普通に、まじめに働いてきただけなのに老後が苦しいのはなぜか

最近FP業界で聞くエピソードとして「普通に、まじめに暮らしてきただけなのに、なぜか老後が苦しいという相談が多い」というものがあります。

何かひどい借金をしたわけでもないし、ムダづかいをしたという自覚もない。なのに、セカンドライフをスタートしてみると思っていたよりも老後は楽ではなかったという状況です。

実はこの問題はこれから深刻さを増していく課題だと思います。先日NHKが「老後破産」という特集番組を組みましたが、これもこうした流れを象徴しているようです。

会社員の場合は厚生年金があるので、生活保護水準を下回る可能性は高くありませんが、厳しい老後になるのは避けたいものです。

「なんとなく投資」から卒業するためよいきっかけとなるのは「目的のある資金準備」を明確化させ、そのために行動をすることだと思います。

老後破産に陥らないためには、老後資金準備をいつから始めるべきか、考えてみたいと思います。

老後資金準備は落ち着いてから、ではいつまでたっても落ち着かない

老後資金準備をいつから始めるか、について先に解答をしてしまえば「気づいた今から!」です。年齢は関係ないし、むしろ早いほど毎月あたりの負担は楽になります。あるいは最終的な積立額を増額修正することができるかもしれません。

最悪なのは「○○の後に始める」というパターンです。これはほぼ100%の確率で老後の準備ゼロで定年を迎えます。

例えば「住宅ローンが返済終わったら、自分の老後に備えよう」という人は、自分の返済プランを見直してみるべきです。多くの場合、60歳以降まで返済計画が残っていたりします。35歳で35年ローンを組めば、当然ながら返済が終わるのは70歳です。

60歳を超える返済計画を銀行が認めてくれたとしても、返す責任は我々が負うものです。このような計画では当然ながら返済終了後に貯金をする時間はありません。むしろ退職金の一部で残債を返済することもあり、老後の準備はむしろ下方修正です。

「子どもの教育費負担が終わったら、自分の老後に備えよう」というのもよくある勘違いです。最近では30代後半で結婚から出産の時期を迎える夫婦が増えており、40代で子どもが生まれる例もかなり増えています。わが家も私が40歳の時の子どもがいますが、これは「大卒時を思えば私が62歳になるまで学費の面倒を見る」ということです。

最後に子どもが生まれたときの自分の年齢に22年を加えた年齢が60歳を超えるのであれば「子どもの卒業後に自分の老後の準備」は不可能ということです。50代の後半という場合も、数年しか貯める時間はありません。やはり無理なのです。

老後資金準備は遠いもののように思えますから「落ち着いてから始めよう」と考えてしまうのですが、人生はいつまでたっても落ち着くことはないのです。むしろ落ち着くのは定年になったときなのかもしれません。それではあまりにも遅すぎます。

これこそ「普通に暮らしてきただけなのに」老後の準備が足りずに定年後困ることになるのです。

とにかく早く、自分に強制力を課すしかないし、自動化することが重要

唯一の対策として老後資金準備が実行されているものとしては、「退職金・企業年金」があります。これは入社から定年退職までのあいだを通じて一定の掛金やポイントが積み上がり、利息が付されて退職時に受け取る仕組みですから、まさに老後資金準備です(中途退職をしなければ、ですが)。

逆にいえば、このアプローチをまねることが、個人の老後資産形成にとって重要ということになります。ポイントは3つです。

  • 早くスタートする……できれば入社すぐに行いたいし、そうでない場合もできるだけ早く始め、長く積立期間を取ることが重要です。
  • 定期的な拠出を行う……給与の一定率などを毎月ないしボーナスごとに積み立て続けることが重要です(若いうちは少額でもいいが給与が上がったら積立額も上げていくことが理想的)。
  • 複利運用を継続し、解約しない……少額でも長期運用を続けることで複利効果が生じます。重要なのは中途解約をできるだけ避けることです。

これらの3つのポイントを確実に実行する方法としては、何らかの自動積み立てを行うしかありません。「余裕があるとき、任意で積み立てる」のようなものは、自分に実行しない言い訳を許しているようなもので、うまくいきません。逆に自動化しておくことは、強制力を持たせることになります。

また、期間を長くとることを考えれば、このコラムを読んだ今こそが始めどきです。社会人であれば、できるだけ早く始めるべきで、老後資産形成を未実行であるなら全ての人に「今」をスタートラインとしておすすめします。正直に言って、「○歳が老後資金準備の始め時」に自分の年齢以上を当てはめられるのは学生だけでしょう。

金額としては手取り金額の5~10%を目安にスタートしてみましょう。解約をせずに続けられる現実的な割合だと思います。できれば積み立て投資を続けながら割合を少し引き上げていくのが理想です。

ベターの追求としてのインデックス積立投資を始めよう

せっかく長い投資期間が取り得るのであれば、史上の短期的な騰落に踊らされず、期待リターンはできるだけ高まる投資方法を選択したいものです。一方でメンテナンスについてはできるだけ省力化を図る必要もあります。

ベストというよりはベターな選択肢を追求するアプローチとして浮上してくるのは、インデックス型の投資信託ということになります。投資信託の場合、個別銘柄を投資して大きく負けるリスクはありません。また、メンテナンスの負担は大きく下がります。

また、インデックス運用を選択することで、市場の騰落以上の大きな下げはほとんど生じませんし、運用手数料はローコストになります(長期投資するほど低コスト運用は重要課題です)。ベターな選択肢を考えれば、これは十分に納得でき現実的選択になるはずです。

預貯金を別途保有できるのであれば、「国内株式」「外国株式(先進国)」「外国株式(新興国)」を組み入れて資産形成してみたいものです。積立投資信託のラインナップから好みの投資信託を選んで、自動引き落としの設定をしてみてください。NISAの活用も効果的です(この場合ロールオーバーするなどしてできるだけ長期投資したい)。

1年後あるいは3~5年後に振り返ってみて、他の資金ニーズに踊らされずに堅実な資産形成が実現できていれば大成功です。ぜひ老後資産形成をスタートさせてみてください。

なお、今回のテーマを深掘りして学びたい場合、講談社+α新書「日本人の4割が老後準備資金0円」(野尻哲史著)も同テーマの書籍としてオススメしておきます。

○○が終わったら老後資金準備では間に合わない