執筆:香川睦
7月7日の日経平均は3日続落となり、前日比102円安の15,276円で引けました。英国のEU(欧州連合)離脱による悪影響があらためて不安視され、リスクオフ(回避)を受けた株式売りと円高が進行。株式市場の下押し圧力となりました。特に今週は、欧州の一部金融機関に経営懸念が報道され、国内市場でも銀行株が比較的軟調となりました。
8日の日本時間5時30分現在、為替は1ドル100.78円、CME日経平均先物(9月限)は15,290円となっています。
(1) 今晩の米雇用統計発表前に見送り気分強い
本日の東京市場は、米雇用統計(6月分)の発表を今晩に控え、見送り気分が強い動きが見込まれます。前回(6月3日)発表の雇用統計(5月分)では、非農業部門雇用者増減数が+3.8万人と事前予想を大幅に下回り、ドルが下落(円が上昇)したのを受け、日経平均が下落した経緯があります。最近は雇用統計発表日の翌日(今回は11日)に発表される「FRB労働市場情勢指数(6月分)」の動向も注目されています。イエレンFRB議長がこの指数を注視しているとされ、5月の実績が-4.8%へ鈍化したことも、「追加利上げ観測」を大幅に後退させました(図表1)。米雇用情勢の変化は、ドル金利と為替相場の変動を介して日本株の方向感に影響を与えやすいので警戒が必要です。
図表1:米・雇用統計とFRB労働市場情勢指数の推移
(2)先進国の長期金利が史上最低水準を更新
最近、世界市場で顕著となっている現象は、日米欧債券市場における一段の利回り(金利)低下です。今週も、米国、欧州、日本の長期金利(10年国債利回り)が史上最低水準を更新しました。特に、BREXIT(英国のEU離脱)リスクを受けた景気悪化観測を織り込み、英国債市場における長短金利は急低下しています(図表2)。米国経済や中国経済を巡る懸念にBREXIT懸念が加わったことで、安全資産への逃避ニーズが強まりました。
換言すれば、預貯金や債券の利回り面の魅力はこれまで以上に低下しています。 とは言え、リスク要因(不確実性)を巡る不安心理が後退しない限り、経済成長や業績見通しの早期改善は期待しにくく、株式が急速に買い戻される楽観シナリオは描くにくい状況です。特に、日経平均やTOPIXなど国内の株式指数が上値を追うには、海外株式の軟調や円高圧力が和らぐことが必要となりそうです。
図表2:日米欧債券市場の長短金利(利回り)推移
(3)米国の配当貴族(連続増配銘柄)指数に注目
BREXITリスクの余波を受け、世界株式が総じて上値が重い動きをみせるなか、米配当貴族指数(S&P500 Dividend Aristocrats Index)は今週も史上最高値を更新しました。同指数は、米国を代表するS&P500指数の構成銘柄のうち、25年以上連続して増配をしてきた銘柄群(現在は50社)で構成されています。先進国では「低成長・低金利の長期化」が見込まれるところですが、配当貴族指数の予想平均配当利回りは比較的高く(約2.4%)、今後も配当を増やし続けると見込まれる銘柄群に対する投資家の物色は強くなっています。2000年初を起点にして、米配当貴族指数と市場平均(S&P500指数)の総収益(トータルリターン)指数の推移を振り返ってみると、配当貴族指数は米国株式平均(S&P500指数)の約2.4倍の投資成果をもたらしてきました(図表3)。事業環境が厳しくなった(売上や利益が伸びなかった)局面でも、毎年(毎期)配当を増やしてきた株主重視の経営努力が、市場で高い評価を得てきたことを示していると言えます。
図表3:米配当貴族指数とS&P500指数(2000年初来)
図表4:(参考情報)米・配当貴族指数の時価総額上位銘柄
# | ティッカー | 銘柄名 | 業種名 | 時価総額 (百万ドル) |
株価 (ドル) |
1年前比 騰落率 |
連続増配 年数 |
配当 利回り |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | XOM | エクソンモービル | 石油(総合) | 390,155 | 94.09 | 13.5% | 33 | 3.2% |
2 | JNJ | ジョンソン・エンド・ジョンソン | 薬 品 | 337,339 | 122.64 | 24.0% | 53 | 2.6% |
3 | T | AT&T | 通 信 | 265,324 | 43.10 | 20.5% | 32 | 4.5% |
4 | WMT | ウォルマート・ストアーズ | 小売りチェーン | 230,071 | 73.82 | 0.0% | 43 | 2.7% |
5 | PG | プロクター&ギャンブル | パーソナルケア | 226,337 | 85.03 | 4.1% | 59 | 3.1% |
6 | CVX | シェブロン | 石油(総合) | 197,102 | 104.58 | 9.8% | 28 | 4.1% |
7 | KO | ザ コカ・コーラカンパニー | 飲 料 | 195,847 | 45.27 | 12.5% | 53 | 3.1% |
8 | PEP | ペプシコ | 飲 料 | 152,993 | 105.92 | 9.9% | 43 | 2.8% |
9 | MDT | メドトロニック | 医療用機器 | 121,969 | 87.45 | 19.0% | 38 | 1.9% |
10 | MCD | マクドナルド | レストラン | 105,896 | 120.63 | 24.8% | 40 | 3.0% |
(4)日本市場でも注目される連続増配銘柄群
米国市場と同様、日本市場でも安定して増配を続けている企業群(連続増配銘柄群)が評価されやすいと考えています。一般的に、「株主を意識した経営」が問われ始めており、企業側も株主還元策として「増配」に前向きな姿勢を示す例が多くなっています。なかでも、グローバルグロース(世界経済の成長)鈍化や為替変動(円高)から影響を受けにくい「安定成長業種」や「情報通信サービス業種」に属する連続増配銘柄の株価パフォーマンスを振り返ってみると、中期的に市場平均(TOPIX)より優勢に推移してきたことがわかります(図表5と図表6)。投資ニーズに応じて、こうした配当貴族銘柄群(連続増配銘柄群)に分散投資していくことは、低金利環境の長期化が見込まれる内外の経済・金融環境を加味すれば検討に値する投資戦略であると考えています。
図表5:(参考情報)日本の主な連続増配銘柄例
# | ティッカー | 銘柄名 | 業種名 | 時価総額 (百万円) |
株価 (円) |
1年前比 騰落率 |
連続増配 年数 |
予想配当 利回り |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 4452 | 花王 | 化学 | 2,978,136 | 5,909 | 0.3% | 26 | 1.6% |
2 | 4967 | 小林製薬 | 化学 | 383,576 | 4,510 | 1.0% | 17 | 1.1% |
3 | 8227 | しまむら | 小売業 | 570,310 | 15,450 | 24.7% | 15 | 1.3% |
4 | 9433 | KDDI | 情報・通信業 | 8,382,961 | 3,199 | 7.5% | 14 | 2.5% |
5 | 2914 | 日本たばこ産業 | 食料品 | 8,618,000 | 4,309 | -0.4% | 13 | 3.0% |
図表6:連続増配銘柄群のパフォーマンス(2013年初来)