2016年のびっくり10大予想
前回は、分析・予想の専門機関による政治リスクを中心としたグローバルリスクの10大予測について触れましたが、経済・金融に焦点を当てた予想も年初には数多く発表されています。その中でもウォール街で注目されているのが、ウォール街のご意見番、ブラックストーン社のバイロン・ウィーン氏の「サプライズ10大予想」です。同氏による「サプライズ」の定義は、「平均的な投資家は1/3の確立でしか起こり得ないと思われている出来事が自分にとっては50%以上で起こり得るであろう出来事」と定義しています。1986年から続く同氏の今年の予想は以下の通りです。
「 2016年のサプライズ10大予想 」
- 2016年米大統領選、民主党のヒラリー候補が勝利
→共和党のテッド・クルーズ候補を打ち負かし、民主党が米上院で多数派に - 米株は下落
- Fedは2016年の利上げは1回のみ→年後半には利下げ検討も。成長率は2%以下に
- 弱い米経済と株安により海外投資家は米株を縮小→ドル安によりユーロは1.20に
- 中国は辛うじてハードランディングを回避するも成長率は5%以下に
→人民元は輸出促進のために7.0へ切り下げ - 難民問題でEUは再び崩壊の危機
→ 国家主義者、極右が台頭。崩壊決定はないが長期見通しに暗雲 - 原油は30ドル台で低迷 → 世界経済鈍化、イラン増産により需給逼迫は見られない。
- ニューヨークやロンドンなど、高級不動産が急落
→ロシアや中国の買い手が市場から撤退し、原油安により中東の投資家需要も低下。 - 米10年債利回り2.5%以下で推移
- 世界経済成長率は2%に低下
今年のウィーン氏の予想は全般的に弱気になっているようです。米株は下落し、米10年債は2.5%以下に低下。ドル安によりユーロは1.20に上昇。原油は30ドル台で低迷し、中国経済は5%以下となり、世界経済は2%に低下すると予想。このような状況なのでFRBの利上げも年内1回のみと予想しています。同氏の予想は勝率2割ぐらいですが、今年の勝率は上がるかもしれません。
予想の中で最もサプライズと思ったのは、「世界経済成長率は2%に低下」です。IMFは1月19日に世界経済見通しを発表しました。現在のマーケットの混乱を受けて、IMFも2016年の世界経済の成長率見通しを下方修正しています。昨年10月時点の3.6%から0.2%下方修正し、3.4%としました。この数字と比べるとウィーン氏の2%予想は驚きです。かなり弱気の数字です。
ウィーン氏は10大予想以外にも、少しのサプライズだがとして更に5項目加えています。追加の5項目の予想は以下の通りです。
- 米欧で100人を超える死傷者を出すような大規模なテロは減少
- 日本、アベノミクスが奏功し2015年下半期の景気後退から脱し、成長率は1%に。
円は更に弱くなり130円に。日経平均は2万2,000円へ上昇 - 投資家は金融工学への態度を硬化させる
- 製薬業界にとって大躍進の年に→寿命は延び続け、年金プログラムを一段と圧迫
- 商品価格は安定へ →。エマージング経済はリセッションから脱却し株式市場も好調に
なぜか日本の株価については2万2,000円と強気で、ドル円は、ドル安予想にもかかわらず130円の予想となっています。また、世界経済全体が2%に落ち込むにもかかわらず、新興国経済は景気後退から脱却し、エマージング株式市場も好調になると予想しています。これら番外予想の方が驚きです。
10大予想の方が、これからのマーケットを考える上でしっくりくるのですが、ひとつ注目しているのはドル安になるのかどうかです。ウィーン氏の予想では、FRBは利上げを1回しかせず、海外投資家は弱い米株の持ち高を縮小するため、資金は米国から外に逃げドル安になるというシナリオですが、この点が気になるところです。世界経済が2%成長にしかならない世界では、投資家は安全志向がさらに強まり、株より債券に投資し、従って、ウィーン氏の予想する米債10年物は2.5%以下の方向に動くのではないかと考えるのですが、つまり、資金は米株から米債に動くだけで、更に海外投資家の資金が米債投資に動くとなれば、ドルは高くなっていくのではないかという点です。そして、この場合、ドル円もドル高になり、ウィーン氏の予想する130円になるのかどうかという点です。
ドル高にもかかわらず、ドル円があまり円安にならないシナリオのひとつとして次のような考え方があります。それは、ドル高によりドル以外の通貨が下落するため、それら通貨の対円レート、いわゆるユーロ円や豪ドル円などのクロス円レートが下落する局面です。対円ではユーロ安・円高、豪ドル安・円高となるため、全般的に円高圧力が強くなり、ドル円にも円高圧力がかかり、円安を抑制していくシナリオです。あくまで考え方なのでこのように動くかどうかはわかりませんが、このような考え方もあるということは頭の中にいれておいても損にはなりません。
みずほ総研のとんでも予想
もうひとつおもしろい10大予想をご紹介します。みずほ総研が作成している「とんでも予想2016」です。
みずほ総研とんでも予想2016
1 | 米国大統領選はトランプ氏が当選 |
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2 | リオ五輪開催できず、ルセフ大統領が罷免され、レアル暴落 |
3 | 日本(あるいは日米)がAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加盟 |
4 | 日本政府がデフレ脱却を宣言。長期金利は日銀の出口政策を意識し1%台 |
5 | 消費増税先送り |
6 | 個人投資家が増加し、投資ブーム到来。株は25年振りの25,000円台に |
7 | 訪日外国人が3,000万人突破 |
8 | 男性の育児休暇取得率が上昇。「イクメン」がトレンディドラマの中心に |
9 | 仮想通貨の取扱いが急増 |
10 | リオ・オリンピックで日本は過去最高の20個の金メダル獲得 |
かなりとんでもない予想が出ていますが、おもしろい予想です。リオ・オリンピックに関する2番と10番は矛盾しているのに同時に発表するというのもかなり柔軟です。昨年は原油30ドル台、訪日来客200万人を予想していましたが、「とんでも予想」ではなく、実現してしまいました。今年も5番など案外実現する予想があるのかもしれません。このような予想を見ながら、今年はこうなるのかなあとか、こうなったら政治・経済・金融市場にどのような影響を与えるのだろうかと考えを巡らすことは、頭の柔軟体操にもよいかもしれません。