中国経済と米国経済
10月29日、米国商務省によって発表された米国7-9月期GDPは+1.5%(実質年率)となりました。予想(+1.6%)を若干下回り、前期の+3.9%から大幅に減速しました。減速の要因は、中国や中南米などの新興国経済の停滞とドル高で輸出が伸び悩み、設備投資も下振れしたことが要因のようです。輸出は前期の+5.1%から+1.9%と低下し、設備投資は前期の+4.1%から+2.1%と減速が目立ちました。世界経済の下振れリスクによる貿易の停滞とドル高によって、純輸出(輸出-輸入)による外需のGDPへの寄与度はほぼゼロでしたが、内需は、個人消費が+3.2%となり、前期の+3.6%から伸びが鈍ったものの、住宅投資の+6.1%と合わせ底堅い動きとなっています。また、在庫調整の下押し部分がGDP寄与度として▲1.44%もあり、成長率を大きく押下げる要因となりましたが、在庫投資の削減は将来の生産増につながり易いため、先行きの米経済にとっては悪くはないとの見方もあります。
米国のこの1年の4四半期GDPの推移は以下の通りです。
米国GDP四半期推移(実質年率 %)
期間 | GDP |
---|---|
2014年 10-12月期 | +2.1 |
2015年 1-3月期 | +0.6 |
2015年 4-6月期 | +2.3 → +3.9 |
2015年 7-9月期 | +1.5 |
米国のGDPを四半期推移でみてみると、四半期で結構振れていることがよくわかります。特に1-3月期は寒波・大雪などの悪天候の影響で景気がかなり下押しされるのが特徴です。毎年のように1-3月期のGDPはがくんと落ちています。ニューヨークに駐在していた時、12月から3月頃までは、毎週のように大雪が降っていました。平日だと学校は休校になり、会社も電車が止まり、高速道路も閉鎖になり通勤することが出来なくなります。週末だと家にこもることになります。なぜか、土曜日に降って日曜日に雪かきをするというパターンが多かったようです。この雪かきを一度でも怠ると、その次が非常に大変になります。場合によっては家に入れないということもあります。友人の中には、一晩駅前の駐車場に車を置きっぱなしにして、翌日に行ったら雪の塊になっていたという経験をした人もいます。これはニューヨークの出来事です。北海道なみの寒さでした。このような状況ですから、外食や買い物は身の危険もあり控えるので、消費はぐっと落ち込みます。一度、ニューヨークで100年ぶりの大雪のため非常厳戒態勢が発せられたこともあります。その後も、この時の大雪記録を塗り替えていることがたびたびあるようですので、帰国してからもそのニュースを聞くたびに、景気は落ち込むなとすぐに連想してしまいます。
米国のGDPは、その四半期の翌月の終わり頃に発表されます。日本と欧州は、翌々月の中旬頃の発表となり、米国が先行して発表されます。最初は速報値、翌月に改定値と発表され、上方修正や下方修正されます。上記の表のように4-6月期は、+2.3%から+3.9%と大きく上方修正されています。改定値にも相場は反応し、大きく動きますので注目しておく必要があります。
FRBの見方
FRB(米連邦準備理事会)は、10月28日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)でゼロ金利政策を維持し、利上げを見送りました。但し、声明文では「次回会合での利上げが適切か、進展を見極める」と表記し、12月の利上げを選択肢として残しました。
経済の見方についてはどうでしょうか。雇用は「就業者数の増加が鈍化している」と弱含みの表現となりましたが、個人消費や設備投資は堅調との認識を示し、米経済活動の基調としては「緩やかな拡大が続いている」との見方を維持しました。市場が注目している中国経済や新興国経済の停滞につては、どのような認識を示したのでしょうか。輸出については「弱含み」と前回の表現と同じです。しかし、輸出を取り巻く世界経済の環境については、「世界経済と金融環境を注視していく」との姿勢を示しましたが、前回9月の声明文で盛り込まれた「世界経済と金融市場の動向は米経済をいくらか抑制」との表現を削除しました。FRBは、中国など新興国経済や金融市場の動揺は気にしないとの姿勢を示したことになります。マーケットが懸念しているこれらの不安定要因はFRBの利上げの妨げ要因にならないとの認識を示し、先行きの不安材料を和らげるのに努めたようです。
しかし、米国の製造業は、ここへ来て低迷している指標が発表されています。また、中国の製造業を中心とする景況感を表すPMI(製造業購買担当者景気指数)は、11月1日に発表された直近の10月PMIは49.8と、前月と横ばいでしたが、3ヶ月連続で50を下回りました。50を割れるかどうかが景気判断の節目となるのですが、中国の景況感は3ヶ月連続悪く、直近でも悪いという状況だということになります。中国は利下げなどの景気対策をやっていますが、まだ浸透スピードが遅いのかもしれません。この中国経済の影響について、米国FRBは抑制要因にならないとの強気を示していますが、国際機関の米国についての見通しはどのようになっているのでしょうか。FRBの経済見通しと合わせて見てみます。
FRBの経済見通し(大勢見通し % 2015年9月時点)
実質GDP成長率 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 長期見通し |
---|---|---|---|---|---|
9月時点 | 2.0 ~ 2.3 | 2.2 ~ 2.6 | 2.0 ~ 2.4 | 1.8 ~ 2.2 | 1.8 ~ 2.2 |
6月時点 | 1.8 ~ 2.0 | 2.4 ~ 2.7 | 2.1 ~ 2.5 | n.a. | 2.0 ~ 2.3 |
FRBの9月時点の2015年の見通しは、6月時点と比べると上方修正されています。反対に2016年は下方修正されています。7月以降の上海株の急落やその後の世界株式、金融市場の動揺を乗り越えての上方修正は、やはり経済について強気で見ているということがわかります。それではより中立的な国際機関による米国経済の見通しはどうでしょうか。中国経済予測と比較して下表にまとめました。
IMF世界経済見通し(直近10月6日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予想時点 | 1月 | 4月 | 7月 | 10月 | 1月 | 4月 | 7月 | 10月 |
中国 | 6.8 | 6.8 | 6.8 | 6.8 | 6.3 | 6.3 | 6.3 | 6.3 |
米国 | 3.6 | 3.1 | 2.5 | 2.6 | 3.3 | 3.1 | 3.0 | 2.8 |
OECD成長率見通し(直近9月16日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
予想時点 | 2014 11月 |
2015 6月 |
2015 9月 |
2014 11月 |
2015 6月 |
2015 9月 |
中国 | 7.1 | 6.8 | 6.7 | 6.9 | 6.7 | 6.5 |
米国 | 3.1 | 2.0 | 2.4 | 3.0 | 2.8 | 2.6 |
世界銀行経済見通し(直近6月10日発表、%)
2015年見通し | 2016年見通し | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
予想時点 | 1月 | 6月 | (10月) | 1月 | 6月 | (10月) |
中国 | 7.1 | 7.1 | (6.9) | 7.0 | 7.0 | (6.7) |
米国 | 3.2 | 2.7 | ― | 3.0 | 2.8 | ― |
※10月時点の予想は、東アジア・大洋州地域の途上国の予想の内、中国の予想
IMFとOECDの米国経済の見通しは、7月、6月時点までは年始からの中国や新興国の経済停滞の影響を織り込んで下方修正されていますが、10月、9月時点では上海株の急落を挟んだ7月、8月を乗り越えて上方修正されていることがわかります。FRBの見通しと同じ方向性のようです。世界銀行の見通しは、6月時点ですが、下方修正となっています。この点については、IMFやOECDと同じ見立てです。
GDPの水準はどうでしょうか。FRBの見通しと国際機関の見通しについて、直近の予想をもう一度下表にまとめました。
GDP予測 (予想時点) |
2015年見通し | ||
---|---|---|---|
中国 | 米国 | ||
7-9月期GDP | (10月) | 6.9 | 1.5 |
FRB | (9月) | ― | 2.15 |
IMF | (10月) | 6.8 | 2.6 |
OECD | (10月) | 6.7 | 2.4 |
世界銀行 | (10月) | 6.9 | 2.7 |
※FRB見通しは中央値、世界銀行の中国予測は10月時点の見通し
一覧表で見てみると、FRBの方が国際機関よりも堅めの見通しということがわかります。FRBは強気ですが国際機関よりかは慎重な見方のようです。しかし、足元の米国経済は、直近7-9月期が+1.5%といずれの見通しよりも下回っています。在庫調整の下押し要因が、翌期にはプラス要因として働き、また内需の底堅さが続いてGDPは盛り返すのか、あるいは、原油安による米エネルギー関連企業への影響や、ドル高による海外利益の評価損と中国など新興国経済への輸出減などによって製造業不振が続くのかどうかが今後の注目材料となります。今後の米国経済を見る上では、雇用と物価はもちろんFRBも注目しており重要ですが、内需と外需、製造業と非製造業、ドル高とドル安、株高と株安、これら四つの要因にも留意しておく必要があります。10月の株式は、米株は4年振り、欧州株は6年振りの月間上昇を記録しました。このまま株式市場も安定し、新興国経済の停滞も横ばいなら、FRBの12月の利上げの可能性はかなり高くなるかもしれません。