の製造業PMIも53.4と約2年半ぶり高水準となりました。また、日本の製造業PMIも51.7と本年1月以来の高水準。中国の製造業PMIは9月時点で50.1と昨年3月以来約1年半ぶりに「50(景況感の分岐点)」を上回ってきました(図表1)。世界経済に影響度が大きい四極(米・中・日・ユーロ圏)で製造業景況感が改善していることは、「グローバルグロース(世界の経済成長)観測に感応度が強い」とされる日本株にプラス材料と考えています。実際、財務省が27日に発表した最新統計では、外国勢(外国人投資家)は4週連続で日本株を買い越しています(21日までの4週累計買い越し額は約81.8億ドル(約8,500億円))。
図表1:主要国(地域)の製造業景況感
(2)円換算ダウ平均の底入れ感が鮮明に
前述のように、世界の景況感改善、各種グローバルリスクの緩和、ドル円の底入れ感を支援材料に日経平均が底堅く推移している現状を踏まえ、今回はやや中期的な視野で「新年(2017年)を視野に入れた相場見通し」を考えていきたいと思います。そこで、「簡便的でありながら比較的確度が高い回帰分析モデル」をもとに、日経平均と極めて高い相関性が認められる「円換算ダウ平均(ダウ平均×ドル円)」のシナリオ別に、「2017年の日経平均のレンジ(上値と下値の目途)」を予想してみます。
図表2:円換算ダウ平均と日経平均の推移
図表2で示す通り、円換算ダウ平均(ダウ平均×ドル円)と日経平均は連動性が高いことがわかります。それだけ日本株が外部環境から受ける影響度が大きいということです。ダウ平均やドル円が上昇する局面は日経平均も上昇しやすく、ダウ平均やドル円が下落する局面は日経平均が下落しやすい関係が知られています。2010年以降の市場実績を回帰分析すると、円換算ダウ平均と日経平均の相関係数は98%(決定係数は96%)と、円換算ダウ平均の方向感が日経平均の先行きを占う上で説明力が極めて高いと言えます。
(3)ダウ平均と為替のシナリオごとに日経平均を予想
統計上の細かい話しで恐縮ですが、2010年以降の市場実績をもとに円換算ダウ平均と日経平均の関係を回帰分析(「Y=aX+b」を導き出す統計処理)すると、「円換算ダウ平均×0.008+1,741円」の算式で日経平均の参考目標値(中心値)を逆算することができます。
先ずは、米国株(ダウ平均)の先行きを考えてみます。2015年までの20年間を振り返ると、ダウ平均は暦年平均で約8%上昇してきました。現在、ダウ平均の2017年予想平均EPS(1株当り利益)は1,216.63ドルと、前年比12.1%の増益(業績回復)が見込まれています(Bloomberg集計による市場予想平均)。米国では景気回復に沿った緩やかな追加利上げが見込まれていますが、業績の伸びに概ね沿ったリターンが見込めるなら、新年(17年)末までにダウ平均が19,500ドル程度(予想PERで約16倍程度)まで上昇しても不思議ではないと考えています。この水準は、直近値(18,199ドル)より約7%の上昇率となります。参考までに、10月15日号の米金融紙バロンズ(Barron’s)が掲載して注目された「Big Money Poll(ファンドマネジャーに対する秋季調査)」の結果では、株式強気派のダウ平均予想(平均値)は「2017年6月迄に19,184ドル、12月迄に19,687ドル」でした。為替については、ドル円の下落(円高)が一巡しつつあると考えています。米ドルの他主要先進国通貨に対する総合的な価値を示す「米ドル指数」(DXY)はすでに年初来プラスに転じており、ドルは今年の下落分を取り戻す回復をみせています。米FF金利先物市場では、FRB(米連邦準備制度理事会)が12月に追加利上げを実施するとの予想確率が7割強まで高まっており、米国債利回りは短期債も長期債もじりじり上昇しています。FRBは来年も1-2度の追加利上げを実施すると見込んでいます。一方の日本では、日銀の金融政策を反映して長短債券金利はともにマイナス圏で推移。9月に導入されたイールドカーブ・コントロール政策では「物価上昇率が2%を超えるまで10年債の利回りを0%前後に抑える」との方針が打ち出されました。従って、日米の市場金利差は徐々に拡大していく方向と考えられ、17年の為替市場では緩やかなドル高・円安が進んでいくと想定しています。ドル円は105円から115円程度のレンジで上値を試していく展開を見込んでいます。
図表3:ダウ平均と為替のシナリオから想定する「2017年の日経平均見通し」
図表3で示す通り、「メインシナリオ」として2017年に米ダウ平均が19,500ドル、ドル円が115円を目指す動き(上述)を想定するなら、日経平均は19,700円程度(中心値)を目指す動きになると試算できます。ただし、市場が織り込んでいない(想定されてない)リスク要因が顕在化する事態となれば、再びリスクオフ(回避)姿勢に押されて米国株が下落し、一時的にせよ円高が進む可能性も排除できません。こうした「リスクシナリオ」が現実となれば、日経平均がいったん16,000円台前半まで下落する可能性も否定できません。ただし、そのようなケースでは日銀がETF(上場投信)買いを連日実施して株価の下落を食い止めようとする公算が大きいことが(PKO(株価維持策)が良いか悪いかは別として)今年前半の需給環境と異なる点と考えます。上記したモデルは、簡便な回帰分析(統計処理)にもとづく試算であり、実際の相場には「オーバーシュート(買われ過ぎ)」や「アンダーシュート(売られ過ぎ)」がつきものであることにはご留意ください。結論として、中期的な方向感として「メインシナリオ」に近い相場観をお持ちであるなら、新年(2017年)に向けた株式への投資姿勢は「押し目買い」を重視したいと思います。「リスクシナリオ」に近い相場観をお持ちであれば、株価が上昇する局面ごとに「利益確定売り」を優先する戦略が有効と考えられます。