相場を動かす要因として、各国当局者の要人による発言があります。当局者とは、財務省、中央銀行の要人。要人とは大臣や官僚の高官、中央銀行総裁や政策委員会の理事や委員などです。講演会や記者会見で語る場合や、ぶら下がり記者の質問に答える形で発言しますが、発言の内容が政治的タイミングを狙った発言か、形式的な発言かを判断する必要があります。発言時の市場の反応を見ながら学習していけば、その感覚は身についていきます。相場の行き過ぎやポジションの過度の積み上がりの時には、要人発言に対する警戒感も醸成されているため、発言と同時に市場は反応するためわかりやすい事例となります。
首相、大統領の発言
首相や大統領が為替に触れることはめったにありません。ほとんどないだけに、逆に為替に触れた時は、市場は大きく反応し、長期的なトレンドを形成します。国内の政治的圧力が相当高まった時には要注意です。
2003年に当時大統領だったブッシュ大統領が訪日時の会談で為替に言及した場面がありました。その後、8月の120円台から110円を割れて円高が急速に進み、100円に向かっていた時の会談です。ブッシュ大統領は、「為替は市場が決定」と一般論を述べていますが、小泉首相は「市場の乱高下には介入が必要」と表明しました。ブッシュ大統領がこの表明に対して反対しなかったということがポイントです。為替介入は、2国間の通貨売買となるため、相手国の理解も必要となるため、小泉首相はこの会談でブッシュ大統領から介入のお墨付きをもらったことになります。会談後、市場には介入警戒感がより一層醸成されました。その後米国大統領が為替に触れるということはありません。オバマ大統領にいたっては全くの無関心のようです。
G7、G20の声明文と記者会見
市場に影響を与える発言として、要人発言ではないですが国際会議の声明文が市場に大きな影響を与える場合があります。市場が最も注目するのはG7、G20会議です。特にG7を注目します。
- G7 (先進7か国財務大臣・中央銀行総裁会議)
- 日本、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス(ロシアを加えてG8の場合も)
- G20 (主要20か国財務大臣・中央銀行総裁会議)
- G7各国とロシア(G8)、経済規模が大きい11か国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ、韓国、トルコ)、EU(欧州連合)議長国の計20か国、加えて、IMF(国際通貨基金)、IBRD(国際復興開発銀行)、ECB(ヨーロッパ中央銀行)の3機関の代表が参加
G7会議では、必ず為替について議論され、声明文として発表されます。この声明文の表現について市場は反応します。為替文言の基本形は以下の通りです。
「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済成長にとって望ましくない。
我々は、引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力する」
この基本形の文言の変化を毎回注目する必要があります。基本的にはあまり変化はありませんが、為替市場が一国の通貨だけでなく各国市場で乱高下し、世界経済に多大な影響を与える可能性が高まった時などは、語調が強まる可能性があります。また、会議後の記者会見では、声明文のニュアンスや背景を、各国事情を反映して発言される場合もあるため注目する必要があります。
為替の変動要因としての当局者の要人発言
- ・財務省、中央銀行の大臣や総裁、官僚の高官、政策委員会の委員や理事
- (記者会見、講演会などで発言。通常は相場水準について具体的な言及を避けるが、過度の乱高下に対しては牽制)
- ・首相、大統領
- 為替に触れることはめったにない。逆に為替に触れた時は、市場は大きく反応し、長期的なトレンドを形成。国内の政治的圧力が相当高まった時には要注意
- ・G7、G20会議の声明文。特にG7を注目
- →声明文の基本形の文言の変化に注目
「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済成長にとって望ましくない。
我々は、引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力する」 - →会議後の記者会見にも注目