専門家でも意見が分かれる「JAL株は買いか?」への回答
経営破たんから2年7カ月を経て、日本航空(9201)(以下「JAL」)が再上場を果たしました。マネー雑誌やインターネットの投資サイトなどでは、「JAL株は買いか?」の個人投資家からの質問に対し、様々な専門家が様々な回答をしています。しかしそれらの多くが漠然とした内容であり、中には個人投資家の判断を惑わせるようなものもあります。これでは個人投資家がますます混乱してしまうのではと心配してしまいます。
そこで今回のコラムでは、「JAL株は買いか?」に対する筆者なりの判断手法をご紹介したいと思います。
JAL株は「成長株」なのか?
筆者は銘柄選びの際に、その銘柄が「成長株」かどうかをまず判断します。「成長株」とは、毎年売上や利益が増加しているような銘柄です。前回のコラムで株価チャートを掲載したMonotaRO(3064)などは成長株の好例です。
会社四季報最新号(2012年秋号)でJALの業績欄を確認しますと、2012年3月期の実績と比べ2013年3月期、2014年3月期の予想は若干増収増益ながらほぼ横ばいになっています。この予想値は東洋経済社の独自予想であり、2013年3月期の会社予想は2012年3月期の実績より大きく減益となっています。
この業績予想数値を見る限り、JAL株は「成長株」のカテゴリーには入らなそうだと判断できます。
もちろん、表面的な数値だけではなく、今後のJALを取り巻く経営環境や将来性を加味すれば売上も利益も大きく伸びる、と予想される方がいればまた判断も変わってきますが、筆者はJALの業績が大きく成長するイメージは今のところ持っていませんので、四季報の予想数値をベースに考えます。
JAL株は「割安株」に入るか?
成長株であれば、PBRやPERといったバリエーション指標からみて株価が割安と判断されなくとも、将来の業績成長期待で高値を買い上げていくこともできます。しかし、成長株でないならば、株価がバリエーション指標からみて割安かどうか、つまり「割安株」かどうかで投資判断をすることになります。
そこで、代表的なバリエーション指標のうちまずPBRをみてみますと、1株当たり純資産は2,218円、それに対して9月末の終値は3,650円ですから、PBRは1倍を超えており、少なくともPBRの観点からは割安とはいえません(筆者が考える割安なPBRは0.5倍以下)。
では、PERはどうでしょうか。会社四季報では2013年3月期の予想1株当たり純利益は1,048円です。ただしJALは過去の欠損金の存在により、法人税等を当面支払わなくとも済むようになっているため、当期純利益がかさ上げされています。そこで、経常利益×60%をあるべき当期純利益として1株当たり純利益を計算し直すと、
200,000 × 60% × (1,048 ÷ 190,000) = 662円
となります。
これと9月末の終値3,650円を使ってPERを計算すると5.5倍になります。
業績があまり伸びずとも利益水準がそこそこ安定している銘柄のPERは10倍程度が適正水準と筆者は考えていますから、PERの面からはJAL株は割安ととらえることができます。
しかし日本株全体が低迷している中、PERが3倍、5倍で放置されている銘柄がゴロゴロしていますので、JAL株が際立って割安であるというわけではありません。
配当利回りからJAL株をみてみると
もう1つの代表的バリエーション指標、配当利回りをみてみましょう。会社四季報最新号では、2013年3月期の予想1株当たり配当金は100円~157円、2014年3月期は100~165円とされています。
9月末の株価は3,650円ですから、もし配当金が1株100円なら配当利回りは2.7%、1株157円なら4.3%になります。
さらに航空会社の場合は航空券の割引券という株主優待があります。これに魅力を感じて航空株へ投資する個人投資家の方も多いと思います。この株主優待の金銭的価値は人それぞれ(どの路線に対して割引券を使うかや、割引券を実際に使うか金券ショップで換金するかにより大きく異なる)でしょう。また、持ち株数に応じて割引券の枚数も異なりますので一概には言えませんが、100株(最低売買単位)あたり年間6,000円程度とみておきます。
すると、株主優待を加味した1株あたり配当金は上記に60円が加算され、平成13年3月期は160円~217円となります。これを実質的配当利回りとすると、4.4%~5.9%となり、配当利回りの面からみれば今の株価にはかなりお得感があります。
ただし、配当金はあくまで将来の予想であり、今後の業績により大きく変動する可能性がある点は注意してください。株主優待も同様です。
最終的にはトレンドで判断したいが…
さて、少なくともPERや実質配当利回りでみれば割安なJAL株ですが、いくら割安であっても株価は上がらない時は何年も上がらず、逆にこれでもかというくらい下がることもあるのが今の日本株です。
そこで、株価チャートで株価のトレンドを見極め、上昇トレンドにあるならば買いおよび保有としたいところなのですが、残念ながら上場して間もないJAL株の株価チャートは短すぎて株価のトレンドを判断することができません。
したがって、株価のトレンドを重視する筆者としてはJAL株が「買い」かどうかの判断は如何ともしがたいのですが、次善の策として「公募価格」と株価を比較するという手があります。
JAL株の公募価格は、1株3,790円でした。この公募価格でJAL株を取得した投資家は大勢います。公募価格を上回れば、とりあえず売っておこうと考える投資家も多いはずです。
そこで、株価が公募価格を上回っていれば、そうした売り物を吸収できるだけの買いが入っていると考えられるため、買っていってよいと判断します。
一方、株価が公募価格を下回っている場合は、公募価格に近付いてきたら持ち株を売りたいと考える公募株取得組の売り圧力がありますから、公募価格を上回るまでは買いは見送り、と判断するのです。
もう1つ、株価が公募価格を下回っていても「直近安値を下回れば損切り」を条件に新規買いする方法もあります。例えば9月末時点での直近安値は9月26日につけた3,210円ですから、これを下回れば損切りとした上で時価で新規買いをするというものです。
上場して3カ月程度経過すれば、日足チャートと25日移動平均線でトレンドを判断できるようになりますから、それまでは暫定的に上のような方法を用いておくのがよいのではないでしょうか。
以上より、PERでみれば割安の範疇だがあくまでもトレンドに応じて売買をするのが基本、株主優待を含めた配当利回りを重視する場合は今後の配当方針や株主優待長期保有するだけの価値もありそうだ、というのが筆者の結論です。
「まさかJALは倒産しない」「株主優待が欲しいから持ち続ける」と多くの個人投資家が倒産するまでJAL株を持ち続け、そして大きな損失を被ってしまいました。新生JAL株にもし投資するのなら、同じ失敗はぜひ避けるようにしたいものですね。