積立投信のキャンペーン中を「なんとなく」的に考えてみる
楽天証券では積立投資信託をスタートした顧客に対してキャンペーンを行っているようです(本コラム掲載日において)。私は独立した立場から記事を書くコラム寄稿者であるため、タイアップ要請を受けることはないのですが、積立投資信託はとてもいい商品だと考えています。
そこで、こちらから連携して(逆タイアップ?)、「なんとなく投資」と積立投資信託の関係について考えてみたいと思います。
積立投資信託は、最初に積立金額と購入する投資信託、買付日を指定すれば、自動的に定期的な購入が行われる仕組みです。そういうと、これこそ「なんとなく投資」であり、良くないことだと思われる人もいるかもしれません。
「なんとなく」を卒業しようとする本コラムですが、この「なんとなく積立投信」は結構アリ、なのです。その理由を3つほど整理してみましょう。
なんとなく積立投信がアリの理由
面倒な手間が省略される
積立投信の最大のメリットは「手間の軽減」です。エクセルで手入力の手間を軽減するために簡単なマクロを組む人がいます。あるいはWEBサイトの巡回を省略化するためRSSリーダーを活用する人がいます。こうした省力化・効率化のテクニックをライフハックといいますが、積立投資信託は投資のライフハックの筆頭といってもいいテクニックです。
仕事が忙しい等の理由でATMに行く時間がなかったり、WEBで送金指示をすることが億劫だったりして投資が行われないことはよくあります。仕方ないことでしょう。しかし、この「面倒」が投資の未実行を繰り返すようでは、「仕方ない」と見逃せません。それこそ「なんとなく」投資をしている状態です。
投資における最大の敵は市場ではなく、「行動しないこと」だとすれば、強制的に買い付け行動が行われる積立投信は「なんとなく投資でもアリ」といえます。
個人投資においては、元本の追加拠出がきわめて重要であり(初期元本が低い場合にも、過剰なリスクを取らず資産形成を継続できるため)、積立投資信託がこれを実現してくれるわけです。
また、面倒を逆手にとると「解約も面倒」なので、資産形成が進む、という可能性もあります。これならなんとなく積立投信も悪くありません。
任意で積み立てる場合の心理的ハードルを乗り越えられる
第2のポイントも、個人の心理的問題を克服できるところに積立投資信託のメリットがあります。先ほどの問題は「面倒や手間」でしたが、こちらの問題は「非合理的な投資判断」です。
個人が投資商品の購入をしたり、売却をすることには常に投資判断が求められます。しかし、悩んだり、ためらったりする中で、合理的な投資判断のつきにくいところが悩みです。
市場が上がれば「値上がり余地がないだろうから、もう買うのはやめよう」と考えたり、値下がり局面では「これ以上下がるのなら買わないほうがいい」と考えたりします。どんな相場でも悩みはつきませんし、長い目でみれば当たっていることもあるでしょうが、外れることもあります。特に上昇トレンドや下降トレンドが続くときなどは、投資を中断し続けることで、そもそもの元本が積み上がらないことになります。
積立投資信託の場合、定期的に購入を行うため、投資を見送るという判断はせずにすみます。また定額購入であるため、値下がり時には投資信託の口数を多く購入し、値上がり時には投資信託の口数を少なく購入します。結果として安値圏内において多く保有するという投資行動につながります。
このあたりの合理的行動は個人投資家においてはなかなか困難であり、積立投資信託にお任せすることの意義があるわけです。
銘柄選びやタイミングを考えずにすむ
また、投資信託の積立購入については個別の銘柄選択や売買タイミングの検討を不要とします。もともと投資信託は銘柄選定のプロセスを個人が行う必要はありません(アクティブに銘柄選定をする投資信託を意識的に選ぶ、という判断はできますが)。 また、定期的に購入されることから、売買タイミングについて悩む余地もありません。
個人投資家にとって銘柄選択や売買タイミングは投資の楽しみでもありますが、手間や負担でもあります。これは、最初に説明した「ATMに出かける手間」とは別の次元の手間です。
銘柄選択や売買タイミングの検討が負担となって、投資の実行を困難にすることは否定できません。会社員ほどその傾向はあるでしょう。しかし投資を行わないというのももったいない話です。
それよりもアセットクラス単位で「日本株をどれだけ保有するか」というような資産配分に注力して銘柄選択や売買タイミングを自分の実行するタスクから外してしまうという方法が考えられるわけです。
これは企業年金の運用責任者の感覚に近いものがあります。毎月の定期的な入金、予め定めておいた買い付けがなされる中、「そもそもどんな投資対象にどの程度投資をするか」「全体として現状はどのような運用状況になっているか」「運用の見直し(リバランス)、運用計画の見直しは必要か」といったマネージャーとしての判断にリソースを割くわけです。
投資信託の積立というと投資のアマチュアのように思う人も多いでしょう。しかし、投資信託を使って、運用のマネージャーになると思えばこれは高度なスキルが求められます。積立投資信託はなんとなく、どころではないかもしれません。
なんとなく積立投信の注意点
もちろん、積立投資信託の注意点もあります。積立投資の危険性は「ほったらかし」です。
まず、特定の投資信託に資産が集中してしまう恐れがあります。積立投資信託の枠はほとんど手を付けず、他の資産運用部分は売却を行うことを続けると、積立投資信託の投資対象だけを多く保有していることになってしまうからです。資産全体での運用状況把握を定期的に行うことが重要です。
また、引き落とし額の準備について資金ショートのないよう工夫が必要です。買い付けする金額そのものがなければ、その月の積立投資は行われません。証券口座に現預金を入れておいて、そこから買い付けする場合、定期的に入金が必要になります。失念する可能性もありますので、銀行口座の残高から引き落としをかけていくほうがいいでしょう。
たとえば、楽天証券の場合は楽天銀行や楽天カードからの引き落としが可能となっています。
また、引き落とし日が選べる場合は(楽天銀行、楽天カードの場合、1~28日に任意の比を指定可能)、給与振込日の直後にするなど、確実な引き落としを行ってください。
普通の会社員ほど利用したい積立投資信託
さて、ここまで「なんとなく投資」的視点から積立投資信託を考えてきました。
筆者は積立投資信託は会社員向きの投資手法であり、もっと普及していいと考えています。特に地銀等が行う投信窓販では、積立投信をもっとプッシュし、普通の会社員の資産形成をサポートすべきです。
しかし、富裕層のまとまった資金での投信購入に目を向けるあまり(営業成績もそのほうが大きく評価されるから)、毎月1万円程度の積立投信はあまり注目されてきませんでした。
ネット証券を通じて、個人投資家に対して積立投資信託が普及するのはすばらしい取り組みだと思います。
キャンペーンもありますので、検討してみてはいかがでしょうか。