3月5日、中国で全人代が開幕しました。全人代の正式名称は「全国人民代表大会」。全人代は日本の国会に相当する機関で、中国の憲法で国の最高権力機関と定められていますが、実際は中国共産党の指導下に置かれています。年に1回、約3,000人の人民代表が北京の人民大会堂に集まり、3月に約2週間開かれます。今年は3月5日から16日まで12日間開催されます。
人民代表は中国の各省や自治区、北京や上海など直轄市の地方人民代表のほか、人民解放軍や有力企業などから選ばれますが(任期5年)、一般の人が直接選ぶことは出来ず、中国共産党が推薦した人が代表になることが多いと言われています。
5ヵ年計画と政府活動報告
全人代では憲法の改正や法律の制定が承認され、国家主席や副主席、首相などの重要ポストが任命されます。また、冒頭で首相が施政方針演説にあたる政府活動報告を読み上げ、国防費を含めた予算案などが承認されます。特に、今回の注目は、習近平指導部が初めて立案する5か年計画(第13次2016~2020年)です。5ヵ年計画は、中国共産党が5年間にわたる経済・社会の運営方針や目標が示され、この中期計画を踏まえて毎年の施政方針を具体的に示すのが政府活動報告になります。その年の経済成長率の目標や財政、金融政策などの具体策を表明します。今年、李克強首相が政府活動報告で具体的に示した政策目標から相場予想に役立つポイントをみますと、
【経済目標】
- 2016年~20年の経済成長率目標は、年平均6.5%以上を維持
- 今年の経済成長率目標は6.5~7%
- 今年、1,000万人以上の農村人口を貧困から脱却
【施策と構造調整】
- 減税や規制緩和
- 鉄道・道路・空港など交通網などのインフラ加速(年2兆元投資〈約34兆円〉)
- 構造改革を強化。過剰生産能力の解消と国有企業改革の推進(「ゾンビ企業」の淘汰)
- 一人っ子政策の撤廃、「二人っ子政策」関連施設の拡充、総人口目標の設定は廃止
【軍事】
- 2016年の軍事予算は、7.6%増、9,543億5,400万元(約16兆7,000億円)
マーケットで最も注目される中国のGDP成長率目標は、今後5年間は6.5%以上、今年2016年は6.5~7%と設定されています。昨年のGDP実績は6.9%ですので、今年の目標の範囲内に入っており、現状追認の目標となっています。昨年からの世界金融市場動揺の震源である中国経済が、昨年と同じ成長率であり、これ以上減速しないというメッセージは世界に安心感を与えますが、果たして実現するのかどうかが注目されます。
中国政府の思惑が盛り込まれた目標と実際のGDPはどのような推移だったのでしょうか。参考までに過去のGDP実績と中国が設定した年ごとのGDP目標、5ヵ年計画の当初目標を下表のようにまとめました。
中国のGDP成長率の実績と目標推移(%)
※2015年までの実績値と2016年以降の見通しはIMFによる。
※中国国家統計局発表の2014年実績は7.4%、2015年実績は6.9%
この表を見てみますと、2006~2010年までの第11次5ヵ年計画で当初設定された目標は7.5%ですが、毎年見直された目標は8%と当初目標を超えています。そして実績値は5年を通して目標をはるかに超える高成長率で推移してきました。次の第12次5ヵ年計画では、当初の目標が7.0%と前回の5ヵ年計画の目標値7.5%から引き下げられました。そして毎年の目標もGDP実績値の低下に伴い徐々に引き下げられ、2015年の目標は7%と当初目標と同じ目標になりました。しかし、2015年のGDP実績は目標よりも低い数字となりました。このような流れの中で、今回の5ヵ年計画の目標と今年の目標が設定されたわけですが、果たして次の5年間はどのような成長路線をたどるのでしょうか。1年目でつまずくのか、1年目が底で、その後は徐々に上昇していく経路をたどるのかどうか注目です。
今回の第13次5ヵ年計画の大方針は、2020年に「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)を実現するために、農村の貧困脱却を実現し、都市部の新規就業者数を5年間で5,000万人増やして格差を縮小することを目指しています。そして安定成長と安定した社会にするために、2020年までにGDPと国民一人当たりの平均所所得を2010年から倍増させ、そのためには今後1人当たり所得を年平均6.5%以上増やすことが必要と計画されています。つまり、6.5%以下では、世界に動揺を与えるだけではなく、中国社会にも不安定要因として影響してくる可能性があります。中国はかじ取りの難しい時代に入ってきたのだなと改めて実感させられる数字です。
全人代で、黒竜江省にある大慶市の市長が、大慶市の2015年のGDPは27%減少したことを明らかにしました。大慶市には、中国最大の油田である大慶油田があり、中国の原油生産の2割を占めていますが、中国経済の低迷に伴う原油の需要減によって生産量はピークの3割減り、30年振りのマイナス成長になり失業者も増えたということです。この結果、大慶市のある黒竜江省の2015年のGDPは+5.7%と、中国全体の6.9%を下回りました。大慶市の▲27%は衝撃的な数字です。中国経済の減速が国内へ影響を及ぼし、これに世界的な原油・資源・素材価格の下落が加わって大幅なマイナス成長となったわけですが、黒竜江省など資源・素材産業が主力の地域で起こった特殊現象なのか、中国全土の回復を遅らせている象徴的な出来事なのか、現時点では判断できません。しかし、中国経済減速を震源とする世界的な景気低迷と原油・資源価格の低下は中国の国内でもかなりの影響が出ているのではないかと想像させます。全人代が送ったメッセージは、中国国内の不安を払しょくできるのか、そして世界が抱く不安を払しょくできるのか注目です。
今後は、中国の経済指標への注目度合いがさらに強まり、アジア時間帯に相場が大きく動く頻度が増えてくることが予想されます。このことは、今後、マーケットに臨むに際し留意しておく必要があります。