ダボス会議
各国政府や国際機関主催の会議ではないですが、民間主催の会議で注目すべき会議があります。毎年1月末に開催される通称「ダボス会議」と言われる会議です。この会議は民間主催の会議ですが、主要国の元首も参加し、その年の政治や経済でテーマになる議題が議論されます。議論の内容や発言などはメディアにのる場合が多いので、新聞などでダボス会議という記事が目に入ったら読んでおくと役に立ちます。世界の要人達はその年の世界の政治経済のテーマをどのように考えているのか、それらを知る上での参考情報になります。
ダボス会議は、スイスの経済学者クラウス・シュワブ氏が会長を務める非営利団体「世界経済フォーラム」の年次総会(WEF年次総会)の通称です。
※ WEF=World Economic Forum Annual meeting in Davos
同氏の提唱で1971年に発足し、毎年1月末にスイスのリゾート地ダボスで開催されることからダボス会議と言われています。ダボス会議では各国の政治指導者や大企業の経営者、著名な学者などが一堂に会し、その年の世界の課題を議論するため注目されています。日本の首相も過去には参加しています。森喜朗氏が2001年に初めて参加し、その後2008年に福田康夫氏、2009年に麻生太郎氏、2011年に管直人氏、2014年には安倍首相が参加して講演を行っています(2015年は不参加)。
現職の要人以外にも、将来性のある人物なども招待されています。無名の頃の米国のクリントン氏(当時アーカンソー州知事)や政権を取る前の細川元首相が招待されていたのは有名な話です。 逆に言うと、招待されるとその後の経済や政治の世界でキーパーソンになる可能性が高いということかもしれません。ダボス会議の出席者をチェックするのもおもしろいかもしれませんが、なかなかこのような情報は取れません。
今年のテーマは地政学リスクと欧州リスク、構造改革
2015年は約140か国から2,500人以上が参加し、1月21日~24日の会期中に大小約300のイベント(分科会)が開かれました。ダボス会議は世界の絆と協調をめざしてきた会議ですが、今年の会議では、ウクライナや中東を巡る地政学リスクの高まりが懸念され、国際的な緊張の高まりを反映する会議となったようです。経営者からも地域紛争の拡大が世界経済に悪影響を及ぼす懸念が表明されています。チューリッヒ保険のCEOは「地政学リスクの影響をはかるのは難しいが、世界経済を脆弱にするのは確かだ」と指摘し、多くのCEOからも同様の懸念が表明されています。
今年の会議で、もう一つの不安材料として指摘されたのが欧州リスクです。失業率が高く、特に若年失業率が高く、景気低迷も長引く中で欧州の人々の不満は高まっています。その不満がEU(欧州連合)や既存政党を批判する新しい政治勢力の台頭を招いていることに警戒感を表明する声が相次いだようです。ギリシアの今回の選挙がその例です。財政緊縮路線派の政治家は敗れ、これまでの見直しを主張する勢力が台頭してきたのです。この勢力台頭は欧州政治や世界経済に混乱をもたらす可能性が高いことが予想されます。このように、ギリシア債務問題だけではなく、欧州の政治・社会情勢の不安定化そのものが世界経済に悪影響を及ぼすというリスクを世界中が注目し、懸念しているのがわかります
今年の会議での流行語は「格差」(inequality)と「構造改革」(structural reform)でした。流行語になるということは、関心が高く注目されているということです。「格差」はここ数年繰り返し語られてきたようですが、これに対し、「構造改革」の方は今年一気に用例が増えたそうです。「構造改革」は、日本ではおなじみですが、今回は欧州、中国、ロシア、インド、ブラジルなど新興国が次から次へと自国の経済の「構造改革」の必要性を強調したそうです。これまでの成長モデルが行き詰まり、路線の見直しを迫られているということになります。こういうことも相場予想のヒントになります。新興国は、すでに安泰な成長一本路線ではないということがわかります。
世界経済フォーラム報告書(世界のリスク)
世界経済フォーラムは、毎年1月に世界のリスクについて報告書を発表しています。世界の数百人の専門家が経済、環境、地政学、社会、技術の5分野、計約30のリスクを評価し、報告書をまとめています。世界にとって今後最大の脅威は国家間の紛争と報告書は述べており、そのなかで軍事紛争に加え、経済制裁や資源の奪い合い、サイバー攻撃など、争いの手段が広がりを見せていることに懸念を示しています。
報告書がまとめている、今後10年間に発生する可能性が高い世界のリスクは次の通りです。
- 国家間の紛争
- 異常気象
- 国家統治の失敗
- 国家の崩壊または危機
- 構造的な失業・不完全雇用
ちなみに昨年2014年1月発表の報告書では、
- 深刻な所得格差
- 異常気象
- 構造的な失業・不完全雇用
- 気候変動への適応の失敗
- 大規模サイバー攻撃
が挙げられています。この報告書は、今後10年間に発生するリスクということで長期的なリスクになりますが、世界情勢を大局的に捉えることに役に立ちます。第33回掲載の「今年の10大リスク」と合わせて読むと、短期リスクか長期リスクかと捉えなおすことが出来、相場予測に、あるいはマーケットのリスク回避に大いに役に立ちます。
- ダボス会議
- 世界経済フォーラム年次総会 (WEF)
WEF=World Economic Forum Annual meeting in Davos
毎年1月末にスイスのダボスで開催
政治指導者や大企業経営者、学者など2,500人が参加
2015年のテーマ ウクライナや中東の地政学リスク、欧州リスク、構造改革
世界経済フォーラム報告書(2015年1月発表)
今後10年間に発生する可能性が高い世界のリスクは、
- 国家間の紛争
- 異常気象
- 国家統治の失敗
- 国家の崩壊または危機
- 構造的な失業・不完全雇用