長生きはもはや「リスク」になった時代

老後資金準備についてふたたび考えてみたいと思います。長生きは「リスク」といわれる世の中になってきました。もちろん、「価格変動リスク」とか「信用リスク」のように、リスク商品の販売時に金融機関が説明するリスクではありません。しかし、リスクと呼ぶべき特徴の多い概念です。

長生きというのは「不確かさ」があります。60歳より若くしてお迎えがくることもあれば、平均寿命に近いところで亡くなることも、はるかに長生きをして90歳代を超えることもあります。不確かさはまさにリスクです。

また「ブレ幅」もあります。おおむね平均寿命を中心としつつ、亡くなる人の多い年代があり、正規分布のように左右に均等とはいかないものの、幅広く亡くなる年齢がばらついています。これもリスクの特徴に合致します。

確率で推し量ることもある程度可能です。国勢調査(完全生命表)、日本人の平均余命(簡易生命表)などの統計があり、人が亡くなる確率は明らかになっています。例えば、平成22年度簡易生命表によれば、男性の5割が亡くなる年齢は82.55年、女性の5割が亡くなる年齢が88.98年といったことが分かっています。数値によってその不確定さを計量しているのもリスクっぽいところです。

ただし、「長生きリスク」といった場合に、早世した場合の問題はほとんど問題とならず、想定より長生きしたため、用意していた資金が枯渇するような、一方向への危険性を示すのが特徴的です。期待リターンを上回る場合も下回る場合もリスクと考えることとは少し異なるわけです。

いずれにせよ、資産運用のリスク(標準偏差)とは異なるところで、「長生きリスク」が私たちの資産形成を悩ます存在となっています。

準備時点で考える「長生きリスクヘッジ」方法

長生きリスクをヘッジする方法を「準備段階」と「取り崩し段階」に分けて整理してみます。なんといっても重視したいのは、準備段階での取り組みでしょう。これは長生きに備えて資産形成を行う考え方です。

  1. 一般に、私たちは老後資金準備の目標を過小評価しがちです。その理由をいくつかあげてみると、
  2. 老後を現実の可能性より短く予想しすぎる
    (例:少なくとも20年はあるのに10年くらいに考えてしまう)
  3. 目の前の資金ニーズを優先し、老後の準備を後回しにする
    (例:子の教育費負担を優先するあまり、自分の老後に窮する)
  4. 老後の状況変化を織り込まない
    (例:医療保険の自己負担増などが生じる可能性を考えない)
  5. 退職金・企業年金をあてにして自分で準備しない
    (例:しかし制度の詳細や受取額の見込みは知らない)
  6. といったところでしょうか。

それぞれ、
対策例(1) 平均余命の現状を超えるセカンドライフの期間を見込む
対策例(2) 自動引き落としによる積立などを活用し老後のための資金準備を後回しせず継続させる
対策例(3) 現在の老後資金準備必要額より目標を上方修正する(例:消費税増が続くことを前提に目標額を10%引き上げる)
対策例(4) 会社からもらえる退職給付水準を確認し、準備計画に織り込む
といった対策が考えられます。

老後資金準備については、現役生活が破綻しない程度に、多めに見積もることが有効です。
特に50歳代においては具体的な計画が必要で、ケースによっては「今を楽しむ予算を後回しにして、老後のための資金準備する」くらいがいいでしょう。定年後に資金準備はほぼ不可能ですから、50歳代の努力は、その後の20年の幸福を左右することになります。

取り崩し時点で考える「長生きリスクヘッジ」方法

資産形成のステージを終え、年金生活に入った後も、長生きリスクに対するヘッジ方法を検討すべき重要な時期です。言ってしまえば、死ぬまで長生きリスクと付き合い続ける必要があるといってもいいくらいです。

取り崩し期間については「さらに増やす努力をする」部分と「取り崩しのマネジメントをする」の2方面で長生きリスクヘッジが考えられます。

「さらに増やす努力をする」については、無リスク資産だけに依存せず、一部について投資信託等を活用し期待リターンを高める運用方針を検討する方法が考えられます。しかし、期待リターンを高めすぎる結果、大きな損失を被ることのダメージも大きいので、戦略として注意が必要です。

しかし20年以上の老後期間を想定するのであれば、運用として市場の回復を待つ期間もあると考えられ、「セカンドライフの前期資金」と「セカンドライフの後期資金」を分けてリタイア直後は後期資金についてリスクを高く取ることも検討に値します(この話題は次回、もう少し踏み込んでみたいと思います)。

「取り崩しのマネジメントをする」については、運用状況等を勘案しながら取り崩しペースを調整する方法が考えられます。思ったより長生きしそうである、あるいは資金ショートの懸念がある場合に、取り崩しペースを遅くすればいいわけです。

フィーリングでなく取り崩し方法をアレンジする方法としてフィデリティ退職投資教育研究所の野尻所長は「定率取り崩し」を提案しています。簡単にいえば、運用でマイナスになったときは取り崩しも少なめに、ということですが、資金を長生きさせる選択肢として考えてみると対策として有用です。

ところで、取り崩し時点で行える長生きリスクヘッジ手法として、意外に気がつかないのは「生活費のコントロール」です。65歳時点で毎月30万円近く必要な生計費が、75歳のころには毎月20万円もあれば十分(あるいは田舎に戻ってみたら15万円もいらないことも)のようにダウンサイジングされれば、手元資金の寿命は大きく伸びます。

長生きリスクと言わず、長生きを喜べるようになりたい

長生きリスクのヘッジ手段について考えてきましたが、根本的に「長生きリスク」と考えている時点で、長生きしたセカンドライフを楽しめていない可能性があります。これはとてももったいないことです。

40年近く働いてきたあとに、仕事にも追われず、子育てに時間を割かれるわけでもない、本当に自由な時間が20年以上あるわけですから、これを喜んで楽しめるような資金管理をしたいところです。

「長生きリスク」とどう向かい合うか

長生きリスクの備え方