なぜエー・ディー・ワークス株はライツ・オファリング発表後下落したのか?
今回も前回に引き続き「ライツ・オファリング」についてです。
エー・ディー・ワークスの場合、ライツ・オファリング実施の発表後、株価は大きく下落しました。これは非常に興味深い現象です。
なぜ株価が下落したのか、筆者なりに考えてみますと、エー・ディー・ワークス株自体が買い人気に乏しかったことが大きいのではないかと思います。
もし、投資家がこの株に対して株価の先高感を有しているならば、株価は下がらないか、逆に上昇していくでしょう。現在の株価より今後株価が上昇する期待感に加え、4,000円という時価より安い価格で新株を取得できる権利もついているからです。
一方、投資家がこの株に対して株価の先安感を持っていれば、株式価値の希薄化懸念も相俟って株価は下がってしまうでしょう。
エー・ディー・ワークス株はここ2年ほど株価が下落基調でしたから後者に該当します。新株予約権の行使による1株当たり純資産の希薄化の影響がもろに株価のマイナスインパクトとして響いてしまったのです。
保有している銘柄がライツ・オファリングを実施したらどうするか?
では、自身が保有している銘柄がライツ・オファリングの実施を発表したら、いったいどうすればよいでしょうか。
ライツ・オファリング実施の事例は少ないため、エー・ディー・ワークスの事例だけで決めつけてしまうのはやや乱暴かも知れませんが、特に新株予約権の権利行使価格が株価や1株当たり純資産の額を大きく下回っている場合は、株主価値の希薄化や新株流通による需給悪化懸念などから株価が大きく下落する恐れもあります。そこで、筆者であれば発表後とりあえず速やかに売却して様子をみることとし、株価が落ち着いたら買い直すかどうか改めて判断するようにします。
エー・ディー・ワークスの例でも、発表後の10月2日の寄り付きで売れば、発表前の10月1日終値7,360円とほぼ同じ水準の7,300円で売ることができました。しかし、権利付き最終日である10月11日の終値は5,490円まで下がってしまいました。
新株予約権は行使すべきか売却すべきか?
筆者であれば、仮に保有銘柄にライツ・オファリング実施の発表がなされたら上記のようにとりあえず売却して様子を見たいと思いますが、もちろんそのまま持ち株を保有し続けるという選択肢もあります。
持ち株を保有し続ければ、新株予約権が付与されるわけですが、その場合、付与された新株予約権を行使すべきか売却すべきか、という問題があります。
これについては、追加で投資資金を出して新たにその会社の株を買い増したいかどうか、ご自身で判断するほかありません。
エー・ディー・ワークスの新株予約権を行使した場合は、エー・ディー・ワークス株に追加で資金を投入することとなりますから、その分だけ投資リスクが拡大する(仮に株価が下がった場合に含み損が大きくなる)ことになります。これ以上エー・ディー・ワークス株の投資リスクを拡大させたくないのであれば、新株予約権を売却すればよいでしょう。
ちなみに、エー・ディー・ワークスの新株予約権の理論上の価格は「株価-4,000円」となりますが、上場した新株予約権の価格は理論値より低いものとなっています。10月19日のエー・ディー・ワークス株の終値は5,270円、対して新株予約権の終値は985円、両者の差は4,285円あります。これは、今後の価格下落リスクも考慮すると理論値より多少安くても良いから新株予約権を売っておきたい、という人が多かったためと考えられます。
新株予約権はいつ売ったらよいのか?
エー・ディー・ワークスの新株予約権は上場して市場で売買できるようになっています。新株予約権を付与されたエー・ディー・ワークス株主が保有する新株予約権を売却するだけでなく、新株予約権を買うこともできます(ただし買い付けができるのは一部の証券会社に限られているようです)。買った新株予約権を買値より高く売ることで、利益を得ることも可能です。
新株予約権の価格はエー・ディー・ワークス株の株価に連動して上下します。エー・ディー・ワークス株は10月17日の終値4,690円から翌18日には700円高の5,390円まで上昇しました。新株予約権も10月17日に430円だったのが18日には同様に700円高の1,130円になりました。
新株予約権の価格は日々変動します。新株予約権を売却するとしても、今後のエー・ディー・ワークスの株価次第でもっと高く売れるかもしれないなどと考えると、一体いつ売ったら良いのか分からなくなってしまいます。
しかし、新株予約権を売ると決めたのなら、そこはある程度割り切って速やかに売ってしまうのが良いのではないかと筆者は思います。仮に10月19日に985円で新株予約権を売却した後で、新株予約権の価格が2,000円、3,000円に上昇するかもしれませんし、ゼロになってしまうかも知れません。でもどっちに転ぶのかは分からないからです。
もし、価格が今より下がってしまっても構わないからもっと高く売りたいというのなら、もう少し保有を続けていればよいと思います。ただし、新株予約権が売却できる期間(上場している期間)は限られていること、新株予約権を売却せず、権利行使もしなかった場合は権利が消滅してしまうという点だけはくれぐれも気をつけてください。
このライツ・オファリングという手法による資金調達はメジャーなものではありませんが、今後この手法を用いる企業が増えてくる可能性もあります。私たち個人投資家は、もし今後保有している銘柄がライツ・オファリングを実施することとなったときに慌てないよう、今回のエー・ディー・ワークスの例を大いに参考にしたいものです。