なんとなくリスクと向かい合う段階から卒業する
投資にはリスクがつきまといます。リスクの存在は、預貯金を上回る高いリターンを得るための源泉として、投資を行う以上切り離すことはできません。しかしながら、大きな元本割れを招く要因でもあります。
ところが、個人投資家の多くは無邪気にリスクとつきあっているように思います。特に多く見受けられるのは期待リターンを高めたいがあまり過剰なリスクを取っており、またそれを自覚していない人です。
「なんとなく」から脱する投資術を考えるのが本連載のねらいのひとつですが、なんとなくリスクと向かい合っている人について、少しそのつきあい方を考えてみたいと思います。
リスクをセルフコントロールしてみる
私たちは、リスクは自分がコントロールできないところにある、と思っています。確かに株価の変動、為替の推移について個人が介入できることはほとんどありません。個人投資家の資金で相場を動かすことはできませんし、風説の流布や見せ玉による価格誘導が許されないのは誰でもご存じのことでしょう。
ですから、株価や為替の値動きを読む努力をすることは考えこそすれ、自分でリスクをコントロールするようなイメージはぴんとこないと思います。特に初心者ほどそう考えてしまいます。
結果としてリスクに身を委ねるような投資になっていることがあります。身を委ねる、というと聞こえはいいですが、実態は無頓着、ということです。
しかし、根本的なところで、私たちはリスクコントロールをしています。それは「投資に注ぎ込む資金の割合」です。
たいていの人は、資産の全額を投資していません。「資産のX%くらいは運用に投じてもいい」というようなイメージをなんとなく持って投資資金を設定しているからです。
これはもう少し具体的に考えると「元本割れの可能性がある資産の保有ウエートを一定程度にとどめることで、損失可能性をセルフコントロールしている」ということでもあります。
実は、単純かつ簡単なことなのですが、リスクは自分でコントロールできる部分があるわけです。
これはとても重要なことです。「なんとなく」からもう少し具体化してみましょう。
投資比率と元本割れの可能性について自覚を高める
分散投資されたポートフォリオが最悪の運用結果になった例として、企業年金運用の過去の実績をみてみると、企業年金連合会が-18.34%(2008年度)、企業年金の全国平均が-17.80%(2008年度)となっています。これをベースに-20%の損失を考えると、投資比率と損失の大きさは図1(左)のようになります。投資していない資金についてはとりあえず0.5%の利回りをつけておきました。100万円投資した場合の損益額も参考につけています。
図1 「投資割合決定」でリスクを管理する
こうやって「見える化」してみると、投資比率の選択が最大損失割合を決定する、という当たり前のことがよく分かります。また、投資割合を控えることは「資産全体」で考えたとき、それほど深刻なダメージを与えずにすむ戦略であることも分かると思います。
個人が資産運用をするときは、どんぶり勘定というかざっくりとしか考えないため、数値的に自分の投資の損失度合いをイメージしていないと思います。しかし、数値的にこうした感覚をつかんでおくことはとても重要です。
初心者ほど、投資割合をじっくり考えてみるといいでしょう(資産配分が投資結果の主たる決定要因であることを)。
レバレッジをかけた投資は、投資比率を強く意識する
より高いリスクを取った場合はどうでしょうか。仮にFXで10倍のレバレッジをかけたとします。10%のマイナスで資産の全損をする可能性がありますが、為替のリスクとして考えるとこれは短期的に起こりうる変動です。そのとき、資産全体としてどのくらいの損失割合があるのかも、同様にイメージできます(図1(右) ただしこちらの図は年率ではなく短期的に起こりうるものであり、図の比較には注意)。
たとえFXであっても、投資ウエートを低くしておけば、ロスカットによる全損等の損失を資産全体として抑えることができます。例えば、10%しか投資をしなければ、-9.550%の損失ですみます。当たり前のことですが「なんとなく」投資比率を決めていたのであれば再認識してみたいところです。
これはリスクの高い投資をするうえで、とても重要で最初に行うべき投資判断です。特にFXや信用取引については、欲望に負けて投資ウエートをあげてしまうことがよくありますが、自分の資産運用がおかれている状況について、自覚・管理が必要というわけです。
それができない人は、そもそもレバレッジをかけて投資をするべきではないでしょう。
リスクを抑えるのは投資技術より感情のコントロールが有効
結局のところ、投資技術によってリスクを抑えることを考えることも大切ですが、シンプルで簡単に実行でき、有効性も高いリスク管理は投資割合を抑えることです。特に投資初心者ほどおすすめできます。
大事なことですから二回繰り返しますが「なんとなく」投資をするのと「損失割合を想定し投資比率を決め」投資をするのとは、それこそ天地の違いがあります。
しかも、この「なんとなく」脱却のための意思決定はきわめて簡単です。投資初心者ほど採用する妙味があります。
そして、この「なんとなく」脱却のプロセスは、投資に対する感情のコントロールを学ぶ第一歩でもあります。わざわざ証券口座を開設し、資金を投入する人はリスクを取ってお金を増やしていこうという意欲を持っているわけですが、意識的に自分の感情のコントロールをしていかなければなりません。
ここでいう感情のコントロールは投機欲との戦いであり、オーバーコンフィデンス(自信過剰)の戦いです。いずれも、リスクを取る勇気になっても必ずしもリターン向上にならないのが難しいところです。
投資は理論的な問題でありつつ、感情的な問題です。投資初心者が長く投資を続けていくためにも、「なんとなく」蛮勇の橋を渡らないようにしてほしいものです。