ここ最近、AIJ投資顧問による運用資金の消失問題が大きく取り上げられています。このニュースは大変ショッキングなものであり、個人投資家としても資産運用をどう行っていくべきか改めて問われているものといえます。

そこで今回は、この「AIJ事件」を通じて、個人投資家としての資産運用の心構えや今後気をつけておくべき点を確認してみたいと思います。

公的年金でも同じことが起こりうる?

AIJ投資顧問では、デリバティブ取引の1つである「オプション」を使ったハイリスクな運用が行われていたことが指摘されており、これが運用資金の大半を消失した一因と考えられます。

さすがに国民年金や厚生年金といった公的年金は、こうしたデリバティブ取引を使ったハイリスクな運用はしていないと思われるものの、当初予定していた利回りで実際に運用することができなければ、私たちが将来もらえる年金は減少してしまいます。公的年金が資産運用を大失敗するリスクも決してゼロとはいえないのです。

また、企業年金においても、今回のAIJ事件を受けて、運用結果についてのリスクを企業自身が負う「確定給付型」から、企業は毎月の掛金のみを拠出し、運用は従業員の自己責任で行う「確定拠出型」への移行がさらに進むのではないかと思います。

したがって、私たち個人投資家は、公的年金や企業年金に頼らずとも老後を生き抜いていくための「資産運用力」を一刻も早く身につけておく必要があるのです。

基本的な知識を身につけておくことが大事

AIJ投資顧問は顧客である企業年金に対し、「オプションの売りを用いて安定的に収益を得る」という触れ込みで営業していたと報道されております(実際にオプションの売りで資産運用をしていたかは不明)。しかし、オプション取引の基本的な知識を持っていれば、オプションの売りは決して安定的な収益をもたらすものではないということが分かります。

オプションの売りは、相場が平穏で株価の変動が少ないときには利益をもたらす反面、株価が大きく変動するときにはとてつもない損失を引き起こすことがあります。

最近では、2008年10月の株価大暴落時や、2011年3月の大震災後の株価急落の際にプットオプションの売りをしていた投資家は大きな損失を被り、個人投資家であっても億単位の損失を出した人が何人もいたという例が記憶に新しいところです。

AIJ事件では、オプションの売り戦略は、やり方を少しでも間違えば資産の全てをも失いかねない、非常にリスクの高いものであることを企業年金の側が分かっていれば、AIJに委託することは避けられていたのではないでしょうか。

個人投資家が金融商品の勧誘を受けたときも、担当者の説明を鵜呑みにするのではなく、資産運用の知識をしっかりと身につけておいて、おかしな点はないかよく確認する必要があります。

やはり「うまい話」はない

未公開株や高配当をうたった金融商品を購入した個人投資家たちが多くの資産を失うケースが後を絶ちませんが、AIJ事件では、個人投資家だけでなく企業年金でさえも、こうした「うまい話」に簡単に引っかかってしまうものかと非常にショックを受けました。

AIJ事件では、AIJ投資顧問の運用成績は毎年プラスであり、他の投資顧問と比べて抜群に成績が良かったようです。これは虚偽報告であったことがニュースでは伝えられていますが、投資顧問という資産運用のプロの世界で、他のプロを差し置いてAIJだけが抜群によい運用成績を挙げている、ということに対してまずは疑いの目を持たなければいけなかったのです。

これは個人投資家であっても同じで、「今この未公開株を買えば数年後には5倍、10倍になる」とか、「この運用商品は毎年10%以上の配当金を約束する」といった「うまい話」に騙されないことが肝要です。個人投資家にとって、「うまい話」かどうかを判断するだけの基礎知識は何が何でも必要です。

他人に任せてよいのか?

今回のAIJの件は、運用成績を虚偽報告していたなど、非常に悪質であり、レアケースと思いますが、少なくともAIJに資金を委託していた企業年金は相当な損失を被ることが予想されます。こうなると「大事なお金を他人に任せて本当に大丈夫か」と思ってしまいたくなります。

企業年金の場合は独自に運用することはなかなか難しいですからどうしても外部に運用を委託することになりますが、個人投資家自身が保有する資産は、投資信託など他人に運用を任せることもできますし、個別株に投資するなどして自分自身で行うこともできます。

公募型の投資信託であれば、監査法人の監査も行われ、信託財産は分別管理されているため、「いつの間にか投資資金がゼロになっていた」ということはありませんが、運用成績が優れなければ当然資産は目減りしてしまいます。

以前本コラムで取り上げた「安愚楽牧場」のような私募タイプの金融商品は、監査法人の監査をはじめ外部のチェック体制がしっかりしていないことが多く、財産の管理もおろそかである可能性があります。そうなると、運用会社が提示する運用成績や決算資料など、本当かウソかはっきり分からないものを100%信頼しなければいけなくなってしまいます。下手をするとまともな資料すら出てこないこともあります。

もちろん真っ当に資産運用をしているところもあるでしょうから一概には言えませんが、やはり他人に任せるのであれば、運用可能資金の大部分を1つの先にまとめて預けるのではなく、例えば1箇所当たり運用可能資金の5%以内に抑えるなど、リスクを分散させておくことが必要です。そして、他人を100%信じることができないならば、自分自身で資産運用をするしかありません。

他人を信じて任せるか、自分でやるか、個人投資家の資産運用のあり方が改めて問われているような気がします。