給与が増えたら消費せず投資をしよう
今年の春は昨年に引き続き給与がアップする会社員が増えそうです。昨年の賃上げ実施率は大企業で92.8%、ほぼ半数はベースアップを伴う賃上げだったそうです。中小企業でも64.5%が賃上げを実現しています。今年はこれを上回る実施率になる模様です。
(2014/9/16 内閣府 経済財政諮問会議資料(経済産業省)より)
金額ベースでもかなりの賃上げになりそうです。日本経済新聞3月27日朝刊記事によれば、労働組合を束ねる連合の調査(2015年の春季労使交渉の第2回回答集計)が紹介されており、定期昇給とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ額の平均は7136円となっています。賃上げ率にすると2.36%です。
昨年の春は消費税が8%にアップしたため賃上げしても実感が得にくいところでした。しかし今年については10%への消費増税はひとまず見送られるため、この賃上げは純粋に「手取り増」になります。
この「7136円」をどう使うかは長い目でみた資産形成に大きく影響してきます。政府は消費に回して欲しいと期待するところですが、個人としては「目の前の消費」だけでなく、「将来の消費」に回すことも考えていくべきです。もし、将来の消費に回す資産と位置づけるのであれば、利回りのよい置き場所についても考えるべきで、預貯金だけでなく、投資も視野に置いた資産管理が必要になってきます。
もし、7136円を毎月積み立てることができれば
毎月増えた7136円を積立投資できたらどうなるかざっくり考えてみましょう(本当は7136円には税や社会保険料が引かれるので、実際には手取額はもう少し下がります)。
毎月7136円を積立投資したとすれば、年間8万5632円の資産になります。ボーナスにも同水準が反映されるとして夏冬3カ月分ずつ増額されたとすれば2万1408円が2回で年間4万2816円積み立てできます。つまり合計で12万8448円の資産が毎年積み上げられることになります。
もし、今までと同水準の生活をしてベースアップや定期昇給分をストックすることができれば毎月1万円相当の資産を将来に積み上げられることになるわけです。
毎月1万円程度、と思えばたいしたことがないと考えてしまいがちで、ついつい消費してしまいたくなるかもしれませんが、その積み上げを継続することができれば、ライフプラン上の大きな力となってきます。
仮にこの積み立てについて年4%程度の利回り(運用コスト、税控除後)を想定した場合、5年後には70.8万円まで資産は成長します。7年がんばれば100万円の大台に乗り、13年がんばれば200万円の大台に乗ります。
もし、結婚して子どもがいるなら、賃上げ分をストックすることで、子どもの高校・大学の入学金のめどがつきます。日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査(平成26年度)」によれば入学に関する諸費用は高校が29万円、大学が102万円ということです。子どもがまだ小さいなら「賃上げ分投資」で十分まかなえます。
もちろん、もっと高額の積み立てにより学費の一部も事前準備することが大切ですが、「生活水準は変えず、賃上げ相当分を残すだけで『将来の消費』に備えることができる」という点でチャレンジしてみる価値があるはずです。
住宅購入の頭金にするには、200万円程度では十分とはいえませんが、すでに取り組んでいる積立やすでにある資産に加わることで頭金準備に厚みが出てくるでしょう。500万円の頭金が700万円になれば金利負担は50万円以上は軽減されます。20代の早い時期から積立ができれば、結婚資金になるかもしれません。
積み上げた資産は人生の選択肢をより彩りのあるものとしてくれます。
同じペースで新卒から定年までがんばると1000万円にもなる
ここから先はシミュレーションの世界になりますが、仮に新卒2年目の社会人がベースアップを期に「毎月7136円積立」を定年退職まで継続し、一度も取り崩さなかったとすれば、驚くほどの金額になります。38年間継続した結果はなんと1137万円です。
おそらく他に預貯金の積立もあるでしょうし、退職金や企業年金が会社から支給されることを考えれば、老後の生活にも一定の見込みが立つ金額が形成できることになります。
若い人ほど中長期的に将来を見据えれば経済的難問は山積で、いずれも高額の出費を必要とするものばかりです。このとき、ボーナスも含めて年1万円程度の積立を行うかどうかは、長い目でみると大きな経済的差異を生じさせます。
今回の賃上げを、「給与も上がったし、今まで買えなかったものを買ったり、食べたりしてもいいのだ」と考えるより、先のことも見据えた「積立投資」を考えてみて欲しいと思います。
賃上げ分を投資に回すと人生が豊かになる
自分の人生の必要なときに「消費」すればよい
政府は「今こそ消費」ということで賃上げ分を何か使い切るよう求めてくるかもしれません。雑誌やメディアは魅力的な商品をいろいろ紹介してあなたの購買意欲をそそるでしょう。
しかし、私たちは「人生のどこかで、使うべきときに使えばいい」というくらいのスタンスでこの賃上げに臨むことが大切です。
10年後、住宅購入をしたり、15年後子どもの学費として納入したりするお金は、目の前の国内消費を刺激することはないかもしれません。しかし、自分自身のライフプランにおいて必要な費用であり、自分が負担しなければいけないコストです。そのときにはもちろん、そのときの国内の消費に貢献することになります。
1970年代のように、目の前のことだけを考えながらがむしゃらに働き続ける時代は終わりました。人生を中長期的な視点で俯瞰的に眺めることができるのは21世紀のマネープランのメリットです。
数十年後に振り返ってみたとき「2015年の賃上げが、人生を豊かにする分岐点だった」と思えるような賢い消費、賢い資産形成を考えてみてください。