各国経済のその後

これまで国際機関の経済見通しを参考にしながら、中国経済の見通しと中国減速による各国経済の成長見通しへの影響に触れてきましたが、その後各国の最新のGDP成長率の数字が発表されたので国際機関の見通しとどのような違いが出ているかを比較してみます。

為替を予測する上でGDP成長率の方向や数字の大きさは、その後の金融政策の方向に影響してくるため、その国の通貨を買うか売るかの判断材料として非常に参考になります。例えば、ユーロ圏の経済について、ECBのドラギ総裁は10月22日の理事会で「成長の下振れリスクがある」と発言しており、更に次回12月のECB理事会での追加金融緩和の可能性を示唆しています。11月13日、欧州連合(EU)統計局から7-9月期のGDPが発表されました、前期と比べ実質年率で+1.2%と発表され、前期4-6月期の+1.4%から減速しています。更にその前日に公表されたユーロ圏の9月の鉱工業生産指数が前月比▲0.3%と市場予想を上回るマイナスとなったことから、GDPの先行きについても楽観的になれず、12月のECB理事会での追加緩和の期待は一気に高まりました。13日のユーロは、1.08台から1.07台に、ユーロ円は132円台から131円台に売られています。

為替相場はGDPの発表直後に、予想よりも大きいか小さいかで値動きし、その後その数字が金融政策にどのような影響を与えるかを判断しながら相場が動き始めます。短期取引を好む投資家は、発表される数字に対して売買取引を行い、長期取引を好む投資家は、その数字によって次の金融政策はこの方向だと判断し、売買取引を行います。もちろん、短期も長期も両方の売買を行う投資家も多いです。ユーロは、当日の取引終了に向けて買い戻されますが、中期的な売り圧力は残っており、翌週からもゆっくりと下落しています。

直近のOECDの見通し

まずは、11月9日に発表された直近のOECDの経済見通しをみてみます。

OECD経済見通し(2015年11月時点、%)

  2015年 2016年 2017年
予測時点 6月 11月 6月 11月 6月 11月
世界 3.1 2.9 3.8 3.3 3.6
日本 0.7 0.6 1.4 1.0 0.5
米国 2.0 2.4 2.8 2.5 2.4
ユーロ圏 1.4 1.5 2.1 1.8 1.9
中国 6.8 6.8 6.7 6.5 6.2

※中国はOECD非加盟国

OECDは、世界経済と各国見通しを上記の表の通り、前回の6月時点見通しよりも軒並み下方修正しています。OECDによると、「新興経済と世界貿易の更なる急減速により、2015年の世界経済成長率は約2.9%に弱まり(長期的見通し平均をはるかに下回る数字)、短期的見通しを不安定にさせる要因」と説明しています。また、2016年、2017年については、世界経済成長率が2016年の3.3%から2017年の3.6%まで徐々に強まっていくと予測しています。しかし、「経済活動の明らかなピックアップのためには、中国の経済活動がスムーズにリバランスされ、先進国経済における投資をより一層活性化させることが必要です。」と説き、「新興経済の課題、脆弱な貿易と潜在経済成長に対する不安を考えると、6月時点の予測と比べて、下振れリスクや脆弱性の高まりが考えられます。」と、来年にむけて徐々に強まっていくと予測しながらも不安材料があると指摘しています。

このことは重要な指摘です。もう今年もあとわずかですので、来年の経済成長が上向くのか、下向くのかを考えていく必要があります。それは同時に来年の日米欧の金融政策の方向を考えていくことになり、為替相場の中期的な方向を探ることになります。そしてその成長を阻害する不安材料は何かを常に留意しておく必要があります。

直近7-9月期GDP実績と見通し

下表は、直近の7-9月期GDPの実績(実質年率)と各国政府や中央銀行の見通し、そして国際機関の見通しをまとめたものです。それぞれの見通しは、傾向的に時系列でみると下方修正していますが、それでも現時点の見通しと現実の実績値を比べると、中国を除いては開きがあります。

このように各中央銀行の見通しや国際機関の見通しと実績値とを比較していくことによって、現実とのギャップを埋めるためには政策で対応していく必要があるのではないかと考え、どのように政策対応していくのかを予想していくことが出来ます。日本は2期連続のマイナスとなってしまい、見通しとはかなりの開きが生じてしまいました。こうなると政策への期待がぐっと高まってきます。日銀の追加緩和はもちろん、補正予算との合わせ技との期待が高まっています。日本の7-9月期GDP発表後は、その期待によって円安気味に推移しています。また、欧米の実績値も前期比減速し、見通しとも開きがあります。このため政策対応としてECBは追加緩和を示唆し、米国は強気の姿勢を崩さず、利上げの可能性を仄めかしています。この政策の違いが為替市場では、それぞれの通貨の方向性を決めていくことになります。定石では円は売り、ドルは買い、ユーロは売りということになるのですが、難しいのは思惑が先行し、期待と失望が交錯する中で相場が振らされることです。12月は欧米で金融政策の変更の可能性が高まっています(FRBは12月15-16日、ECBは12月3日)。実施のタイミング時点での相場に振らされることなく、来年を見据えて、この後の経済見通しと金融政策の方向を考えながら中長期的な予想をすることが賢明かもしれません。

2015年直近の経済見通しと実績値(%)

GDP予測と実績 世界 日本 米国 ユーロ圏 中国
7-9月期実績 ▲0.8 1.5 1.2 6.9
4-6月期実績 ▲0.7 3.9 1.4 7.0
日本政府 (7月) 1.5
日銀見通し (10月) 1.2
FRB見通し (9月) 2.15
ECB見通し (9月) 1.4
欧州委員会 (11月) 1.6
IMF (10月) 3.1 0.6 2.6 1.5 6.8
OECD (11月) 2.9 0.6 2.4 1.5 6.8
世界銀行 (6月) 2.8 1.1 2.7 1.5 6.9

※7-9月期GDPは米国10/29、ユーロ圏11/13、日本11/16公表

※日銀と日本政府は2015年度見通し、世界銀行の中国予想は10月時点の予想