「割安」だからといって直ちに買われるものではない

来年(2013年)1月1日より、信用取引における保証金の取扱いが変更になります。信用取引の資金効率が大幅にアップし、個人投資家に大きなメリットがもたらされることになります。

改正の内容は以下の通りです。

同日において、同一資金で何回でも信用取引を行うことができる(回転売買が何度でも可能)

楽天証券の場合、例えば300万円の保証金を差し入れると1,000万円分の信用取引ができます。従来は、信用建て玉を新規建てした日と同じ日に返済した場合、翌日にならないと信用取引の余力は回復しませんでした。これが来年以降は、信用建て玉を返済すると即座に余力が回復するようになります。これにより、当日中の回転売買が何回でも可能になります。

信用取引による実現利益は即座に保証金に充当される

従来は、信用取引による実現利益が保証金に充当されるのは翌日になってからでしたが、来年以降は実現利益が即座に保証金に充当され、それに応じて信用取引可能額も増大します。

信用取引の建て玉返済により追い証を解消することができる

従来は、信用取引の含み損拡大により追加保証金(「追い証」)が必要となったとき、現金で入金をする必要がありました。これが来年以降は、信用取引の建て玉を返済することで解消できるようになります。

信用取引規制緩和で株式市場活性化 → 株価上昇に期待

これらの改正により、株式市場の活性化が大いに期待できます。株価は需要(買いたい人)と供給(売りたい人)の力関係により決まります。そのため株価が上がるためには、株式市場に資金がより多く流入することが必要です。改正により、個人投資家は信用取引を使って何度でも回転売買ができるようになるわけですから、これは株式市場に流入する資金が増加することと同じ効果があるといえます。

よく株価上昇の背景として、「個人投資家の資金の回転が効いている」といわれることがありますが、これは「買う」→「株価上昇で利益確定売り」→「再度買う」→「株価上昇で利益確定売り」という流れがうまく機能している状況をいいます。信用取引による同日中の回転売買が可能になれば、「資金の回転が効く」ことにより、株式市場が活況となり株価の上昇につながることが大いに期待できます。

また、信用取引による回転売買が活況になれば、取引量が増えるため、証券会社が受け取る手数料収入や金利収入も増加するでしょう。そうなれば、証券株の業績に大きなプラス材料となり、株価の上昇が期待できます。ここ最近の証券株は他の業種に比べて株価が強いように感じますが、信用取引規制緩和による業績向上を見越した先回りの買いも入っているのかも知れません。

筆者が考える信用取引の2つのメリット

ところで、今回の信用取引の改正は、どちらかといえば1日に何度も売買を繰り返すデイトレーダーといった個人投資家にとっては朗報ですが、会社勤めの人など取引時間中に株取引ができない個人投資家にとってはあまり影響はありません。

とはいえ、筆者はデイトレーダーではない個人投資家にとっても、信用取引を有効活用することが投資成果のアップにつながるものと考えています。

信用取引のメリットとして、筆者は次の2つを挙げたいと思います。

  1. 保有資金の約3倍の株取引ができる(レバレッジがかけられる)
  2. 空売りができる

以下で詳しく説明していきましょう。

信用取引を活用して一段上のステージを目指そう

まず①の「保有資金の約3倍の株取引ができる」という点です。

筆者は、個人投資家の株式投資には、運用資金の額により大きく3つのステージがあると考えています。

ステージ1:運用資金100万円-最低限必要な金額
ステージ2:運用資金1,000万円-銘柄分散などが容易になり株式投資がしやすくなる金額
ステージ3:運用資金1億円-積極的に増やすより大きく減らさないことを重視すべき金額

ステージ1は、株取引を行うために最低限必要となる金額です。運用資金が100万円未満でも株式投資は十分楽しめますが、財産形成という面からは最低100万円は欲しいところです。

ただし、実はステージ1の段階では、色々と制約を受けてしまうことが多々あります。

筆者はリスク軽減のために、複数(10銘柄以上)の銘柄への分散投資を勧めてきました。タイミングの難しい「売り」に対処するため、1銘柄につき2単位以上保有することも提言しています。

でも、運用資金が100万円程度だと、これらを実行することが非常に難しいのです。また、運用資金が100万円の状態で、毎年10%ずつ増やすようにこつこつと運用しても、資金はなかなか増えません。

そこで、できるだけ早くステージ2の段階へ持っていくことが重要となります。運用資金が1,000万円あれば、複数銘柄への分散や1銘柄につき2単位以上保有することが難なくできるようになりますし、株式市場の状況に応じて、株式への投下資金を機動的に増減することもできます。

仮に、現在の投資資金100万円、給料から投資に回せる金額が毎年100万円の個人投資家のケースを考えてみましょう。

毎年10%の利益を上げ続ければ、1,000万円にするのに約7年かかります。これが、信用取引を使ってレバレッジをかけ、毎年100%の利益を上げることができれば3年足らずで1,000万円まで持っていくことができます。

もし毎年投資に100万円ずつ回せるのであれば、信用取引を使ってレバレッジをかけた結果100万円を失ったとしても、それほど手痛いダメージにはならないというのが筆者の考えです。もちろん人それぞれ考え方が違いますから無理強いはしませんが、株式投資でそれなりの資産を形成したいならば、多少のリスクは覚悟で、信用取引でレバレッジを効かせてまでもまずは1,000万円まで増やすことが重要だと思います。

空売りができれば投資成果を格段にアップさせることも可能

次に②の「空売りができる」という点です。

株価の動きにはトレンドがあることは本コラムや拙著でも何度も申し上げてきている通りです。下降トレンドの間に株を買って保有しても利益を上げることは難しく、それどころか大きな損失をかかえてしまうこともあります。「買い」で利益を上げられるのは上昇トレンドのときだけなのです。

しかし、空売りができれば、下降トレンドでも利益を上げることができるようになります。上昇トレンドのときは「買い」で、下降トレンドになったら「空売り」で利益を上げるようにすれば、「買い」だけしかしない投資家に比べて利益を上げる機会が格段に増えます。

さらに、バブル崩壊後の日本株は長期的に下降トレンドが続いています。過去20年間は「空売り」のできる投資家が大変有利だったのです。

純粋に空売りで利益を得る以外にも、「ツナギ売り」(第53回や第78回コラムをご参照下さい)を使って現物株の一時的な株価値下がりリスクのヘッジをすることもできます。

空売りができれば投資スタイルの幅が間違いなく広がります。それは投資成果の向上にもつながっていくのです。

次回は、事例研究編として、ある銘柄を取り上げて信用買いや空売りを仕掛けるタイミングや損切り価格の設定方法などを解説する予定です。