社長が「わが社はつぶれない」と宣言していた企業の倒産
先日、マンション分譲・販売を手掛ける上場企業が経営破たんしました。筆者はこの会社の社長が以前インタビューに答えていた記事を覚えています。
それは、サブプライムローン問題に端を発した不動産不況により、多くの同業他社が経営破たんしているが、当社は10社に1社の生き残りになる、といった趣旨が理由とともに書かれているものでした。
筆者はその記事を読んで、マンション分譲業者すべての株価チャートが高値から大きく下落した後の反発をみせる可能性が高い形であったことと、仮にこの会社が本当に倒産しないのであれば、株価の戻りは相当大きなものとなることが期待できることから、わずかではありますがこの会社の株へ投資しました。
しかし、株価の動きはさえず、損切りラインを割り込んだため撤退しました。その後は株価のチェックをたまにする程度で、再びその会社に投資することはありませんでした。
いくら経営者が「当社はこの厳しい逆風の中10社に1社の生き残りになる」と理由も示して声高に叫んだところで、経営破たんするものはする、ということです。つまり、経営者の発言を鵜呑みにして投資すると、痛い目にあう可能性も十分にあるのです。
個人投資家に向けた経営者の発言を経営者の立場から考えよう
最近は個人投資家向けに開催される会社説明会をよくみかけるようになりました。多くは経営者自らが説明することから、経営者に直接会って話を聞ける機会として好評のようです。
ここで、この会社説明会の目的を今一度よく考えてみてください。会社説明会を実施する会社側(経営者側)としては、「自社の素晴らしさをアピールして、自社の株式に投資してもらう」ことが目的です。
一方、個人投資家としては、将来の株価の上昇が期待できる企業の株式へ投資したいと思うのが当然の感覚です。したがって、経営者は、個人投資家に対して自社がいかに魅力的であるかをアピールするのです。
もちろん、会社説明会で「わが社の株価は今後大きな上昇が期待できます」などとはいえません。その代わり、自社がいかに優れていて魅力的であるかを説明し、話を聞いた個人投資家に「この会社の株価は今後大きく上昇しそうだ」と思ってもらうようにするのです。
間違っても、個人投資家に「この会社の株価は将来値下がりしそうだ」と思われるような話はしない、ということです。そんな話をすれば、会社説明会を開催する意味が全くないどころか逆効果にもなりかねません。
セールスマンが、「自社の商品は価格も高いし安全性に疑問があるからお勧めしませんよ」などとはまず言わないのと同じです。会社の経営者や会社説明会の担当者は、「自社の株式に投資してもらうためのセールスマン」であることを、私たち個人投資家は忘れてはなりません。
経営者や経営理念に共感してもよいがそれ以上に株価の動きが重要
念のため申し上げますが、筆者は、経営者の発言を信じるなとか、会社説明会に行くな、と言っているわけではありません。
個人投資家からすれば、経営者のインタビュー記事やテレビ出演をみることで、経営者の人柄や経営理念などを少しは垣間見ることができます。また、会社説明会に参加することで、今まで知らなかった将来の成長が期待できそうな企業を発見することができます。こうした点からは有用であるといえます。
でも、その後、自分自身でその情報をよく吟味・検討し、本当にその会社に投資する価値があるのかを判断しなければなりません。
そして、筆者が最も重視するのは何と言っても「株価の動き」です。たとえ経営者が崇高な理念を掲げていても、会社説明会で将来有望であることをアピールしていても、株価の動きがそれらと矛盾していたならば、株価の動きを最優先して判断すべきです。
ちなみに、会社説明会に参加された際に、「この会社のリスクは何か?株価に与えるリスクはあるか?」と直接経営者に問うて、その対応が誠実で分り易くなされるか確認することも一案です。
いかに経営理念や経営方針が素晴らしくても2つのルールは厳守
個人投資家に比較的よくみられるのが、経営者の経営理念や経営方針に惹かれ、その企業の株式を長期保有するというパターンです。
しかし、こうした個人投資家は、株価が下落しても「経営者が素晴らしいからやがて株価は持ち直す」と信じて損切りせずに持ち続け、結局は塩漬け株をつくってしまう傾向にあるようです。
経営者の経営理念や経営方針に惹かれてその会社に投資するのは大いに結構です。でも、いくらその経営者を信じていたとしても、株価の動きに気を配り「株価が下落基調を続けている限り新規投資しない」「投資した場合も損切りルールを設定してそれを実行する」、この2つは必ず守るようにしてください。
経営者を信じて投資した結果株価が大きく値下がりしたり、経営破たんしても、誰も損失の穴埋めはしてくれません。