ゴールデンウィークの連休中、5月3日にドル円は約1年半振りに105円台に突入し、105.55円を付けました。その後は麻生財務大臣の強いトーンでの牽制発言から反転し、109円台に戻しました。この先しばらくは、介入警戒感と日米金融政策に対する思惑(期待と失望)との綱引き相場が続きそうです。また、5月のサミット前後から夏場にかけて重要な政治イベントが続きます。この政治イベントが綱引き相場に方向を与える可能性があるため、今後の相場シナリオを描くためには、日米金融政策の会合日程を押さえると同時に、この政治イベントの日程を押さえておく必要があります。下表は、日米欧のGDP発表日、日米欧の金融政策の会合日程、日米欧の重要な政治日程を一覧表にまとめたものです。まずは、さっと一覧して流れを掴んで下さい。

2016年夏場の重要日程

注目の日程は、

  • 5月20~21日開催のG7財務相・中央銀行総裁会議
  • 5月26~27日の伊勢志摩サミットと翌28日
  • 6月23日のイギリスのEU離脱を問う国民投票とその前週の米国FOMC(14-15日)
  • 7月下旬に予定されているギリシャの巨額債務返済予定とイギリスの国民投票

以上4点の注目ポイントを考えてみます。

  • 5月20~21日開催のG7財務相・中央銀行総裁会議

まずはサミットのプレ会議として、仙台で20~21日に開催されるG7財務相・中央銀行総裁会議に注目です。会議のテーマは各国協調の財政出動が主要なテーマとなりそうですが、注目は為替レートに対する日米の不協和音が再び鳴り出すのかどうかです。4月29日、米国財務省は議会に提出する為替報告書の中で、日本を「監視リスト」の対象国に指定しました。対象国の不当な通貨安政策には「為替操作国」と認定して制裁を発動する仕組みですが、この対象国になったことも連休中に円高になった要因のひとつです。「監視リスト」の対象国になると、制裁条件に抵触していなくても為替介入はしづらいとの思惑から円買いを仕掛けられたのですが、麻生大臣は、その後も臆せず為替介入に対して強気のボールを投げ続けました。この結果、介入警戒感の方が優り、ドル円は反転したのですが、その後米国からの反応はありません。何も反応がないと、マーケットは麻生大臣の発言を米国は認めたという理解をします。「監視リスト」に指定したのに日本に対しては柔軟的との解釈をします。また、その時のマーケットの状況が不安定であれば、為替介入発言に対して米国は暗黙の了解を与えるかもしれません。G7会議で顔を突き合わせる日米財務大臣がどのような会話、発言をするのか注目です。もちろん、逆のことが起こり得ることも想定しておく必要があります。米国が了承していないのに豪速球を投げ続けていると、突然、米国からデッドボールまがいの牽制球が飛んでくることは、何十年かの経験の中では珍しいことではありません。

  • 5月26~27日の伊勢志摩サミットと翌28日

サミットでは、安倍首相の思惑通り、各国協調の財政出動が上手くまとまるかどうかに注目です。その結果を踏まえて、翌28日に景気対策のための財政出動と、合わせて消費税増税の延期を決断するのかどうかに注目です。もし、決断すれば株価は上昇し、円安に動く可能性が出てきます。7月の参院選が控えていることから、合わせ技で6月15-16日の日銀金融政策決定会合で、追加緩和(マイナス金利の拡大も含め)を実施するかもしれません。6月1日の国会会期末前の決断、シナリオとしては十分考えられますので、サミットと同時に翌28日にも注目です。

  • 6月23日のイギリスのEU離脱を問う国民投票とその前週の米国FOMC

6月23日のイギリスの国民投票の結果次第では大波乱になりそうです。EU離脱賛成となれば、ポンドは売られ、ポンド円も売られます。ドル円も引きずられて円高に動く可能性があります、株式が大きく下落すれば、世界的な下落を誘発し、このことも円買い要因になるかもしれません。また、

その前週に開催されるFOMC(6月14~15日)の政策決定にも影響がでてくるかもしれません。各地区の連銀総裁からは6月にも利上げを示唆するタカ派発言が見られますが、地区連銀総裁は足元の管轄地区の状況だけで判断すればよいのですが、イエレン議長は世界経済が及ぼす影響も含めて総合判断する必要があります。翌週に大イベントが控えていることを考慮すると、6月の利上げは見送る可能性もあります。見送れば、為替は素直にドル安に反応します。

  • 7月下旬に予定されているギリシャの巨額債務返済予定とイギリスの国民投票

7月下旬に巨額の債務返済が迫っているギリシャに対して、現在、EUで融資支援が議論されていますが、ギリシャの構造改革が前提のため難航しています。EUの融資なしでは財政危機が再燃します。そしてこの債務問題にイギリスの国民投票が絡んできます。支援協議が6月にずれ込むと、EUからの負担を嫌がるEU離脱派を勢いづかせる懸念があります。従って5月中に協議が終了しなければ、協議再開はイギリスの国民投票の後になるとの見方もあります。

欧州は非常にややこしい局面に直面しています。5月中に協議終了しても、EUからの負担が大きいとイギリスの国民投票に影響を与えることになりそうです。国民投票後の協議再開になると、7月下旬までの協議日程が短いため、マーケットに不安感を与えかねません。ぎりぎりの日程になればなるほどマーケットは不安定になる可能性が出てきます。この1年ほどは欧州債務問題はマーケットの焦点になっていませんでしたが、6月後半から7月終わりにかけて、欧州がマーケットの主要テーマになるかもしれないので注目しておく必要があります。

以上の他に、7月には日本の参院選、米国の共和党、民主党の党大会があります。党大会によって米国大統領候補が絞られます。このように5月、6月、7月は政治イベントと日米欧のGDP、それらを踏まえた金融政策とかなり要因が入り組んでいます。常に相場シナリオを修正していく必要があります。あまり思い込み過ぎた相場観をもつと、変化が生じた時に柔軟に対応できない可能性があるので注意が必要です。もう一度日程一覧表をじっくりと眺めて、何通りかのシナリオを考え、シミュレーションを繰り返しておくのが得策です。