GDP (Gross Domestic Product 国内総生産)
8月17日に内閣府から日本の4-6月期の四半期GDP(国内総生産)が発表されました。第30回掲載の「日本の経済成長率(GDP成長率)」の中でGDPの構成要素を説明していますが、今回は、GDPの中の重要な構成要素である個人消費が予想以上のマイナスだったこともあり、構成要素を前回より細かく見ていきたいと思います。
GDPとは、Gross Domestic Productの頭文字を取った言葉です。Grossグロスは「総数」、Domesticドメスティックは「国内の」、Productプロダクトは「生産」という意味で、GDPは「国内総生産」という訳になります。GDP(国内総生産)とは、日本の国内で、1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和のことです。生産やサービスは、キログラムとか立方メートルとか単位がバラバラなので、金額に置き換えて合計したものになります。個人が買い物や住宅を買う時に使うお金、企業や政府が使うお金、また、外国からモノを買ったり、外国がモノを買ってくれたりして生じるお金、これら国内で生み出された生産物やサービスはすべて、誰かがお金を払って買う、と考えて、その金額を合計した金額で経済活動を把握します。つまり、GDPは日本国内での1年間の経済活動の大きさをお金で表したものになります。
日本のGDPは約530兆円。各国のGDPの大きさは第58回「GDP500兆円で比較」に述べていますが、アメリカのGDPは日本の約4倍、EUは約4倍、中国は約2倍、BRICSは約4倍となります。米国とEU、日本を合わせると世界のGDPの50%になります。また、G20という先進国と新興国を加えたグループ20カ国でみると、世界のGDPの約80%になります。このようにGDPの金額によって世界の国々の経済力を比較することが出来ます。
GDPの経済成長率
GDPは、金額の大きさによって各国の経済規模の比較ができますが、その金額が1年間でどのくらい伸びたか、その成長率によって、その国の経済の元気度合い(活力)を比較することが出来ます。このGDPの経済成長率がマーケットでは最も注目される指標となっています。経済が好調な時はGDPの成長率は高くなり、物価が緩やかに上昇し、企業業績も上向くことから株価は上昇します。金融政策は緩和よりも引き締め気味になり、金利は上昇し、為替は高くなります。経済が後退している時はGDPの成長率は低くなり、物価が緩やかに下落し、企業業績も悪化し株価も上がりません。金融政策は引き締めよりも緩和気味になり、金利は下がり、為替は安くなります。
このGDPの成長率は、日米欧では四半期ごとに発表されます(第32回「1年間の重要日程」)。
まず、速報値が発表され、改定値、確定値と毎月修正されていきますので、その修正値も注目しておく必要があります。上方修正や、下方修正となれば為替市場ではその都度反応します。また、その修正が予想よりも大きいか小さいかによっても反応度は違うので、事前に修正の市場予想を知っておくのも重要です。
8月17日に発表された日本の4-6月期GDPは、マイナス1.6%と3四半期ぶりのマイナスでしたが、市場は既にマイナス成長を予想しており、また、予想のマイナス1.8%よりもマイナス幅が小さかったことから、発表後のドル円の反応は大きく反応しませんでした。そして前期1-3月期のGDP成長率が3.9%から4.5%に上方修正されたため、株価はこの上方修正と、マイナス成長による日銀の追加緩和期待から上昇した動きとなりました。
GDP成長率の内訳
甘利経済財政・再生相は、今回のマイナス成長に対して「中国やアメリカ向けの輸出が減少したことや、天候不順によるエアコン販売減少や増税による軽自動車の販売減によって個人消費がマイナスになるなど、一時的な要因が大きかった。7月以降のプレミアム商品券の発行や真夏日が続いているのを考えれば回復の見込みは高い」と説明しています。輸出の減少と個人消費のマイナスは一時的要因であり、今後は回復するとの見方です。民間10社の次期7-9月期の予測も平均+1.9%と、二期連続のマイナスは予想していません。これら予想が楽観的な見方かどうかを判断するためには、GDPの内訳を自分自身でも確認しておく必要があります。下表はその内訳です。
GDP成長率の内訳(前期比%、実質、名目成長率の下段は年率換算)
年 | 2014年 | 2015年 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
四半期 | 4-6 月期 |
7-9 月期 |
10-12 月期 |
1-3 月期 |
4-6 月期 |
4-6月期 年率実額 (兆円) |
実額の シェア % |
実質成長率 (年率) |
▲1.9 | ▲0.3 | 0.3 | 1.1 | ▲0.4 | ― | ― |
▲7.5 | ▲1.3 | 1.4 | 4.5 | ▲1.6 | 528.4 | 100.0 | |
個人消費 | ▲5.0 | 0.3 | 0.3 | 0.3 | ▲0.8 | 298.3 | 56.5 |
住宅投資 | ▲10.9 | ▲6.3 | ▲0.6 | 1.7 | 1.9 | 13.4 | 2.5 |
設備投資 | ▲4.6 | ▲0.0 | 0.2 | 2.8 | ▲0.1 | 73.3 | 13.9 |
公共投資 | 0.2 | 1.7 | 0.3 | ▲1.2 | 2.6 | 4.4 | 4.4 |
輸出 | 0.6 | 1.8 | 2.8 | 1.6 | ▲4.4 | 90.4 | 17.1 |
名目成長率 (年率) |
0.2 | ▲0.7 | 0.8 | 2.2 | 0.0 | ― | ― |
0.8 | ▲2.6 | 3.2 | 9.0 | 0.1 | ― | ― |
今回のGDPで最も影響を与えたのは、個人消費の▲0.8%です。個人消費はGDP金額528兆円(年率実額)の中で、56.5%を占めており、日本経済の動向を大きく左右します。2014年の4-6月期は消費税増税の影響で▲5.0と落ち込みましたが(住宅、設備投資も大きく下落)、その後はプラスを維持していました。しかし、ここへ来て大きく落ちてきました。金額にして2.3兆円の落ち込みになります。この消費下落を天候不順による一時的な落ち込みと見るか、賃金上昇が伸び悩む中で、食品値上げなどによる消費者心理の悪化が続くと見るかによって見方が変わってきます。また、輸出金額の▲4.4%もアメリカや中国経済の減速による一時的な要因と見るか、あるいは中国の経済減速は、上海株急落、人民元を切り下げる程の国内経済悪化、更に天津港の爆発事故による要因が加わったことから、なかなか回復しないのではないかと見れば、その見方が変わってきます。
企業の設備投資の下落▲0.1%も無視することは出来ません。GDP金額の13.9%を占めており、3四半期ぶりのマイナスが、中国経済の減速による世界景気の減速によって、次のGDPでもプラスに浮上しない可能性があります。このように、GDP全体の成長率と合わせ、GDPの内訳も注意して見ておくと、GDP成長率の予測も違った姿で見ることが出来ます。これらの内訳は、新聞などに掲載されており、また、内閣府のホームページからも見ることが出来ます。しかし、これらの数字は過去の数字です。今後の予想は、毎月発表されてくる消費支出や設備投資動向、貿易収支などの指標によって予測の確認、あるいはシナリオ修正を行う必要があります。更には、毎日の個人の生活感覚や、会社勤めや自営業での営業活動や、予算の企画などによって広くアンテナを伸ばし、これらGDPの内訳項目がどのような展開になるかを予測していくのも一案だと思われます。
GDP (Gross Domestic Product 国内総生産)
= 日本国内で、1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和
= 日本国内での1年間の経済活動の大きさをお金で表したもの
- GDP金額の大きさによって各国の経済規模を比較 cf. 米国GDPは日本の4倍
- GDP成長率 → その国の経済の元気度合い(活力)を表す
→ マーケットで最も注目される指標
日米欧では四半期ごとに発表。速報値の発表後、改定値、確定値と毎月修正 - 経済好調→GDP成長率は高い→物価緩やかに上昇→企業業績上向き株価上昇
金融政策→緩和よりも引き締め気味→金利上昇、通貨高 - 経済後退→GDP成長率は低い→物価緩やかに下落→企業業績悪化し株価下落
金融政策→引き締めよりも緩和気味→金利下落、通貨安
GDP成長率の内訳4-6月期年率実額
4-6月期年率実額 (兆円) |
実額の シェア(%) |
||
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総額 | 528.4 | 100.0 | 米国の1/4、中国の1/2 |
個人消費 | 298.3 | 56.5 | 最大シェア、景気を左右 |
住宅投資 | 13.4 | 2.5 | 住宅購入は付随消費に刺激 |
設備投資 | 73.3 | 13.9 | 内外消費動向に左右 |
公共投資 | 4.4 | 4.4 | 国の政策によって左右 |
輸出 | 90.4 | 17.1 | 米国、中国の経済に左右 |