高成長期待の新規公開株でも株価が下がる?

全盛期に比べるとだいぶ数は少なくなったとはいえ、株式市場に新規公開する銘柄は投資家にとって注目に値するものです。

新規公開株はその多くが高成長が見込まれており、少なくともファンダメンタルの面からいえば株価の上昇が期待できます。

しかし、実際に新規公開株の株価の推移をみると、決して右肩上がりの上昇を見せているわけではなく、中には新規公開後株価が低迷を続けてしまっている銘柄も少なくありません。

そこで今回は新規公開株へ投資する際の注意点をまとめてみたいと思います。

株価のトレンドが分からないことが重大な問題

当コラムや拙著を以前よりご覧いただいている個人投資家の方はご存じかと思いますが、筆者は株式投資にあたり株価のトレンドを重要視しています。それは、株価は業績にある程度連動して動くものの、最終的に株価を決めるのは需給だからです。買いたい投資家が売りたい投資家より多ければ株価は上昇し、その軌跡は株価チャートではっきりと上昇トレンドという形で表れます。逆に売りたい投資家が買いたい投資家より多ければ下降トレンドが株価チャート上に映し出されます。

新規公開株の大きな問題は、公開して間もないがゆえに、株価チャートが短すぎ、株価のトレンドが分からないということです。

先日(7月24日)に新規上場となったエニグモ(3665)の初値は4,030円でした。その後7月31日に4,820円まで上昇するものの、そのわずか3日後の8月3日には3,010円まで急落しました。

でもこの間たったの9営業日しかありません。日足チャートをみても、25日移動平均線は当然ながら表示できません。この間、個人投資家はエニグモ株が上昇トレンドなのか下降トレンドなのか分からない状態で売買をしなければならないのです。

テクニカルが使えないならファンダメンタルだが…

プロや専門家の中には「株価チャートがなくてもファンダメンタル分析で投資判断すれば問題ない」という人もいますが、ではエニグモ株が7月31日から8月3日にファンダメンタルの変化があったかといえば、おそらくないはずです。たった数日で4,820円から3,010円までの急落をみせたことをファンダメンタルでは説明できないのです。

また、エニグモ株の4,820円という株価は買われ過ぎだからそんな株価で新規買いすべきではない、という専門家もいるかもしれません。でも、個人投資家がエニグモ株の4,820円が買われすぎかどうかを判断できるでしょうか。そして妥当株価がいくらなのかを個人投資家自身で正確に計算できるでしょうか。少なくとも筆者にはできません。そもそも最終的には需給で決まる株価に、ファンダメンタルで導き出した妥当株価は役に立たないかもしれません。もし、妥当株価を6,000円とはじき出したなら4,820円は「買い」なのですが、これがわずか3日後に3,010円にまで下がってしまうことを考えると、ファンダメンタル一本槍で投資行動をするのは難しく、そしてリスクが高いと言わざるを得ません。

あのフェイスブック株も上場2カ月で半値以下に

高成長期待の新規公開株の株価が大きく下落するという動きは日本株だけではありません。アメリカでも、鳴り物入りで新規公開されたフェイスブックの株価が、5月の上場初値42.05ドルから半値以下の20ドル割れまで下がってしまいました。

最近になって業績の伸び悩みが懸念されているという報道がなされていますが、将来の成長に期待してフェイスブック株を上場初値の42ドルで買った投資家にとっては、株価が20ドルを割れて、買値半分以下にまで下がってしまったところで「業績の伸び悩みが懸念される」と言われても困ってしまいますね。

もし新規公開株ではなく上場して日が経っているなら、株価が買値の半値にまで下がるよりもっと株価の高い段階で下降トレンド入りが明白になりますから、損切りをはじめ適切な対処が可能だったはずです。でもフェイスブック株はやっと25日移動平均線が表示されるようになった段階で、しかもその時点ではすでに株価が大きく下がってしまっていたのですから、何か策を取ろうとした時にはすでに時遅し、です。

新規公開株のトレンド判断はいつから可能?

では、新規公開株が株価チャートによるトレンドの判断ができるようになるにはどのくらいの期間が必要なのでしょうか。筆者は日足チャートで3カ月程度、週足チャートで6カ月程度の期間があればトレンドの判断が可能になると考えています。

例えば昨年9月に上場したKLab(3656)は、上場から約10カ月が経過していますが、週足チャートをみると、今年の2月ごろには下降トレンド入りを判断することができました。日足チャートでみても、昨年の11月、そして今年の1月に下降トレンド入りと判断可能でした。

上場してから数カ月たてば、上場直後特有の株価の乱高下もなくなり株価の動きも落ち着いてきますので、トレンドに応じた投資判断がやりやすくなります。

高成長期待の新規公開株でも損切りルールは必要

このように、新規公開株は「株価チャートによるトレンドの判断ができない」「ファンダメンタルの変化がなくても株価が大きく動くことが多い」点に注意しなければなりません。

そして高成長に期待して保有を続けていると、株価が大きく下がったところで突然成長の鈍化など悪材料が露呈してくることも少なくありません。

したがって、株価チャートによるトレンド分析を重視するならば上場して数カ月はなるべく静観していることをすすめます。もし上場間もない時点で新規買いするのであれば、直近安値を割ったら損切りとか買値から10%下がったら損切り、というように、塩漬け株を作らず傷の浅いうちに撤退できるようなルールを設定し、実行していくことが大事です。

なお、前評判の高い株であれば、公開前に公募株を取得できればある程度損失のリスクを軽減できます。エニグモ株は初値4,030円より大きく下がってしまいましたが、公募価格1,750円よりは高い水準です。ただし前評判の低い株は、初値が公募価格を下回り、公開後も下げ続けるケースも珍しくありませんので注意が必要です。