「ライツ・オファリング」って何のこと?
事例研究シリーズ、今回はエー・ディー・ワークス(3250)という会社が実施する「ライツ・オファリング」についてです。
10月1日、エー・ディー・ワークスは「ライツ・オファリング」という手法による資金調達を行うことを発表しました。
何やら聞き慣れない言葉ですが、「ライツ・オファリング」とはいったいどんなものなのでしょうか。エー・ディー・ワークスの10月1日付開示資料(ライツ・オファリング(ノンコミットメント型/上場型新株予約権の無償割当て)に関するご説明(Q&A)(株主様用))によれば、「ライツ・オファリング」とは、「新株予約権を無償で株主様に割り当て、新株予約権を行使していただくことにより、会社が資金調達をする手法の一つ」です。また、「新株予約権」とは、「その権利を保有する者が、行使期間において行使価額を払い込むことにより、発行会社から、株式が交付される権利」のことです。
エー・ディー・ワークスの場合、10月16日時点の株主に対して、1株につき1個の新株予約権を付与します。新株予約権の行使価格は4,000円であり、新株予約権1個につき新株1株が発行されるとともに、権利行使価格として払い込まれたお金がエー・ディー・ワークスに入ることで資金調達がなされるという仕組みです。
会社は「既存株式の希薄化は避けられる」というが…
ここで株主や投資家にとって気になるのは、新株発行を伴う資金調達を行った場合、「株式の希薄化」が懸念されることにより、株価が大きく下落してしまうのではないか、という点です。事実、ここ近年公募増資などによる資金調達を実施した企業の株価は、その多くが発表後大きく下落しています。
この点、エー・ディー・ワークスの10月1日付開示資料をみると、「割り当てられた新株予約権の全てを行使した株主は、持分比率の希薄化は生じない」とあります。
単純な例で説明しましょう。発行済株式10,000株(自己株式はゼロとする)のうち200株を保有している甲さんの持分比率は200÷10,000=2%です。甲さんがライツ・オファリングによる新株予約権をすべて行使すれば、甲さん以外の株主全てが同様に新株予約権を行使したとしても、発行済株式は20,000株、甲さんの持ち株400株となり、持ち株比率は400÷20,000=2%のまま変わりません。
ただし、甲さんだけが新株予約権を行使しなかったとしたら、発行済株式は19,800株となり、持ち株が200株のままである甲さんの持株比率は200÷19,800=約1%に低下してしまうのです。
エー・ディー・ワークスの開示資料に書かれているのは、割り当てられた新株予約権の全てを行使する限り、持分比率が低下することはない、ということです。
また、開示資料では、新株予約権を行使しなくとも、新株予約権を売却することで持分比率の希薄化により生じる損失をカバーできるとされています。
それでは「株主価値」の希薄化は?
確かに会社の言うとおり、新株予約権を行使すれば「持分比率」の希薄化は避けられそうです。では「株主価値」の希薄化についてはどうでしょうか?
開示資料にははっきりと記されていませんが、新株予約権の行使がなされると、1株当たりの株主価値の希薄化が起こります。
このうち、1株当たり当期純利益については、確かに新株予約権行使により発行される新株の分だけ希薄化されますが、株主自身が新株予約権の行使をすれば保有株数も増える(先の例でいえば1株当たり当期純利益は2分の1になるが保有株数は2倍になる)ため、希薄化による影響は、新株予約権行使を前提とすれば気にしないで大丈夫です。
ただし、新株予約権の行使をせず売却する場合は、売却代金である程度カバーされる可能性はあるものの、発行済み株式数の増加に応じた希薄化の影響が出てきます。会社が想定の1つとしている「65%権利行使」が実施されると、1株当たり当期純利益は希薄化により1-{1÷(1+0.65)}=約40%目減りします。
1株当たり純資産の希薄化は免れないか
さらに、1株当たり純資産については、ライツ・オファリング実施前の1株当たり純資産よりも、新株予約権の行使価格が小さいため、例え新株予約権の行使をしたとしても希薄化は免れません。
10月1日付開示資料によると、直近の決算期末(2012年3月末)時点での1株当たり純資産は16,179円です。これに対し、新株予約権の行使価格は1株につき4,000円ですから、すべての新株予約権が行使されたとすると、1株当たり純資産は(16,179+4,000)÷2=10,090円に下がってしまいます。また、会社が想定の1つとしている「65%権利行使」の場合は、1株当たり純資産は(16,179+4,000×0.65)÷1.65=11,381円に下がります。
ライツ・オファリング実施発表直前の株価は7,360円でしたからこれと1株当たり純資産16,179円からPBRは0.45倍と計算されます。
もし、ライツ・オファリング実施後もPBRが同水準であるとするならば、全ての新株予約権が行使なら10,090×0.45=4,540円が、65%行使なら11,381×0.45=5,121円がライツ・オファリング実施の影響を見込んだ当面のあるべき価格と推定できます。
これに対し、権利落ち後の基準値段は(5,490+4,000)÷(1+1)=4,745円でした。つまり、株価は特にPBRの面からみた「株主価値」の希薄化の影響をしっかりと織り込んで下落していたと推測できます。
今回はライツ・オファリングの意味と、ライツ・オファリング実施による株式の希薄化の影響について考察してみました。
次回は保有株にライツ・オファリング実施の発表があったらどうするか、そして株主は新株予約権を行使すべきかそれとも売却すべきか、について考えてみたいと思います。