記者会見、議会証言、議事録

中央銀行の金融政策のスタンスについては、理事会や金融政策委員会の後に発表される公表分や声明文で確認することが出来ます。更に直後の記者会見では詳細な説明があるので、より金融政策のスタンスを理解することが出来ます。例えば米国FRBの場合、FOMC声明文発表→直後にイエレン議長の記者会見と続きます。マーケットは声明文で反応し、記者会見でも反応する場合があるので、記者会見が終わるまでは気を抜くことが出来ません。また、記者会見がない開催月もあるため、その場合は講演会や年2回実施される議会証言の内容などで確認することが出来ます。更に後日発表されるFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録で、FOMCではどのような議論がされたのかを知ることが出来ます。

このように、日米欧の金融政策の方向性については、理事会や政策員会決定後の公表分や声明文、直後の記者会見、議事録、議会証言などを注視することによって、より政策の方向性をうかがい知ることが出来ます。これらについて下表にまとめました。

  米国FRB 日本銀行 ECB(欧州中央銀行)
総裁、議長の
記者会見
2015年FOMC開催月は1、3、4、6、7、9、10、12月の8回の内、
記者会見があるのは
3、6、9、12月の4回
(夏時間:日本時間午前3時半、冬時間:日本時間午前4時半)
・金融政策決定会合
終了後に毎回実施
(午後3時30分~ )
・国内各地での金融経済懇談会に出席した際に記者会見を行うことがあり。
ECB理事会の内、金融政策決定会合の理事会終了後に毎回実施
(夏時間:日本時間午後 21時30分、
冬時間:日本時間午後22時30分)
議事録 FOMC終了日の3週間後に公表
(夏時間:日本時間午前3時、冬時間:日本時間午前4時)
金融政策決定会合終了日の約1ヶ月後
議事要旨公表時間
(午前8時50分)
2015年1月分から公表
理事会開催の4週間後
総裁、議長の
議会証言
年2回、2月と7月の第3週に上院の銀行委員会と下院の金融委員会にて金融政策と経済状況について証言。
議会証言は旧ハンフリー・ホーキンス法(インフレ抑制などを目的とした法律。2000年に失効)によって定められていたが、法律失効後も慣例により継続されている。
財務金融委員会や予算委員会など、国会に参考人として招聘されれば出席  

市場との対話、コミュニケーション

上記の表を見てみると、最も多く記者会見や国会で証言しているのは日銀の黒田総裁というのがわかります。黒田総裁は、本当によく国会に出席しています。昨年10月7日には参院予算委員会で民主党の質問に答えるため、同日開かれる金融政策決定会合を途中1時間半程中断し、国会で答弁しました。金融政策決定会合が中断されるのは当時の総裁だった速水優氏が国会に出席した1998年9月以来で異例のことです。このように国会でこまめに答弁されるのは感心するのですが、市場との対話、コミュニケーションという観点から見ると、黒田総裁の発言には2%の物価目標に固執し過ぎており、国会答弁や記者会見での記者からの質問に対する答弁には物足りなさを感じます。

市場との対話を上手く取れば、金融政策の変更による市場へのインパクトを最小限に抑えることが出来ます。ところが、昨年10月の日銀の追加金融緩和決定は、それまでの発言からは予想できなかったサプライズ決定だったため、市場は大きく揺れ動きました。この結果、黒田総裁の発言と政策決定の整合性は読み取りにくくなり、市場に疑心暗鬼を芽生えさせることになりました。これ以降、毎回の政策決定会合前には追加緩和の期待が高まり円安となり、変更がないと失望から円高になる動きがみられ、市場の揺れを大きくさせる要因となっています。

市場とのコミュニケーションがうまいのは米国です。各地区の連銀総裁は、タカ派、ハト派にかかわらず、またFOMCでの投票権のあるなしにかかわらず、講演会などで現在の金融政策に対して自らのスタンスを明らかにしているのがわかります。時には、自分がハト派である場合には、タカ派の発言や考え方を引用しながら政策の方向性に賛否を唱えています。そしてイエレン議長は、これら各連銀総裁の発言を踏まえて発言をしているのがわかります。かつ、市場の疑心暗鬼を払拭するのが上手く、また、市場が偏った期待に傾くと、すかさず偏りを解消するような発言を市場に与えたりします。

例えば、今年に入って、米国の利上げは早ければ4月との見方が高まっていましたが、2月24日の上院の銀行委員会での議会証言で、イエレン議長は、利上げに「忍耐強くなれる」理由として、「あと数回の会合(FOMC)では米経済が利上げを保証できる状態になりそうもない」と判断しているからだと説明し、「あと数回」のFOMCでは利上げを想定しにくいとの考えを表明しました。「あと数回」とは、2回を意味し、最短で6月となり、4月利上げ観測は払拭されたことになります。同時に「少なくとも」との発言を加えることによって7月以降に先送りもできる微妙な言い回しをしました。

そして3月18日のFOMCでは、予想通り声明文から「忍耐強くなれる」との文言が削除されましたが、金利予想を下方修正し、経済見通しもGDPも物価も下方修正されたため、利上げ時期後倒し観測が高まり、ドルは過去6年で最大の下げとなりました。イエレン議長は記者会見で、景気判断の変化がインフレ率予想の引き下げを含めた予測の下方修正の背景にあると説明しました。

そして、4月8日、その時のFOMC議事録(3月17日~18日開催分)が公表されました。議事録によると、何と、利上げ時期の意見が3つに割れていたことがわかりました。数人が6月の利上げが正当化されると指摘し、残りの多くは「今年後半」、そのほかの2~3人は来年まで待つべきだと主張したとあります。そしてイエレン議長は、最近の講演で「今年後半」という表現を使っていることから、「今年後半」がいまの多数派ということがわかります。このように2月の議会証言、3月のFOMC、4月の議事録公表によって、利上げ時期の後倒しの可能性を市場に広め、その結果生じたショックは3月のFOMCの金利予想と経済見通しによってのみであり、そのショックもマーケットに吸収されてしまいました。

このように市場とのコミュニケーションをうまく取っているため、利上げの時期が後倒しになってもショックは一時的であり、また、利上げをするということについては、市場にサプライズを与えず、その影響は和らぐことが予想されます。いわゆる、マーケットに利上げ要因を織り込ませ、また時期の後倒しについても織り込ませたということになります。更に、もし、利上げが年内にない場合、「年内にない」ということを和らげるため、それを示唆する発言が増えたり、金利・経済見通しが修正されるというパターンが予想されます。FOMC、記者会見、講演会、議会証言をひとつの流れとして見ておく必要があります。