今回はちょっと不思議なタイトルで、投資について考えてみたいと思います。ピカソとゴッホ、どちらも有名な画家です。しかし、「ピカソになってもいいがゴッホにはならない」というのはどういう意味でしょうか。

実はこの不思議な対比の中に「なんとなく投資」から脱出するキーワードが隠されているのです。

生前評価されたピカソ、生前まったく評価されなかったゴッホ

ゴッホもピカソも現代においては近代の画家として高い評価を受けています。しかし、生前におけるそれぞれの評価はまったく対照的です。

ゴッホは死後評価が高まった作家のひとりで、よく知られているとおり、生前は1枚しか絵が売れなかったといわれています。

これに対してピカソは生前から高い評価を受け続けた作家の代表で、15~16歳の頃には受賞歴もあり20代に一気に才能を開花させていきます。富と名声を早くより得たうえで、その後91歳で没するまで作風を変化させながら評価も受け続けます。

つい先日(5/11)にはピカソの「アルジェの女たち」が美術作品史上最高の1億7900万ドルで落札されたそうですが、現代においてはどちらの絵画も高い値段がついている作家です。しかし、「生前」という時間軸を考えるとあまりにも対照的なふたりといえます。

投資判断において、ゴッホ的投資判断にならない

画家としてのプロフィールチェックはここまでにして、今度は投資における判断において、ピカソ的投資判断と、ゴッホ的投資判断というものを考えてみます。

ゴッホ的投資判断、というのは自分の投資センスは疑わないけれど、その客観的評価についてまで頭が回らないようなイメージです。

投資判断において、独自の視点でいろんな情報や著名人の意見を取捨選択することは欠かせません。しかし、自分の意見を補強するためだけに情報収集するようになるとこれは現実の投資情勢を見極めているのではなく自分の見たい情勢を見ていることになっていきます。これは投資初心者でもベテランでも陥りがちな罠です。

投資における信念を持つことは大切ですが、それが実際のパフォーマンスにつながらない状態であるならこれは再考すべきです。どんな投資手法でも、どんな企業でも、どんなマーケットであっても、あなたひとりの信念でパフォーマンスが変化することはないからです。

また、健康や精神の安定を欠くことについての教訓もゴッホの生き様は与えてくれます。投資においても精神的安定を維持できることは大切です。家庭生活や仕事に支障がない範囲で投資を行わなければうまくいくはずありません。

そして、長く取り組み続けることもゴッホが与えてくれる示唆のひとつです。ゴッホが自殺せずにあと10年長生きしていたら、存命のうちに高い評価を受けた可能性があるそうです。うまくいかないからと中断してしまう人ほど投資の成功をつかむ前にステージから降りてしまうことになります。

投資の判断ではピカソ的でありたい

ゴッホ的投資判断の特徴をいくつかあげると、どうやらピカソ的投資判断との違いがみえてきます。

基本を抑えた上で応用する
ピカソといえばキュビズムの不思議な顔が思い浮かびます。子どもの絵のようですが、実は若い頃は写実的な上手い絵をたくさん描いています。基本もしっかり習得したうえで応用していくというのは投資においても重要です。
他人の評価を気にしない
有名になった後は批判も多く受けましたが、ピカソは他人の評価を気にしない人でした。自分自身が決めた投資目標や投資方針が他人の意見あるいはマーケットの変化でしょっちゅうぐらつくことのないようにしたいものです。
変化することを恐れない
ピカソは作風が変化し続けた作家で、80代の晩年までそれは続きました。自分の投資スタンスを変化させることは勇気がいりますが、必要とあらばためらわないことも大切です。ただしみだりに方針を変えるのではなく、ひとつの運用方針は中期的に維持しつつ、自分のライフステージの変化やマーケット環境の激変に応じつつ見直していくのがいいでしょう。
長期的に取り組み続ける
ピカソは残した作品数がギネス級ですが、これは常に創作に挑み続けた結果です。投資においても短期的な成果だけを追わず、長期において取り組み続けていくことが大切です。また新しい拠出金についても捻出し続けていくことが重要です。資産を成長させるもっともパワフルなエネルギーは元本の追加であることがしばしばです。
しっかり実益は確保する
ゴッホとの最大の違いはピカソがきちんと実益を確保しているところでしょう。この点は投資家も大いに学ぶべきと思います。個人において現実の収益を無視した理想は追うべきではありません。ピカソもお金目当てで創作していたわけではないと思いますが、実益と理想の追求のバランスが肝心です。

日常から投資のヒントをみつける

ピカソとゴッホという対比の中から私たちの投資に役立つヒントを考えてみました。これは結構おもしろい比較ではないかと思います。

美術館に足を向け、しばしアートを堪能しているときに、もしかすると投資のヒントは隠れているのかもしれませんね。