企業年金や公的年金運用のポートフォリオは参考になるか

リスクを抑えて、かつ期待リターンを高めるポートフォリオを考えるのは個人にとってなかなか至難の業です。簡便的なポートフォリオの管理方法は多くのFPや経済評論家が提案しています。

個人の資産運用においても、なんとなくポートフォリオを決めるのではなく、想定される収益率と、想定の範囲としての損失可能性を考えておいてほしいところです(少なくとも「資産全体に占めるリスク資産保有割合」くらいは意識的に決めておきたい)。

このとき、自分の働いている会社の企業年金がどのようなポートフォリオを採用しているか、あるいは公的年金運用のポートフォリオを採用しているかを調べ、これを参考にしてみる方法が考えられます。
いずれも機関投資家として、相応のコストを払って運用方針の決定を行っていますので、これにフリーライドしてみようというわけです。

ただし、猿真似では自分自身のポートフォリオとしては最適にならない恐れがあります。参考にするための方法を考えてみたいと思います。

年金運用のポートフォリオの上手な利用方法

比較的入手しやすい、分散投資の効いたポートフォリオとしては「公的年金運用(GPIF)」「企業年金連合会の運用」「自分の会社の企業年金の運用」などがあります。それぞれ以下のような違い、特徴があります(下記図版にポートフォリオのグラフもあるので参考にしてください)。

1 公的年金運用

運用主体の特徴
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が厚生労働大臣の寄託により国の年金運用を担当している。2011年12月末の運用資産は約108兆円。
情報入手方法
GPIFのHPにて運用計画および四半期ごとの運用報告が情報開示。開示スピードはもっとも速い
各アセットクラスごとの期待リターン、リスク、相関係数等は下記リンクを参照。
運用方針の特徴
国の年金運用については、国内債券が全体の3分の2を占める安定的な資産配分になっていることが特徴。期待リターン3.36%、リスク5.36%のポートフォリオとされている。
個人の運用への参考度
保守的なポートフォリオとして、個人の資産運用の配分比率決定の物差しとして使いやすい。ただし、年金運用においては「定期預金」のようなアセットクラスがないため、国内債券の比率が高くなるため、個人のポートフォリオでもそのまま3分の2を国内債券に投資するかどうかは検討する必要がある。個人においては「預貯金+リスク資産」という配分検討で国内債券の保有割合の一部を代替することもできる。

2 企業年金連合会の運用

運用主体の特徴
解散した厚生年金基金や転退職した中途退職者の厚生年金基金相当分の年金資金を管理・運用する。2011年3月末の運用資産は約10兆円。
情報入手方法
企業年金連合会のHPにて運用計画および年度ごとの運用報告が情報開示される。
運用方針の特徴
企業年金連合会のポートフォリオは為替ヘッジを前提に「内外株式」「内外債券」の2アセットクラスによるポートフォリオを設定しており、いわゆる4資産(内外の株式・債券を区分する)による資産配分を採用していない(内訳の開示もしていない)ことに特徴がある。
個人の運用への参考度
かつては国の年金運用との比較対象として、より積極的にリスクを取ったポートフォリオとして参考にしやすいものであったが、現在は、個人がそのまま援用しにくい。

3 自分の会社の企業年金のポートフォリオ

運用主体の特徴
各企業、あるいは業界団体が設立する企業年金ごとに資産管理・運用を行う。2011年3月末で確定給付企業年金39兆円、厚生年金基金29兆円の規模であるが、各企業年金では数十億円~数千億円と違いが大きい。
情報入手方法
各企業年金が情報開示を行い、加入者・受給者へ情報発信を行う。企業内イントラネットに掲載されるか、「基金ニュース」のような広報誌を配布するのが一般的。一般的には年1回の報告が多い。図版に示しているのは企業年金連合会調査による企業年金全体の平均的な資産配分である。
運用方針の特徴
企業年金ごとに制度設計上の予定利率や成熟度(現役社員と年金受給者の比率)の変化などを考慮しながら資産配分計画を決定する。企業年金内の運用委員会などで議論され、理事会・代議員会で機関決定される。外部コンサルティング会社等の知見を用いることも多い。近年では期待リターンの向上を目指してヘッジファンドの組み入れ比率向上が目立つ。企業年金の予定利率は各社によって大きく差があり、2%を切る設定から旧来の5.5%まであり、運用計画も大きく違ってくる。期待リターン、リスク等は各企業年金のディスクロージャーで確認のこと。
個人の運用への参考度
企業年金のポートフォリオは、公的年金運用と比べ新しいトレンドを取り入れる速度が速いため、ヘッジファンドの活用などが進んでいる。ただし全体としてのリスクコントロールを意識し、5~10%に組み入れをとどめるのが一般的で、個人においても参考とすべきであろう(AIJの被害が大きい企業年金はリスク管理を軽視していたといえる)。また、企業年金の方針は企業の掛金負担能力、リスクに対する考え方、成熟度などに影響するため、「どうしてその資産配分を決定しているか」の説明をチェックしながら、個人の運用の参考とすることが重要。

年金運用の情報は、個人の老後資産形成に生かしていきたい

自分のポートフォリオの参考とするかは読者の判断に任せるところですが、年金運用の情報は、個人の資産運用においてもチェックしておきたい情報源のひとつです。

まず、年金運用のポートフォリオを軸に、よりリスクを取るか、あるいは保守的な運用を行うか検討する物差しとなることです。
今回のコラムもそうした使い方を念頭にして書いていますが、「公的年金の運用より自分の運用ではリスクを取ってもいいと考える」という投資判断はなんとなく資産配分するよりよほど建設的です。そこから、自分に最適化されたポートフォリオ作りにステップアップしていけばいいのです。

第2に、自分の資産の一部が運用されているという点で、年金運用の現況を把握していくことが必要ということです。国の年金運用資金は事前積立の考え方に立っていないものの自分の将来の年金原資の一部であることは間違いありません。企業年金については原則として事前積立の考え方で資金準備していますから、受給権に応じた持ち分は自分の資産と考えるくらいの意識が必要です。

今回、AIJ問題のニュースを見て、「自分の企業年金は大丈夫か?」と思った人は多いと思いますが、どこにその情報があるか分からず確認をあきらめた人も多いと思います。企業年金のディスクロージャーは各社の取り組みに差異がありますので、情報開示が不足していると思われるのであれば、会社(企業年金事務局)へリクエストしたり、労働組合を通じて要望させるといいでしょう。

また、年金運用のポートフォリオを意識しつつ、自身のポートフォリオを調整していく考え方もあります。たとえば「国内債券は年金運用で十分保有しているので、手元の資産運用で持ちすぎる必要はない」というようなスタンスで、年金運用の投資情報を参考にすることも可能です。

最後に、確定拠出年金(日本版401k)を採用している企業の従業員においては、年2.0~2.5%程度の収益を確保するポートフォリオ作りを求められることが多く、なんとなく預貯金を保有するとこれを達成することができません(達成することを目指すのであれば。目指すことは義務ではないが、目指さない場合は退職給付水準の目減りを受け入れなければならない)。 仮に5割の資産を公的年金のポートフォリオとほぼ同等の資産配分とし、残り5割の資産を預貯金に回せば、約2%の期待リターンを目指す資産配分となります。投資初心者の最初の資産配分のヒントとして、年金運用の情報は参考にしてみたいところです。

代表的な年金ポートフォリオ

年金運用のポートフォリオをまねる際の注意