夢のアーリーリタイアメントをしたい!

今回は、少し夢のある?話をします。アーリーリタイアメントです。

経済的リッチさを手に入れ早期退職することは資産運用を行う人の夢のひとつでしょう。ただし、「あわよくば」とか「望外の大儲けができたら」といった、運任せとしてアーリーリタイアメントを描いている人が多いように思います。結果としてリスクの高いトレードを繰り返し、たいして資産形成に寄与しなかった、ということが起こります。

しかし、アーリーリタイアメントへのチャレンジは、過度なリスクテイクでしかなしえないものでしょうか。「なんとなく」から卒業するアイデアとして、アーリーリタイアメントへのチャレンジを考えてみたいと思います。

早期退職をしたければ、かなり力を入れた資産形成が必要になる

「お金を貯めれば早期退職ができる」とは誰もが思っているでしょうが、早期退職を行うということは、人生の選択としてなかなか大変な話です。

当然ですが、「早期退職年齢と標準のリタイア年齢との年数差は無収入になる」という点です。仮に65歳がリタイア年齢(年金受給開始年齢)だとして、55歳で早期退職をしたいのであれば、この10年間の生活コストを、老後のための準備額とは別に準備しなければなりません。

仮に年間400万円でやりくりする、と覚悟しても4,000万円のコストを老後の資金準備とは別に準備するわけですから難易度はかなり高いものとなります。早期退職後に豊かな生活を希望する、例えば年間600万円の生活を希望すれば別途必要な額は6,000万円です。

今55歳を例にしましたが、もっと早くリタイアしたいのであれば準備額もさらに上積みです。こちらも50歳から年収600万円ライフとなれば15年ですから9,000万円の準備となってきます。なかなか大変です。

厳密に考えれば、手元の資金を取り崩す場合は所得税や厚生年金保険料等はかかりませんので、実際には20%以上少ない費用で現役会社員と同等の生活水準を維持できます。しかし、「400万円の会社員並の生活を320万円で過ごせる」という発想はアーリーリタイアメントしたい人の思考法ではないでしょう。むしろ「600万円の費用で750万円相当の暮らしをしたい」と上向きに考えると思いますので、資金準備が少なくてすむ、ということにはならないはずです。

さらに考えを進めていきます。資金準備は早期退職年齢と標準的リタイア年齢の差分だけを考えればよいかというと話はそう単純ではありません。早期退職するほど、その後法律改正が生じる期間も長くなるからです。仮に55歳で早期退職すると、標準的な余命を考えれば30年先まで見据えておかなければなりません。

30年後の消費税増(20%まで上がるかも?)、30年後の医療費等の自己負担増(完全自己負担3割ですむか?)、30年後の年金制度の状況(現状の改革以上の給付削減はある?)など考えると、早期退職に入ったあとに生じた法律改正を見込んで分厚く老後資金を見積もっておくべきでしょう。

また、「早期退職後に厚生年金保険料を納めない分、公的年金収入ダウンもある」ことは意識すべきでしょう。ねんきん定期便では50歳以降になると「このままの給与水準で60歳まで働いた場合の厚生年金額」がシミュレーション表示されますが、早期退職する場合は仕事をやめるわけですから、この厚生年金額は期待できないことになります。加入期間が5年少なくなれば10~15%程度の厚生年金ダウンもありえます。年金生活をスタートした後の20年近くの年金額が下がれば、また自力で準備すべき金額が増加することになるわけです。

住宅ローン等の負債もアーリーリタイアメント後に返済を残すか、早期完済をしてアーリーリタイアメントするかも、検討に大きく影響する要素です。

ざっと概算したとしても、本来のセカンドライフのための3,000万円(あるいはそれ以上)に、アーリーリタイアメント費用としての金額を見込むことになりますから、それこそ1億円の老後資金確保を現実的に狙わなければならないということです。しかも、その時期は65歳ではないわけですから、これは大変です。

「なんとなく」では実現しない目標だということを踏まえて、アーリーリタイアメントのチャレンジをしていかなければならないわけです(しかも、1億円程度だとリッチなアーリーリタイアメントとはならないのが厳しい現実です)。

覚悟を決めて年収の25%以上を積み増してみる

いきなり、夢のアーリーリタイアメントに冷や水を浴びせてしまったかもしれません。しかし、夢を具体化するためには目標値をある程度具体化しなければなりません。「なんとなく」アーリーリタイアメントはやってこないからです。

これだけの資金準備について、運用益だけで実現するのは普通の会社員向けの戦略では困難です。もちろん運用の期待リターンを高める努力も重要ですが、運用原資の増大についても可能な限り努力するべきです。後述のとおり、運用益だけにアーリーリタイアメントの資金源を求めることはポートフォリオのリスクを高めすぎてしまい、むしろ実現に危うさが増します。

運用原資を拠出するのは自分の稼ぎがベースです。もし40代の10年間に年収600万円を上回る収入があったとして、これを25%貯めたとすれば運用原資が1,500万円以上手に入ります(年収800万円の25%なら10年で2,000万円の原資)。きちんと自分の稼ぎをストックしていくことが重要です。原資が多いほど同率の利回りから得られる運用益も増えますので、アーリーリタイアメントに近づく可能性が高まります。

戦前の財テクの神様といわれた本多静六氏(東京大学教授。日比谷公園の設計でも有名)は収入の25%を貯めることが資産形成の始まりだと述べましたが、やはりその程度の覚悟は欠かせません。早期退職に伴い50代以降での資産形成はストップするわけですから、早めのチャレンジが重要になってきます。

20代に仮に平均400万円の年収があり、これも25%貯められれば1,000万円の原資です。30代についても平均500万円の年収があり、この25%を10年貯め続ければ1,250万円の原資になります。早期に積み上げた原資は長期の複利運用により多くの運用益を稼ぎ出しますので、早くがんばることは積み立てた金額以上の効果が生まれます。

現役時代に25%貯めることは苦労を伴います。先の本多静六氏は25%貯めるのが何よりも優先で、おかずが買えなければごま塩を振ってご飯だけでガマンしろ、とまで述べています。ごま塩ご飯はともかくとして、苦しい努力がアーリーリタイアメントのカギになることは間違いありません。

リスクを取りつつ、同時にリスクを抑える運用を

さて、運用についてですが、高い期待リターンを目指すポートフォリオを考えなければアーリーリタイアメントには達しません。仮に年5%の利回りを得たと仮定し、前述の25%積立モデルを実行してみたとしても(年収は20代400万円、30代500万円、40代600万円と仮定)、50歳時点で8,115万円にしかなりません。立派な資産形成ですがアーリーリタイアメントには不足しているようです。

仮に年8%とすれば、一気に1億4,000万円になりますので実現の可能性が出てきましたが、年8%の運用益を30年続けるのはかなり困難でしょう。適切にリスクを抑制したポートフォリオの期待リターンは、国の年金運用でも4%程度、民間の企業年金運用でも2~4%程度ですからかなりリスク偏重の運用になります(仮に8%運用が実現できる投資環境であれば、インフレを伴うので実質的にはまだ不足、ということも考えられます)。

だからといって、これ以上のギャンブルにいくことはオススメできません。過度なリスクテイクを行う資産は全体の10%以下あるいは数割以下に抑えておくのが年金運用では常道ですが(それを逸脱した厚生年金基金はAIJ問題等で手痛い教訓を学ぶことになった)、個人においても老後資産形成において損失可能性を高めすぎることは失敗時のダメージが大きすぎます。

企業年金運用の過去の例でも、分散投資のおかげでマイナス15%の損失にとどまっていますが、やはりこれを回復するのは容易ではなく、追加負担や給付減額で対応しています。個人にとっても失敗はゴールから遠ざかることを意味します。

仮に夢破れても、チャレンジャーの老後は豊かに

結論としていえば、アーリーリタイアメントは「夢」で終わる可能性が高いといえます。しかしアーリーリタイアメントを目指して取り組んだチャレンジャーには、ご褒美も待っています。例え早期退職できずとも、彼らのセカンドライフはアーリーリタイアメントを目指さなかった人の老後より確実に豊かになると思われるからです。

日本の多くの中高齢者は、目標にまったく追いつかない資産形成の状態にあります。「老後難民」の著書で知られる野尻哲史氏の行ったアンケート調査分析でも、3,000万円どころかその半分にも達しないまま老後を迎える可能性が高いと指摘しています。これに比べれば、アーリーリタイアメントを目指した人たちの老後は、はるかに多い資産があるでしょうから、結局65歳まで働くことになっても、老後の豊かさが得られることは確実です。

また、望まざる早期退職を余儀なくされることがあっても、その抵抗力を持つことにもなります。会社の業績悪化で55歳で賃金1年半分を退職金に上乗せして辞める羽目になったとき、通常なら65歳までの雇用確保の問題が残ります。しかしアーリーリタイアメントに向けて努力してきた人はそれなりの資金を確保できているでしょうから、求職をしながらも資産を取り崩して備えることができます。あわてて低い条件の求人に応じるのではなく、好条件を待つ余裕も出ることでしょう。あるいは倹約しながらもアーリーリタイアメントに踏み切れるかもしれません。

ダブルインカムならアーリーリタイアメント実現も

ところで、共働きでガンガン稼いでいる夫婦の場合、アーリーリタイアメントの実現は夢ではないかもしれません。
例えば夫婦の合計年収が1,000万円を超えている世帯などは、25%目標を掲げ、8%の利回りをねらわなくても1億円の資産形成の可能性が大いにあります。

しかし共働きで高所得の世帯は生活水準も高いため貯蓄率を高めることが難しかったりします。また老後の必要額も1億円にとどまらない過大なものとなりがちです。実現に向けた努力もひとりではなしえません。夫婦で相談しながら「夢」を近づけてみるといいでしょう。

アーリーリタイアメントの準備額は