IMFと世界銀行

ここ何回かでG7やG20、あるいはBIS会議など主要国際会議の話をしましたが、それら国際会議に準主役として参加する国際機関があります。それはIMFと世界銀行です。IMFや世界銀行(略して世銀と呼びます)は、よく新聞やTVで耳にされると思いますが、それら国際機関の成り立ちを理解しておくと、国際経済の流れや金融・為替市場の動きを予測する上での参考になります。

IMF

IMFはInternational Monetary Fund の略で、国際通貨基金といいます。 財務省HPによると、IMFは1944年7月に米国ニュー・ハンプシャー州のブレトン・ウッズにおいて開催された連合国国際通貨金融会議において調印されたIMF協定に基づき、1945年12月に設立されました。日本は、1952年8月13日、53番目の加盟国として加盟しました。現在の加盟国数は187ヵ国(2011年2月現在)。IMFは世界のほぼ全ての国が加盟する国際機関となり、国際金融の安定性と金融に関する協力の推進に取り組んでいます。その期待される役割もますます大きくなっています。

IMFの主な業務は、

  • 加盟国からの出資等を財源として、対外的な支払い困難(外貨不足、国際収支赤字)に陥った加盟国に、一時的な外貨貸付という形で支援を行い、その国の危機克服の手助けをする。
  • 世界全体、各地域および各国の経済と金融の情勢をモニターし、加盟国に経済政策に関する助言を行う(サーベイランス、政策監視)。

①は、1997年のアジア通貨危機や2010年の欧州債務問題の時にIMFは活躍しています。また、②については、新興国ばかりでなく先進国に対しても助言を行います。例えば、2014年6月に発表した米国に対する年次報告書では、FRBによる利上げの時期について「市場予想の2015年半ばよりも長く政策金利をゼロにとどめる余地がある」、また米雇用については「米完全雇用の到達には、2017年末までかかる」と指摘しています。更にIMFのラガルド専務は記者会見で「政策金利の正常化は緩やかに進めることが正しい方法」と米FRBに対して慎重な政策運営を求めています。米国の利上げによって新興国から資金が流出し、通貨が売られ、株式市場や金融市場が動揺する悪影響を考慮すべきだということをほのめかしています。このニュースを受けて、為替市場はハト派的と捉え、ドルはやや売られました。

世界銀行グループ

世界銀行といっていますが、「世界銀行」という銀行はなく、世界銀行グループとして、途上国の異なる発展段階や多様な資金需要に応じるため、国際復興開発銀行(IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)等の目的の異なる複数の機関によって構成されています。世界銀行グループは、その名が示す通り、世界中の地域から様々な国々が加盟し(約190ヵ国)、これらの地域の開発途上国に対し幅広い援助を行っていることから、まさに“世界の銀行”、あるいは“世銀”と呼ばれています。

世界銀行の歴史は、財務省HPによると、やはりIMFと同じく1944年7月に開催されたブレトン・ウッズ(米国ニューハンプシャー州)会議に遡ります。この会議では、第二次世界大戦後の世界経済の安定と発展について協議が行なわれ、国際通貨システムの安定を目的とする国際通貨基金(IMF)と戦争で疲弊した諸国の経済復興を目的とする国際復興開発銀行(IBRD)の設立が合意されました(2つの機関を総称して、ブレトン・ウッズ機関と呼びます)。

要するに、第二次世界大戦後の世界経済システム構築のために、IMFは国際金融制度の要であるドル基軸通貨体制の円滑な運営のための監視・助言を、世界銀行は先進国の復興と発展途上国の開発に注力し、米英主導の戦後世界経済の復興と発展を支える機関としての役割を担ったということになります。

現在、日本は世界銀行グループ各機関において第2位の出資国であり、積極的な資金貢献を行っていますが、かつては世界銀行からの借入国でした。1952年に加盟した後、1953年から借り入れを行い、黒四ダムや、あの東海道新幹線、東名高速道路など合計31件・8億6300万ドルを借り入れ、戦後の日本経済発展の基礎となった重要な産業・インフラストラクチャーの整備に大きく役立ちました。

出資比率と人事

IMFと世界銀行(ここではIBRDのみ)の出資割合は下表の通りです。米国を筆頭に主要国の占める割合は、IMFで44.3%、世銀で40.5%を占めていて、これら主要国の発言力が大きいのはいうまでもありません。しかし、リーマンショック以降、IMFでは新興国の発言権拡大を目指す動きが、経済力の進展とともに活発となってきています。

出資割合の大きさは、人事に反映されていますが、IMFも世界銀行も米国が筆頭出資者ですが、1944年のブレトン・ウッズ会議以来、「世界銀行総裁は米国人、IMF専務理事は欧州人」という不文律が続いています。

IMF出資割合(2012/12決議)

  • 米国17.41%
  • 日本6.46%
  • 中国6.39%
  • ドイツ5.59%
  • 英国4.23%
  • フランス4.23%

世界銀行(IBRD)の出資割合(2011/3決議・予定)

  • 米国16.7%
  • 日本7.2%
  • 中国4.6%
  • ドイツ4.2%
  • 英国3.9%
  • フランス3.9%

IMF専務理事

IMF専務理事はIMFの実質の長として業務を行います。任期は5年。日本を含む五大出資国の任命理事5人とロシア、中国、サウジアラビア、その他の各地域を代表する専任理事の19人の計24人で構成する理事会の議長となります。可否同数の場合の決定投票のみに投票権を持ちます。欧州債務問題以降、IMFは金融支援に深く関わってきたことから金融市場におけるIMFの存在感が高まり、IMF専務理事の発言はマーケットに影響を与えるようになってきました。例えば、直近2月の発言だけでも、ギリシャ金融支援については、

「ギリシャは成長を推進し、財政に慎重な政策が必要」
「ギリシャのユーロ離脱は協議されなかった」
「ギリシャの金融状況は著しく改善した」
「ギリシャは経済成長を推進し、財政的には思慮ある方針が必要」

などなど、ギリシャに対して支援的な発言を繰り返しています。これが、もし、ギリシャの動きに対して批判的な発言が続けば、マーケットはすかさずユーロ売りに反応するでしょう。

また、ECBが量的緩和策を決定した直後には、
「ECBの措置は正しい」「構造改革が必要」 とすかさずコメントを発しています。

このようにIMF専務理事の発言は常に注目しておく必要があります。TVでコメントされることはあまりないですが、重要な発言は新聞に出ます。また、G7やG20の会議の参加構成員でもあるため、これら会議の時にも各国の財務大臣や中央銀行総裁ばかりでなく、IMFの専務理事の発言にも注目しておく必要があります。

現在の専務理事はフランス出身のクリスティーヌ・ラガルド氏です。G8初の女性財務相から2011年にIMF初の女性トップとして就任しました。シンクロナイズド・スイミングの元選手でスタイルがよく、米「ヴォーグ」誌にも登場し、発言だけでなくその装いも注目を浴びています。就任時にもうひとつ話題になったのは、ラガルド氏自身の話ではないですが、前任の同じくフランス出身のストラスカーン専務理事が、ワシントンからパリに行く直前に空港で暴行容疑のため逮捕されたことです。欧州債務問題が起こっている中で、それなりの役職の人がそういう事件を起こすのかと思わせる程の全く不可解な事件でした。ストラスカーン専務理事の辞任によって、後任としてラガルド氏が選任されました。ストラスカーン氏は、フランスの次期大統領候補とも言われていましたが、政治的基盤を全く失ってしまいました。