前回、「6月に利上げがなければ、失望感からドル円は急落する可能性もある」とのお話をしましたが、6月3日に発表された米雇用統計がネガティブサプライズだったため、早速ドル円は108円台から106円台に急落しました。ネガティブサプライズ( Negative Surprise )とは、経済指標などが、市場の予想よりも大幅に悪い場合を指し、予想外の悪材料によって市場が大きく反応します。反対の表現として、ポジティブサプライズ(Positive Surprise ) があります。この場合も予想外の好材料によって市場は大きく反応します。

米雇用統計は、失業率は4.7%に低下してよかったのですが、非農業部門雇用者数が予想16万人の増加に対して、3.8万人の増加と予想をはるかに下回る数字が発表されたためネガティブサプライズとなりました。この予想外に悪化した数字によって、6月利上げ期待は一気にしぼんだことから金利が低下し、ドルは急落しました。

ここ何回か為替介入の話をしたのは、ドル円が再び急落した時の備えとして、為替介入の話をしたのですが、一気に106円台で越週となったため現実味が出てきました。今回の動きを振り返りながら、その時々の心構えを実践編としてお話ししたいと思います。皆さんも振り返りながら、その時の状況に対してどのように判断したかを確認して下さい。

6月3日(金)

米国5月雇用統計が発表(日本時間午後9時30分)。失業率は4.7%に低下したが、非農業部門雇用者数が予想+16万人を大幅に下回る+3.8万人と発表されたためネガティブサプライズとなり、金利は低下し、ドルは急落。ドル円は108円台後半から107円台に急落。更にその後発表された5月ISM非製造業景況指数(日本時間午後11時発表)が予想を下回り、その内訳も構成指数である雇用、新規受注が低下したことから、ドル円は106円台に突入。106.51円の安値を付けて106.55円の安値引け。

(この動きを受けた状況判断)

  • 米雇用統計の悪化によって、FRBの6月利上げが消滅し、7月も困難か。
  • そもそも6月利上げ期待が高まったのは、先日5月27日にイエレン議長が講演した「利上げは今後数か月以内が適切」との発言によって期待が高まり、ドル高となった。翌週6日(月)にはイエレン議長の講演があるため、今回の米雇用の結果を受けて、どのように修正するのか注目される。もし、強気のトーンのままであれば、売られ過ぎたドルが反発する可能性もあり要注意だ。発言修正となれば、7月も利上げ困難となり、ドル高には無理が生じ、ドル安地合いになる可能性がある。
  • それよりも、週初、早朝からドルが売られることが予想され、場合によっては105円台に突入する可能性がある。前回の105円台は東京が休日であった。「新安値、新高値は母国市場で示現する」とのジンクスもあり、ドル円は東京市場が開いている時に105円台を見るまでは気が済まないかもしれない。
  • 同時に、前回105円台を付けた後に、かなり強いトーンで為替介入発言があったことから、政府要人の口先介入などの牽制発言にも注意する必要がある。105円台を狙う投機のドル売りと介入警戒との綱引き相場が続く可能性がある。
  • また、日本の警戒発言や口先介入に対して米国がどのような反応をするのか注目する必要がある。

6月5日(月)

先週のドル売りの流れを受け、シドニー市場で106.35円を付けたが、東京市場では106.70円近辺でオープン。日本の介入示唆発言に対して米国の牽制が出ると思っていたら、日本より前に米国から先に牽制発言が発せられた。月曜日の朝刊に、東京市場オープン前の前日5日(日曜日)にルー財務長官の北京での講演会の内容が掲載されていた。同長官は「(現状の為替相場は)秩序的だ。各国は介入の権利を持っているが、(介入の)条件を緩和すべきではない」と発言。

先手を打たれたが、米国の牽制発言を無視するかのように、早速、浅川財務官から、「為替市場動向を注視している」との牽制発言があった。そして菅官房長官からは「急激な変動望ましくなく、為替の安定が極めて重要。緊張感をもって注視して必要な時は対応」とかなり強いトーンでの発言が見られた。

(この動きを受けた状況判断)

  • ルー財務長官の発言は、名指しこそしていないが、日本に対して為替介入への牽制を意識したことは間違いないだろう。ルー財務長官には、2月のG20で「通貨の切り下げ競争を回避する」との方針を確認したことが念頭にあるようだ。北京の講演会では「為替介入を、世界経済を安定させる便利な道具と考えてはいけない」と介入拒否の断固たる姿勢を示したことは重要。今後も日本の牽制発言が行き過ぎると、すかさず米国から反論が出ると思った方がよさそうだ。
  • 早速、朝一番で浅川財務官からの牽制発言、午前中に菅官房長官からの介入示唆発言があったことは、今後も円高が進めばトーンが高まると思った方がよいだろう。菅官房長官がいきなり介入示唆発言を発するのは意外感があった。官房長官が発言するということは、当然のことながら安倍首相とも相談していることが推測される。
  • 本日(6日)のイエレン議長の講演を控えていることから、講演までは、日本からの牽制発言に敬意を表し、大きくドルを売り込まれることはなさそうである。やはり、菅官房長官の発言が効いているのかもしれない。

実況中継風にお話しましたが、今回のように米雇用統計の結果を受けた急落によって介入警戒が絡んでくるような事態に際しては、翌土曜日や日曜日の新聞記事やネットのコメントはよく読んでおく必要があります。ルー財務長官の記事は、月曜日の朝刊に出ていたことから、月曜日の朝刊も早めにチェックした方がよさそうです。もちろん、電子版であればもっと早くチェックできるのでいいかもしれません。

牽制発言が出れば相場はすぐに反応するため、相場の反応を見て、ニュースをチェックする必要があります。プロのディーラーやファンドマネージャーなどは、情報端末機器から即座に牽制発言を把握できるのですが、一般投資家はそのような道具はありません。その中で最も早くチェックできるのはFX証券会社からのニュース配信となります。今回のように、週明けに牽制発言が出て来る可能性が高いと思える時は、いつもより頻度を多くして配信ニュースをチェックする必要があります。いつ発言があるかわからず、またその発言によって動く可能性があるからです。あるいは相場が動いた要因が発言によって動いたと判断できるからです。相場の動きが先にわかるため後追いのニュースチェックになりますが、それでも新聞やネットの記事よりかは早いと思われます。従ってこまめにFX証券会社の配信ニュースをチェックすることが肝要です。

6日のイエレン議長の講演では、米雇用統計に対して「失望」したと発言し、追加利上げは「より緩やか進める」と、前回の「数か月以内」から修正しました。ドル円は利上げが遠のいたことから、ドル安となりましたが、株式市場は利上げが遠のいたことから、安心感が広がり上昇しました。株の動きを受け、ドル円は売られた後は反発し、再び107円台上昇しました。しかし、今後の経済指標によっては、再びドル安局面が起こることも十分に予想されます。米国経済指標、そして6月14-15日のFOMCの声明文の内容によっては、再び介入警戒発言を発しないといけないような場面が起こるかもしれません。同じような相場の動きは二度と起こりませんが、似たような相場の動きは起こる可能性があります。今回の動きをもう一度振り返り、その時の状況判断を確認しておけば、次の「その時」に役に立つと思われます。