執筆:香川睦

今日のポイント

  • 今週後半の国内株は業績改善期待で下値を切り上げる動き。こうしたなか、しばらく劣勢であったインバウンド(訪日外国人客)消費関連銘柄群の盛り返しも目立ってきた。
  • 訪日外国人客数の12ヵ月累計は4月に初めて2,500万人を突破し、前年比伸びも16.8%と依然高い。安倍政権は、「2020年に4,000万人、2030年に6,000万人」を目指す計画。
  • インバウンド関連株は、2015年以降の「爆買い一巡」懸念で総じてはいったん調整入り。ただ、消費需要の広がりと越境ECを介した日本製品の需要は根強く、見直し買いか。

(1)戻りが目立ってきたインバウンド消費関連

国内株式では、米国の政治情勢、長期金利、ドル円相場など外部環境を巡る不透明感が上値を抑える一方、週後半には業績改善期待で下値を切り上げる動きもみられました。ドル円が111円を挟む小幅な動きに終始したことで、日経平均は2万円を目前に保ち合い展開となっています。こうしたなか、訪日外国人客の消費拡大を期待する「インバウンド関連銘柄」の戻りが目立っています。2015年ごろまで中国人観光客による「爆買い」の恩恵を受けた同関連銘柄は、その多くがいったん調整入りしました。ただ、5月に資生堂(4911)が好決算を発表して以降、同社株価は1年9カ月ぶりに最高値を更新。インバウンド関連銘柄で構成される「日本インバウンド指数」(Japan Inbound Tourism Index/Solactive A.G.)も年初来高値を更新し、5月はTOPIXより優勢に転じました(図表1)。

図表1:日本インバウンド指数の年初来推移

(出所: Japan Inbound Tourism Index、Bloombergのデータより
楽天証券経済研究所作成(6月1日))

(2)訪日外国人客数の増勢は「国策」

観光庁によると、「2017年の訪日外国人客数はすでに5月で1,000万人を超えた」とされ、その増勢は「過去最速」とのこと。実際、4月の訪日客数は前年同月比24%増の約258万人となり、単月として過去最多を記録しました。観光庁が公表したデータによると、4月の「国別客数」では、スペインが前年同月比74%増、ロシアが66%増、香港が65%増と高い伸びを示しました。従来みられた「中国人客数の増加」だけに拠らず、幅広い地域からの来日で訪日客数が全体として増えている状況が示されました。図表2は、訪日外国人客数を12ヵ月分累計したものです。直近(4月時点)の水準は2,532万人と、史上初めて2,500万人を突破し、前年同期比伸びも16.8%と堅調を維持しています。今後、為替が円安傾向に回帰するなら、外国人観光客による国内での実質購買力が拡大していくことが期待できます。中長期で低迷が見込まれる「内需」を下支えし、特に地方では「地域経済」を活性化させる効果が期待されています。

図表2:訪日外国人客数(12カ月累計)とドル円

(出所:観光庁のデータ(2017年4月時点)、 Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成)

日本政府は2016年3月、インバウンド(訪日外国人旅行者数)の増勢を加速させる長期目標とその方策に関する構想を「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」で示しました。この構想で政府はインバウンドに関する従来目標(2010年までに2,000万人、2030年までに3,000万人)を、「2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人」へ大幅に上方修正しました。インバウンド増加による経済効果が、都市部だけでなく地方でも顕著になってきたことで、「地方創生」(地方経済の活性化)と「名目GDP600兆円達成」の両方に結び付けたい安倍政権の意図が窺われます。換言すれば、インバウンドの増勢とそれによる日本の商品・サービスの需要喚起は「国策」とも言えそうです。

図表3:訪日外国人旅行者数の実績と政府の新・目標

(注:日本政府観光局、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」資料
(2016年3月発表)のデータより楽天証券経済研究所作成)

(3)「インバウンド消費関連」にあらためて注目

訪日外国人観光客の需要に応える商品やサービスを提供することで収益拡大が見込まれる企業群は「インバウンド消費関連株」と呼ばれています。「日本インバウンド指数(Japan Inbound Tourism Index)」は、ドイツのSolactive S.A.が2016年に選定した74銘柄で構成されています。同構成銘柄の業種は、化粧品、小売り、消費財、鉄道・輸送、ホテルサービスなど多岐にわたっており、比較的「内需系」や「ディフェンシブ(安定成長)」と呼ばれる分野が多いのが特徴です。2015年に訪日外国人客数の伸びがスローダウンしはじめたことや、中国人旅行客の滞在行動が「爆買い」から「体験型」に変化したと指摘されると、それまでの特需的効果に一巡感が広まり、関連銘柄の中に2015年高値から株価水準を切り下げる動きがみられました。ただ、その後も日本の製品やサービスへの需要は根強く拡大してきました。具体的には、中国などアジアからの訪日客に人気の高い化粧品がその例です。日本化粧品工業連合会の調査によると、2016年における日本からの化粧品輸出額は前年比28.8%増の2,676億円と、輸入額(2,292億円)を初めて上回りました。輸出額は3年前(2013年の1,359億円)から倍増しており、訪日外国人が帰国後に購入を続ける動きがけん引しているとされ、実際に、資生堂やコーセーなどメーカー各社は国内の生産能力を増強しています。高品質を象徴する「メード・イン・ジャパン」への信頼性は高く、特に中国人訪日客の日本製化粧品購入はEC(電子商取引)経由が増えています。「爆買い」と呼ばれた「日本での大量買い」が鎮静化した一方、中国本土でECを介した買い物(輸入=日本からの輸出)が普及しています。アリババ集団など電子モールを活用した日本製品需要が増加している点に注目したいと思います。「モノからコト」(商品購入から体験)への旅行者需要変化も、2015年までの物色からの変化に繋がりそうです。

図表4:日本インバウンド指数の主要構成銘柄

(注:予想EPS、来期予想増減益率(来期予想EPSの前年比伸び)、
予想PER、予想配当利回りは、Bloomberg集計による市場予想)
(出所: Solactive S.A./Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(6月1日))