今回は前回の続きとして、どのような環境にあると株価急落が起こりやすいのか、そして株価急落が起こりやすい環境にある際にどのように対応していけばよいかを解説します。

パターン2の急落を引き起こしやすい環境とは?

実は、パターン2(ヘッジファンドなどの売り仕掛けをきっかけとして、株価が大きな下落につながっていくパターン)の急落を引き起こしやすい環境、つまり、ヘッジファンドの売り仕掛けが成功しやすい環境があります。

それは、「裁定買い残高が高水準であること」と、「信用買い残高が高水準であること」です。

現物買いのことを「実需」というのに対し、裁定買いや信用買いは「仮需」と呼ばれます。裁定買いや信用買いは、遠くない将来に反対売買により決済されるものだからです。そのため、「将来の売り圧力」になります。

そして、裁定買い残高や信用買い残高が多くなれば、それだけ将来の売り圧力が高まっていくことになります。

ただ、単に裁定買い残高や信用買い残高が多いからと言って、それだけで株価が下落するわけではありません。現に、裁定買い残高や信用買い残高が高水準のまま、株価がどんどん上値を追っていくこともよくあります。

ではなぜ、裁定買い残高や信用買い残高が高水準にあると、ヘッジファンドの売り仕掛けが成功しやすいのでしょうか。それは、裁定買い残高や信用買い残高は、株価が下落すると反対売買による売りを誘発しやすい、という性質を有しているからなのです。

昨年5~6月や今年1~2月の急落は売り仕掛けが成功しやすい環境だったのか?

今でも記憶に新しいのが、それまで堅調に推移していた日本株が、昨年5月下旬に突然下落をはじめ、6月にかけての短期間で日経平均株価が3,500円もの急落をした局面です。

このとき、裁定買い残高が4兆3千億円と、アベノミクス相場がスタートした2012年11月よりも2兆円も増加して非常に高水準に膨れ上がっていました。

こうした中で売り仕掛けが行われたことにより、大量の裁定解消売りが誘発され、株価のスパイラル的な急落につながったのです。

また、今年1月下旬~2月上旬の株価急落も、きっかけはヘッジファンドの売り仕掛けだったといわれています。また1月は、投資主体別売買動向をみても分かるように、昨年まで大きく買い越してきた外国人投資家の利食い売りも見られました。

こうした中、多くの個別銘柄が上昇トレンドから下降トレンドへと転じ、さらなる下落により信用買いをしている個人投資家の損切りを誘発し、最後には追い証にまで追い込まれた個人投資家の投げ売りにまで発展していったのです。

このように、昨年5月~6月の急落時には「裁定買い残高が高水準」、今年1月~2月の急落時は「信用買い残高が高水準」と、いずれも売り仕掛けが成功しやすい環境にあったことが分かります。

高水準の裁定買い残高や信用買い残高であっても直ちに弱気になる必要はないが…

では、裁定買い残高や信用買い残高が高水準であることが分かった場合、どのような行動をとればよいでしょうか。

実は、裁定買い残高や信用買い残高が高水準であっても、株価のトレンドが上昇トレンドにある間は、特に弱気になる必要はありません。持ち株の保有を続けていても問題ありません。

ただし、裁定買い残高や信用買い残高が高水準の中、それまで堅調だった株価がなぜか大きく下げはじめ、日経平均株価やTOPIX、そして保有する個別銘柄の株価が上昇トレンドから下降トレンドに移行してきたならば、持ち株を売却するなど守りを固める必要があります。

特に、現在の日本株のように、安値から大きく上昇したあとの局面では、売り仕掛けが成功すると思った以上に株価が大きく反落することがあります。

株価の下落がそれほどひどくならずに再び反転上昇することももちろんありますが、その場合は下降トレンドに転じた株価が上昇トレンドに復帰した段階で売却した株を買い直せばよいのです。

「今回の下落は大きなものにならないはずだ」などという根拠の希薄な思い込みに頼って、下降トレンドに転じた持ち株を我慢して持ち続けることを繰り返していると、いつの日か想像以上の急落に巻き込まれて大ケガをすることになりかねません。

現在は売り仕掛けが成功しやすい状況にあるのか?

現在は売り仕掛けが成功しやすいような環境にあるのか、裁定買い残高や信用買い残高の直近のデータをチェックしてみましょう。

まず、2月14日時点の裁定買い残高は、約2兆6千億円と、直近のピークである4兆2千億円からはかなり減少しています。過去の水準から比べるとまだ高水準ではありますが、裁定買い残高の面からみれば、それほど売り仕掛けを心配しなくてもよいのではないかと思います。

しかし、問題なのが信用買い残高です。直近の信用買い残高のデータをみると、2月14日時点でおよそ3兆3千億円もあります。1月31日時点の約3兆5千億円からは、7%ほどしか減少しておらず、依然高水準であることが分かります。

2月第1週は、特に2月4日に非常に多くの追い証が発生したなど、信用取引の投げ売りのピークだったはずです。その割には信用買い残高がたいして減っていないことを考えると、信用取引の投げ売りが出尽くしたという印象は持てません。

もちろん、ある程度の投げ売りが出たからこそ、2月4日を底に、一旦の下げ止まりからリバウンドに入っているわけですが、信用買い残高がいまだに高水準にとどまっていることからは、ヘッジファンドの売り仕掛けが成功しやすい状況が続いていることには変わりないといえます。