まずは有利子負債とキャッシュの比較をしよう

キャッシュ・フロー計算書はとても便利な決算書で、前回ご説明したような企業の収益力(キャッシュ獲得能力)を知ることだけでなく、企業の安全性(倒産の可能性が高いかどうか)を判断することもできます。

まず、貸借対照表の「有利子負債」とキャッシュ・フロー計算書の「現金及び現金同等物期末残高」(以下「現金同等物」)を比較して、ストック面からみた安全性を判断しましょう。

有利子負債も現金同等物も会社四季報に記載されていますから、それを用いて簡単に判断することができます。

有利子負債ゼロ、つまり無借金であれば、安全性は問題ありません。ただし無借金でも赤字が何年も続いている場合は将来的にキャッシュを食いつぶしてしまう恐れがありますから多少注意が必要です。

有利子負債がある場合も、現金同等物より金額が小さければ特段問題なしとしてOKです。現金同等物より有利子負債が大きくても、例えば現金同等物300億円、有利子負債500億円といったレベルならあまり心配はいりません。でも、現金同等物5億円、有利子負債500億円というような場合は安全性の面からは要注意です。

キャッシュが底をついて借入金が返せなければ企業は倒産してしまいますから、まずは有利子負債と現金同等物を比べて借入金の返済能力を見極めましょう。

営業キャッシュ・フローは収益力だけでなく安全性も表す

次に営業キャッシュ・フローの推移を見て、フロー面からの安全性を判断します。

実は、営業キャッシュ・フローは、企業の収益力だけでなく、安全性をみるためにも用いられるのです。収益力と安全性はリンクしていて、収益力が高ければそれだけ安全性も高くなります。

プラスの営業キャッシュ・フローの金額は、企業が自由に使えるお金です。設備投資や他社の買収に使ってもよいですし、借入金返済に充ててもよいでしょう。配当金や自己株式取得など株主還元のために使うこともできます。

もし営業キャッシュ・フローの獲得能力が高ければ、借入額が多少多くても、借入金の返済にキャッシュを充当できますから安全面でそれほど心配はいりません。やがて借入金を完済して無借金ともなれば安全性は飛躍的に高まることになります。

一方、毎年返済を要する借入金の金額よりも営業キャッシュ・フローの方が小さい状態が続けば、いつまでたっても借金を減らせないばかりか逆に借金が増えてしまいます。そうした状態でひとたび業績が大きく落ち込むと、シャープのように一気に経営不安が高まるようなことも十分起こり得ます。

営業キャッシュ・フローと有利子負債の比較で安全性を判断する

ただ、営業キャッシュ・フローの額がいくらなら安全性が高いかは、企業規模の違いもありますから一概に言うことはできません。そこで、以下で紹介する指標を使って安全性を判断するとよいでしょう。

決算短信にて「キャッシュ・フロー関連指標の推移」を掲載している企業があります。その中の「キャッシュ・フロー対有利子負債比率」は、有利子負債を返済するのに現状の営業キャッシュ・フローであれば何年分必要かを表したもので、キャッシュ・フローの側面からみた企業の安全性を判断する指標として有用です。計算式は以下の通りです。

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(単位:年) = 有利子負債 ÷ 営業キャッシュ・フロー

決算短信に上記の指標が掲載されていない企業であっても、会社四季報には有利子負債と営業キャッシュ・フローの金額が記載されていますので、それを用いれば自身で計算することもできます。

一般的に、銀行が融資をする際の基準は10年以下とされているようですが、筆者個人的にはコンスタントに5年以下で推移しているのが望ましいと思います。

そして、この年数が年々低下傾向にあればより望ましく、逆に年々上昇傾向にある場合は安全性の面で要注意といえます。

営業キャッシュ・フローの増加ないし有利子負債の減少は数値低下につながり、逆に営業キャッシュ・フローの減少ないし有利子負債の増加は数値増加につながります。また、営業キャッシュ・フローがマイナスの場合は計算不能となります。

例えば、日本写真印刷(7915)の平成24年3月期決算短信をみると、平成22年3月期までは業績も好調だったため、キャッシュ・フロー対有利子負債比率は1.0~1.1年で推移していましたが、平成23年3月期には営業キャッシュ・フローがマイナスになり計算不能、平成24年3月期は7.1年に悪化しており、この指標をみる限りでは安全面でやや注意が必要といえるでしょう。

3つのキャッシュ・フローの増減で安全性が分かる

3つのキャッシュ・フローのプラス・マイナスの組み合わせで企業の安全性をある程度見極めることができます。

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営業CF
投資CF
財務CF
  • CF = 「キャッシュ・フロー」の略

まず、営業CFがプラスであることが最重要です。業績が景気に大きく左右される業種であれば1期だけのマイナスなら目をつぶってもよいですが、真の優良企業は景気いかんにかかわらず営業CFはしっかりとプラスを維持しているものです。プラスの営業CFが収益力だけでなく安全性にもつながります。

投資CFは安全性とは直接的にはあまり関係ありませんが、将来の利益やキャッシュ獲得のために投資を続けるのが真の優良企業であり、そのためには投資CFはマイナスとなるのが通常です。

財務CFは一般的に借入が増えればプラス、借入を返済すればマイナスになります。借入返済が進めば財務面の健全性が高まりますからマイナスの方が望ましいといえます。

上記表より、5~8番より1~4番が望ましく、最も望ましい形は4番ということができます。3番も財務CFがプラスなのは気になりますがまあ悪くない、という感じです。1番と2番は投資CFがなぜプラスなのかを確認したいところです。

5番~8番の場合は、現金同等物の残高もチェックしましょう。現金同等物残高が多ければ多少キャッシュが減っても大丈夫ですが、営業CFがマイナスでキャッシュ自体も減っているようなら要注意です。

企業は赤字続きでもキャッシュがあれば倒産しませんが、黒字決算でもキャッシュがなくなれば倒産してしまいます。

損益計算書の数値だけでなくキャッシュ・フロー計算書の数値にも着目して、企業の安全性を見極めるようにしてください。