中国経済と資源安
中国経済の減速の影響は資源安や鉄鋼製品など素材価格への値下がりにも及んでいます。しかも、夏場以降、上海株の急落や中国経済の減速が鮮明になるにつれて、その値下がりは加速しており、連日紙面を賑わしています。
最も顕著な値下がりであり、その影響が最も大きい原油は、昨年の夏場には1バーレル100ドル近辺(NY原油)でしたが、その半分以下になり、その後今年の5月には60ドル近辺まで反発しました。しかし、11月には再び40ドル近辺まで下落しています。昨年の夏場からは約60%の下落、今年の高値からも30%以上の下落となっています。原油だけではありません、銅は、直近高値の9月中旬に比べ、11月に入って12%下落し、8月末の安値を下回り、6年4ヶ月振りに安値を更新しました。原油は経済のエネルギーであり、銅は経済の先行指標と言われています。景気がよくなると銅線など、製造・工業分野で大量に銅が使われるようになります。それを見越して、中国などは大量の銅を輸入し、投機目的も加わり、大量の銅の在庫を抱えてしまうことになりました。一時は、衛星写真で中国にある銅の在庫が判別できると言われたくらいです。
原油以外の資源価格も、この1年で軒並み下落しています。下表のように、8月時点の価格になりますが、昨年7〜9月期に比べ、天然ガスで5割、ニッケルや鉄鉱石が4割、石炭が1割下がっています。中国の資源消費量は、鉄鉱石や石炭、アルミニウムが世界最大、石油が米国に次ぐ第2位となっています。最大の消費国である中国の経済が減速すると、需要がぐっと減り、資源の下落がこれだけ大きくなることがわかります。最も、中国が資源の爆買いをしていた時には、資源も高騰していたわけで、その反動も加わって下落が大きくなっているようです。
資源価格の下落率(2014年7~9月と2015年8月の比較)
資 源 | 下落率 |
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天然ガス | ▲49 % |
ニッケル | ▲44 % |
鉄鉱石 | ▲39 % |
銅 | ▲27 % |
アルミニウム | ▲22 % |
石炭 | ▲14 % |
穀物や農産物価格も、この数か月で一段安となっています。下表は2014年平均と、今年の7月と11月20日の価格推移です。2014年比でみると、ゴムが4割、大豆とコーヒーが3割、綿花と小麦が約2割、トウモロコシと砂糖が1割前後と軒並み下がってきています。
穀物・農産物価格推移と下落率(2014年と2015年11月20日との比較)
トウモロコシ (シカゴ) |
大豆 (シカゴ) |
小麦 (シカゴ) |
砂糖 (NY) |
コーヒー (NY) |
綿花 (NY) |
ゴム (シンガポール) |
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2014年平均 | 4.15 | 12.44 | 5.88 | 16.34 | 177.68 | 76.26 | 195.51 |
2015年 7月 | 4.06 | 10.13 | 5.47 | 11.88 | 124.37 | 65.30 | 164.0 |
2015年11/20 | 3.63 | 8.58 | 4.89 | 15.30 | 121.90 | 60.04 | 122.0 |
2014年比 | ▲13 % | ▲31 % | ▲17 % | ▲6 % | ▲31 % | ▲21 % | ▲38 % |
単位:1ブッシェル・ドル(トウモロコシ、大豆、小麦)、1ポンド・セント(砂糖、コーヒー、綿花)、1キロ・セント(ゴム)
穀物や農産物価格は天候に非常に左右されますが、それだけではなく、中国経済減速の影響による世界景気全体の需要低迷により値が下がってきています。また、米国の利上げ思惑によるドル高によって、ドル建て商品である穀物や農産物の価格に割高感が出てきて売られやすくなります。更に、ドル高により生産国の通貨は安くなり、輸出競争力が高まり値下げしやすくなります。これらの要因はドル建てである原油や鉱物など、またそれら生産国にも同じような環境となります。
中国経済の減速と米国利上げの思惑によるドル高によって、資源、穀物、農産物と下げが加速しやすくなってきています。これらの下落が経済や金融・株式・為替市場に様々な影響を与えてくることになります。
為替相場への影響
資源安は為替相場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。まず、資源輸出が中心の国にとっては、景気が悪化し、財政が悪化することによって、金融政策が緩和気味になり、その通貨は売られやすくなります。そして、資源や鉄鋼製品などの素材を輸入している国にとっては、安価で輸入することが出来て、そのこと自体は景気にとってプラス要因ですが、マイナス要因として物価下落要因となります。あまりにも資源価格が下がりすぎるとデフレ要因となり、資源を輸入する国にとっても金融緩和政策を取ることになってきます。
欧州は、まさに原油価格の下落によって物価がマイナスとなり、追加緩和を仄めかしています。日本も2%の物価目標も達成時期がどんどん後倒しの計画(2013年4月時点は2年程度で達成。現在は2016年後半頃達成見込み)となっています。しかし、現実には物価は上がらなくなってきています。
黒田総裁は原油の影響が大きく、この要因は一時的であると説明し、エネルギーと生鮮品を除いたコア・コアCPIは基調として上昇しているため、物価は2016年度後半に向けて上昇していくと主張しています(日銀試算による9月コア・コアCPIは+1.2%となり、8月比+0.1%と上昇)。しかし、その前提となる原油価格は10月時点の見解では「2017年度終盤にかけて60ドル前半に緩やかに上昇する」としています。7月時点の「70ドル程度」からは引き下げていますが、現状の40ドル前半とはかなりかけ離れています。つまり、原油の上昇が見られない限り、目標達成時期は更に後倒しになるということになります。あるいは、先延ばしせずに追加緩和の時期を早めるということになります。もし、原油が上がらず、下がっていけば日銀の目標設定や政策変更が速くなる可能性があるということになります。こういう前提条件を知っておくことが、日銀の政策変更を予測する上で役に立つということになります。
「商品面に目を通す」
これら資源や穀物の動向は日本経済新聞の「マーケット商品」面に毎日掲載されています。21面前後の1面にまるまる商品動向や分析記事が掲載されています。また、資源や穀物、農産物の価格は毎週月曜日に掲載される「景気指標」面に出ています。この面もまるまる1面数字だけのページですが、日本や米国と欧州・アジアの主要経済指標も出ています(欧州・アジアは隔週掲載)。定期的に保管しておくと非常に役に立ちます。
「商品面に目を通す」。このことは、ディーラーとして駆け出しの頃に、ある鉄鋼商社の役員から教えてもらいました。商社が扱うのは商品が主で、為替が従ですので当たり前と言えば当たり前の話ですが、金融業界に身を置いていたため、金融・経済面しか読んでいなかった者としては目から鱗の教えでした。
商品面は読まれることが少ないですが、相場を読む上では非常に役に立ちますので、見出しだけでも必ず目を通してみて下さい。