中国の「脱ドル」経済圏形成
中国がBRICS開発銀行やアジアインフラ投資銀行など新しい国際機関の創設の動きをしており、この最終目的は「非米国」、「脱ドル」の経済圏形成を狙っているとのお話をしましたが、通貨の面から捉えると人民元の取引拡大、すなわち「人民元の国際化」、そして通貨覇権を狙っているということになります。戦後の米英の国際金融体制下のドル基軸通貨体制に風穴を開け、アジア圏を中心にアジアの成長とともに人民元の取引拡大によって人民元基軸通貨体制にもっていくという戦略です。
外貨準備と国際資金決済
それでは、現在のドルを含めた国際通貨の位置付けというのは、どのような状況にあるのか見てみます。下表は世界の外貨準備と資金決済取引、世界の為替売買高、そしてSDR(Special Drawing Rights)の主要通貨の構成比率を表にしたものです。通貨の構成比率は変化していきます。この変化の傾向を見れば、どの通貨がよく使用されるようになったのか、つまり、よく買われるようになったのかと考えれば、相場予想の参考になります。
外貨準備 2014/9末(%) |
資金決済 2014/12末(%) |
世界の為替取引 2013/4(%) |
SDR(%) 2010年(2005年) |
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ドル | 62.3 | 44.6 | 87.0 | 41.9(44) |
ユーロ | 22.6 | 28.3 | 33.4 | 37.4(34) |
ポンド | 3.8 | 7.92 | 11.8 | 11.3(11) |
円 | 4.0 | 2.69 | 23.0 | 9.4(11) |
カナダドル | 1.9 | - | 4.6 | - |
豪ドル | 1.9 | - | 8.6 | - |
人民元 | - | 2.17 | 2.2 | - |
まず、世界の外貨準備に占めるドルの構成比率は62.3%となっています。2014年3月末の60.8%からは上昇していますが、2001年の73%のピークからは減少しています。ユーロは、1999年の誕生によって、ドルに取って代わる勢いで比率を伸ばし、2009年には28%まで上昇しましたが、現在は22.6%と減少しています。2010年の欧州債務危機以降、減少してきたようです。
比率が増えてきているのがカナダドルと豪ドルです。これら二つを合わせると円の比率に匹敵する数字となるため、今後は注目する必要があります。中国、日本、サウジアラビアに次いで世界4位の外貨準備を有するスイスは、カナダドルの比率を引き上げました。また、南アフリカも豪ドルなどへ外貨準備を多様化させる方針を表明しています。これらの外貨準備多様化の動きの中で、人民元を外貨準備に組み入れる動きも広がりつつあります。台湾はすでに人民元を外貨準備に組み込んだと表明しており、また、すでに10カ国が人民元を外貨準備として活用しているという話もあります。
次に、世界の資金決済に占める通貨の比率を見てみます。スイフト(国際銀行間通信協会)によると、2014年12月の世界の資金決済に占めるドル決済の比率は44.6%、ユーロは28.3%となっています。外貨準備の比率にくらべるとドルは下がり、ユーロは上がっています。現実のビジネスの世界ではユーロの比率が上がってきていることがわかります。
そして、注目すべきは、人民元の資金決済が伸びており、2.69%の日本に迫る第5位に浮上してきていることです(10月の1.59%から12月に過去最大の2.17%)。中国は、中国経済の規模の拡大に加え、ここ数年で国際的な貿易や投資に人民元を使えるようにする規制緩和を加速しています。人民元はドルや円などと異なり、他の通貨と自由に交換できませんが、中国政府は人民元取引の決済銀行を過去1年で3倍以上の14カ国・地域に増やしました。このように人民元を国際通貨として流通させる「脱ドル」の経済圏を着々と進めていることがわかります。
世界の為替取引高をみても、人民元の取引は増えてきています。ドルが圧倒的に87%という比率ですが、例えば、豪ドルは10年前には4%に満たない比率でしたが、2013年には8.6%と倍以上に延びています。中国も、現在は2.2%ですが規制緩和が進み、人民元の決済取引が増えていけば、為替取引も増えていくことが予想されます。
SDRの構成比率
そして中国政府は、今年2015年にIMFが予定している5年ごとのSDR(特別引き出し権)の構成通貨の見直しに合わせて、人民元の採用を目指しています。SDRは、Special Drawing Rightsの略で、IMFの加盟国の準備資産を補完するために1969年に創設されました。1種の合成通貨で、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円の4通貨で構成する通貨バスケットで価値が決められています。外貨不足の国はSDRと引き換えにドルなどを入手することが出来ます。構成比率は表の通りですが、5年ごとに経済状況や貿易、金融システムの状況に応じてその比率が見直されます。例えば、2005年と2010年の比較では、ドルと円の比率が下がり、ユーロとポンドの比率が上がっています。この枠組みの中に、中国は人民元を押し込み、第5の国際通貨の地位の確立を狙っています。
IMFのラガルド専務は、今年、上海での講演で、「SDRへの人民元の採用は、採用されるかどうかの問題ではなく、いつ実現するかという問題だ」と述べ、構成通貨に採用されるとの見解を示しました。ただ、「依然として多くの作業が必要とされており、これは誰もが認識していることだ」と時期は不明との認識も示しています。
ドルの基軸体制構築は戦後70年の話であり、戦前はイギリス・ポンドが国際金融の基軸通貨であったように、基軸通貨が時代の変遷とともに変わっていくことは歴史が証明しています。70年や100年は、中国の時間感覚からは大した長さではないかもしれません。1999年のユーロの誕生とともにユーロがドルに取って変わるという期待は高まりましたが、2010年の欧州債務危機によって動きはもたついています。中国はその間隙をついて、一気に通貨覇権を狙ってくるかもしれません。中国主導の新しい国際機関の創設の動きも、通貨覇権という観点からみるとおもしろいかもしれません。短期的な為替相場の予測には役に立ちませんが、長期的な、いや超長期的な予想ということも考えておくことは大切だと思います。