年の初めに一年間の重要イベントの日程を押さえるのと同じように、国内外で発表される世界の10大リスクを押さえておくことも、年初めのかかせない行事です。
第18回「地政学リスク」の中でお話したグローバル・リスクは、為替の変動要因である経済要因や政治要因を含めた、世界全体のリスクはどこにあるのかというリスクのことです。世界の動きの大きな流れはどちらの方向に動いているのか、その中でのリスクはどこにあるのか、そのリスクは大きくなるのかならないのか、などを把握しておく必要があります。そして為替、株式、金融市場にどの程度の影響を与えるのか、年初めに考えておくことは、その後の相場を予測する上でも非常に役に立ちます。
世界のマーケットで最も注目されているのが、政治リスクの調査やコンサルティングを手掛ける米国のユーラシアグループ(イアン・ブレマー社長)が毎年年初に発表している「世界の10大リスク」です。情報自体は有料ですが、数日たつと新聞やネットに概要が公開されてきますので、それを参考にすることが出来ます。「2015年の世界10大リスク」は以下の通りです。
ユーラシア・グループ 「 2015年世界10大リスク」
- リスク1: 欧州の政治情勢
- リスク2: ロシアの外交と経済
- リスク3: 中国経済減速の影響
- リスク4: 金融の兵器化
- リスク5: 「イスラム国」の拡大
- リスク6: 「現職」指導者の弱さ
- リスク7: 戦略(産業)部門の台頭
- リスク8: サウジアラビア対イラン
- リスク9: 台湾と中国
- リスク10: トルコ
最大のリスクとして、「欧州の政治情勢」を挙げています。フランスやイギリス、ドイツでも反・EU(欧州連合)勢力が支持を広げ、各国の政権の選択肢を狭めると予想しています。なお、1月25日にギリシアの総選挙が行われ、野党・急進左派連合が過半数に迫る勝利となった事を受け、債務危機再燃が懸念されており、欧州が混乱する可能性があります。また、パリでの新聞社襲撃テロは、移民排斥を強める可能性があり、反・EU勢力を勢いづける可能性があります。ブレマー氏はEUが解体する圧力がこれまでより高まっていると指摘しています。反・EUからユーロ離脱の選択肢が俎上に上がってくれば、ユーロ売りとなります。第2のロシア・リスクについては、ウクライナ問題を背景としたロシア制裁によってロシアが困窮しているため、東アジアで何かが起きるリスクよりも、ロシアとヨーロッパとの間に起こる可能性の方が高いと指摘しています。また、第3の「中国経済減速の影響」については、中国への依存が高いブラジルなど資源国の経済が打撃を受けると予測しています。
このほかウォール街で注目を集めるのが、ウォール街のご意見番、ブラックストーン社のバイロン・ウィーン氏の「サプライズ10大予想」です。1986年から続く同氏の予想は以下の通りです。
「 2015年のサプライズ10大予想 」
- FRBの利上げは、2015年半ば以前
- サイバー攻撃が悪化
- 米株ラリーは2015年も継続、S&P500は15%上昇
- ECBは量的緩和を決定するが、深刻な不況に陥る
株は下落し、政治的にはヨーロッパは右傾化 - 日銀による「衝撃と畏怖」、2015年は影響力喪失
景気後退は続き、株は横ばい。ドル建て日経平均は下落 - 中国の成長率、7%割れへ
- 原油安がイランに影響を与え、核兵器開発中止に
- 原油は40ドル台に下落するが、下半期には70ドル台に回復
プーチン大統領は年末迄に辞任 - ハイイールド債と米国債のスプレッドは縮小へ
- 共和党、多数派の威力をフル活用
米国情勢や米国金融市場が中心の予想ですが、2014年は同氏の予想通り、日米株は上昇し、ドル高となりましたが、原油高と米国債券利回りの上昇見通しは外れました。
日本でも毎年年初に発表しているところがあります。PHP総研のグローバル・リスク分析です。これは発表と同時にネットで見ることが出来、また日本の観点からのリスク分析が多いため参考になります。PHP総研が発表した2015年の10大グローバル・リスクは以下の通りです。
グローバル・リスク2015
- リスク1. オバマ大統領「ご隠居外交」で迷走する米国の対外関与
- リスク2. 米国金融市場で再び注目されるサブプライムとジャンク債
- リスク3. 「外国企業たたき」が加速する、景気後退と外資撤退による負の中国経済 スパイラル
- リスク4. 中国の膨張が招く海洋秩序の動揺
- リスク5. 北朝鮮軍長老派の「夢よ、もう一度」 ―核・ミサイル挑発瀬戸際外交再開
- リスク6. 「官民総債務漬け」が露呈間近の韓国経済
- リスク7. 第二次ウクライナ危機がもたらす更なる米欧 -露関係の悪化と中露接近
- リスク8. 無統治空間化する中東をめぐる多次元パワーゲーム
- リスク9. イスラム国が掻き立てる先進国の「内なる過激主義」
- リスク10. 安すぎるオイルが誘発する産油国「専制政治」の動揺
詳しい内容はネットで調べることができます。項目を一覧するだけでも、専門家はこのように見ているのだと分かるため参考になります。
このように、専門家の考えている10大リスクや10大予想を知っておくと、今回起こったパリのテロ事件は、専門家が今年最大のリスクと考えているリスクにつながる可能性があると理解することが出来ます。また、新聞やTVからの情報やニュースの見方が変わってくると思います。この記事はリスクになるぞ、あるいは、この事件は大きなリスクになるのではないか、と予測することが出来るようになってきます。そのことの繰り返しが、相場を予測する上で大いに役立ってきます。