業績の良くない銘柄は容赦なく売られるなど、銘柄選びがいつも以上に重要になっている今の相場。今回のコラムでは株価変動の主たる要因である「需給」にスポットを当てて、より有利な銘柄選びの方法を考えていきたいと思います。

公的年金が売り手に回っている!

公的年金の積立金を管理・運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2012年度に積立金を9兆円近く取り崩す見通しです。これは団塊の世代が年金を受け取る年齢に達して年金給付額が増加し、保険料収入を上回っていることと、近年計画通りの運用収益を挙げられていないことが原因と考えられます。

GPIFが運用する資産の構成割合をみると、日本株は約11%となっています。つまり、単純に考えれば2012年度は公的年金が換金のため日本株を1兆円売却する計算です。

この売却を吸収できるだけの買い手がいれば問題ないのですが、個人投資家だけでなく外国人投資家も買いの手を引っ込めてしまえば、需給の面から非常に厳しい状況になってしまいます。4月以降日本株が下落してしまっている理由の1つに、GPIFの換金売りがあるのではないかと筆者は考えています。

さらに、企業年金も状況は似たようなものと思われます。公的年金だけでなく企業年金の換金売りも加えれば、今の日本株は非常に大きな売り圧力が重くのしかかっているといえます。

換金売りの出にくい銘柄とは?

したがって、できるだけ公的年金等の換金売りが出てこない銘柄を探して投資することが、今後日本株に投資するにあたって重要といえます。

おそらく、GPIFや企業年金が保有する日本株には、東証1部上場で企業規模が大きく、流動性が高い銘柄が多いと考えられます。運用する立場から言えば、自らの売り買いで株価が大きく乱高下してしまうのではまずいですから、必然的に日々の売買高や売買代金の大きい主力株を中心として保有せざるを得ないからです。10兆円の資金を運用するのに、日々の売買代金が1,000万円程度しかない銘柄を組み入れるわけにはいかないのです。

大ざっぱにいえば、東証1部上場の主力株、大型株や日経平均株価採用銘柄、そして戦後まもなく上場したような老舗企業は換金売り圧力が強く、2部上場や新興市場の小型株、上場して日が浅い銘柄は公的年金の保有が少ないので売り圧力は弱いと考えられます。

投信や外国人の持ち株が少ない銘柄も売り圧力は少なそう

もう1つ、公的年金の売り圧力が少なそうな銘柄を探す方法として、会社四季報の「外国人持ち株比率」や「投資信託持ち株比率」の欄を活用するというものがあります。

公的年金が組み入れ対象とする銘柄と、外国人投資家や投資信託が組み入れ対象とする銘柄は似通ったものになります(いずれも流動性の高い大型株が中心となる)。

そこで、両者の持ち株比率のパーセンテージが小さければ、公的年金の保有もおそらく少ないだろうから、換金売り圧力は小さいと想定できるのです。

ただし、そうした銘柄(特に外国人持ち株比率も投信持ち株比率もゼロの銘柄)の中には、流動性が非常に低いものも多くありますので注意しましょう。流動性リスクを回避するためには、できれば自分が売買したい株数の100倍の売買高がコンスタントにある銘柄に絞りたいものです。

株価調整局面の中で上昇トレンドを維持している銘柄には、新興市場銘柄など企業規模が小型のものが目立ちますが、業績が良ければ大型株であっても上昇しています。好業績でかつ株価が上昇トレンドにあれば、東証1部の大型株を投資対象としても問題ありません。

短期的には信用取引動向にも大きく左右される

また、短期的な需給要因でいえば、信用取引の動向に株価の動きが大きく左右されます。信用取引の買い残高が多い銘柄は、信用買いの将来の返済売りが株価の頭を押さえるため、その後の上昇がしづらい傾向があります。

信用買い残高が多い銘柄には需給の悪さを嫌気してそもそも買い自体が入りにくいため、相場が弱いとずるずると下げ続けてしまう動きがよく見られます。そして5月中旬には、信用買いをしていた投資家の含み損が拡大し、彼らの損失覚悟の投げ売りによって短期間で非常に大きな下げをみせた銘柄が非常に目立ちました。

したがって、特に信用買い残高が増加傾向にあり、かつ下降トレンドが続いている銘柄に安易に手を出すべきではありません。

逆に信用取引の売り残高(=空売り残高)が多い銘柄は、空売りの踏み上げを狙った買いが入ることにより、株価上昇に弾みがつくことがよくあります。

ただし、空売り残高が多いということは、見方を変えれば、その銘柄に何らかの問題(業績が悪い、財務状況が悪いなど)を抱えているからこそ空売りが積み上がっている可能性もあります。

空売りが多いだけの理由で銘柄選びをすると、短期的には株価の上昇が期待できても、踏み上げが終わると急落してしまう恐れもあります。業績や財務面に問題がなく、かつ空売り残高が多いものを選ぶようにするのが短期的な需給面から考えれば有効と思います。

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