中国経済と日本経済

中国の7-9月期GDPが10月19日に発表され、前年同期比+6.9%と6年半ぶりに7%を割れました。前回7%を割れたのは2009年1‐3月期のリーマンショック直後の+6.2%でした。リーマンショックの影響を受けた数字ですが、大規模な財政出動によって劇的に回復し、2010年1‐3月期には前年同期比+12.2%まで伸ばしています。しかし、その後は過剰投資の調整によって景気は抑制され、今回の7%割れまで減速しました。中国政府は2015年の成長率目標を「7%前後」としており、今回の数字も「7%前後とみなしてよい」と、政府の管理目標に沿って経済は動いていると自信を持ってコメントしています。マーケットの反応も、中国の7%前後の成長は織り込んでおり、市場予想(6.8%)よりも良かったことから株式市場に対してはネガティブな反応とはなりませんでした。

前回お話した国際機関による中国経済の直近の見通しは以下の通りです。今回発表された+6.9%は世界銀行以外の国際機関の見通しよりかは強い数字となっています。

国際機関の2015年中国GDP予測(%)

2015年 IMF OECD 世界銀行 アジア開銀
中国 6.8 6.7 6.9 6.8

日銀の黒田総裁は、中国GDP発表と同じ日に開催された日銀支店長会議で、景気について「輸出や生産面に新興国経済の減速の影響が見られるものの、緩やかな回復を続けている」と述べ、先行きについても「緩やかな回復が続く」と、中国経済減速が景気に及ぼす影響は限定的との見方を示しました。日銀の最近の経済予想では、4月の「展望レポート」の中間評価が7月に発表されています。それによると、暦年ではなく年度の見通しですが、2015 年度の成長率見通し(中央値)を4月時点の+2.0%から+1.7%へと下方修正しています。2016年度は+1.5%のまま据え置きとなっています。

日銀の経済見通し(前年度比、%)

  2015年度 2016年度
予想時点 4月 7月 4月 7月
GDP 2.0 1.7 1.5 1.5

果たしてこれは強気のバイアスがかかっている見通しなのでしょうか。このことを検証するために前回と同じように、より中立的な見立てをするであろう国際機関の予測を見てみます。国際機関は日本経済の見通しをどのように予測しているのでしょうか。中国経済の予測と比較して下表にまとめました。比較をするといろいろなことが見えてきます。

IMF世界経済見通し(直近10月6日発表、%)

  2015年見通し 2016年見通し
予想時点 1月 4月 7月 10月 1月 4月 7月 10月
中国 6.8 6.8 6.8 6.8 6.3 6.3 6.3 6.3
日本  0.6 1.0 0.8 0.6 0.8 1.2 1.2 1.0

OECD成長率見通し(直近9月16日発表、%)

  2015年見通し 2016年見通し
予想時点 2014
11月
2015
6月
2015
9月
2014
11月
2015
6月
2015
9月
中国 7.1 6.8 6.7 6.9 6.7 6.5
日本 0.8 0.7 0.6 1.0 1.4 1.2

世界銀行経済見通し(直近6月10日発表、%)

  2015年見通し 2016年見通し
予想時点 1月 6月 (10月) 1月 6月 (10月)
中国 7.1 7.1 (6.9) 7.0 7.0 (6.7)
日本 1.2 1.1 1.6 1.7

※10月時点の予想は、東アジア・大洋州地域の途上国の予想の内、中国の予想

各機関とも時系列で下方修正しているのは日銀と同じですが、IMFとOECDは1%未満の予測となっています。世界銀行の見通しは1%を超えていますが、いずれも日銀の予測とは大きなずれがあります。国際機関の見方と比べると日銀の見方は強気ということが分かります。

世界銀行によると、中国の輸入需要の急減が、世界経済の足を引っ張っていると分析しています。中国税関総署が10月13日に発表した9月の貿易統計によると、輸入額は前年同月比▲20.4%と、大きく落ち込んでいます。1-9月の累計でも前年同期比▲15.3%と大きく減少しています。この単月で2割を超える輸入の大きな落ち込みによって世界経済は減速するとのことですが、日本への影響はどの程度なのでしょうか。

財務省の貿易統計によると、8月の中国向け輸出は▲4.6%、9月は▲3.5%となっています。また、2015年版「通商白書」によると、中国の輸入における主要8分野で、輸入額に占める日本の割合は1~2割程度とのことです。また、最近の5年間で中国が輸入を伸ばした品目については、日本の割合は高くないと報告しています(割合が高い国としてドイツが目立つとのことです)。黒田総裁が言うように、中国の成長鈍化の影響は限定的ということなのでしょうか。

IMFは、中国の経済減速による対外的な影響について、中国の実質GDPが1%低下すると、翌年には中国以外のアジアが0.3%、アジア以外は0.15%減速すると分析しています。IMF、OECD、世界銀行の2016年の見通しでは、中国経済は減速ですが、日本経済は伸びるとなっています。IMFの分析とは矛盾していますが、日銀は、2016年度は2015年度よりも減速予想としており、この点については日銀の予測方向の方が、実感があります。

しかし、足元の日銀の景気見通しは、最近の経済指標を見ていると、やはり違和感があります。9月の中国の輸入急減が、中国経済の失速を如実に表しており、この中国経済失速の影響は他の先進国や新興国にも波及し、総合的に日本に影響してくるはずです。日本経済研究センターが10月13日にまとめた民間エコノミスト41人の7-9月期GDP見通し平均値は、9月調査時点の+1.67%から+0.55%と大きく下方修正されました。下位8人はマイナス成長の予測となっており、2期連続のマイナス予想となっています。2015年度の見通しの平均値も+1.11%から+0.97%と下方修正され、ついに1%を割れる予想となりました。政府が7月にまとめた2015年度の見通し+1.5%よりも大幅に低い見通しとなっています(この見通しも国際機関の見通しからは大きく上振れしていますが...)。

日銀と政府、及び国際機関の見通しについて、直近の日本経済の予想をもう一度まとめました。

GDP予測
(予想時点)
2015年見通し
中国 日本
日本政府(7月) - 1.5
日銀(7月) - 1.7
IMF(10月) 6.8 0.6
OECD(10月) 6.7 0.6
世界銀行(6月) (6.9) 1.1

※日銀と日本政府は2015年度見通し、世界銀行の中国予測は10月時点の見通し

日銀・政府と国際機関との予測のずれは、果たしてどちらに収束するのでしょうか。現時点では、黒田総裁は物価も成長も基調は変わらずと強気ですが、今後、見通しが下方修正された場合、あるいは発言や表現に弱気トーンが少しでも加味された場合は、一気に追加金融緩和期待が高まり、為替(円安)や株(株高)に大きく影響してきます。これら情報は、新聞やメディアで報道されていますので、今後も注目しておく必要があります。