半導体設計と半導体製造の会社を打診買いか?

 ドラッケンミラーは以前AIについて、「私のような年寄りでも、それが何を意味するのか理解できた」と述べ、AIブームはインターネットよりも大きなものになる可能性を秘めた「見たこともないようなメガトレンドだ」と述べた。

 一方で、「ちょっと休みたいんだ。私たちはとんでもない成功を収めた。私たちが認識したことの多くは、今や市場によって認識されるようになった」と語り、AI関連銘柄の保有を積極的に減らしてきた。

 今7-9月期には、保有していたエヌビディアの株式21万4,060株を全て売却した他、マイクロソフト(MSFT)については、株数を4万3,000株にまでに圧縮、6月末の約40万株に比べると約10分の1程度の水準となる。一方で、半導体製造世界最大手のTSMCについては、株数は6万株に満たないものの(996万ドル相当)5四半期ぶりに保有を復活させた。

デュケーヌ・ファミリーオフィスのAI関連株保有株数の推移(単位:株)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 その他には、スターバックス(SBUX)シティグループ(C)、また今年第1四半期にバフェットが保有したことでも話題となった保険大手のチャブ(CB)を新たにポートフォリオに追加した。

 さらに、半導体関連では、通信インフラ向けの半導体製品を手がけるブロードコム(AVGO)を4,139万ドル相当、ソフトバンク傘下の半導体設計のアームHD(ARM)にも309万ドル相当を投資した。

 ブロードコムは半導体とインフラ・ソフトウエア製品の世界的サプライヤーで、そのデバイスはiPhoneなどにも搭載されている。個別顧客向けの特注型ロジック半導体ファブレスメーカーで、生産はTSMCなどのファウンドリに委託している。ブロードコムはしばしばエヌビディアと比較して語られることも多い。

 フォーブスは6月17日に「「次のNVIDIA」と期待、半導体ブロードコムの時価総額が120兆円突破」と題する記事を掲載した。それによると、バンク・オブ・アメリカのアナリストが、ブロードコムをエヌビディアに次ぐ「第2位」のAI銘柄と呼び、同社の時価総額が将来的に1兆ドルに届く可能性を示唆した。

 ただし、ブロードコムはエヌビディアとは異なり、最先端の汎用GPU(画像処理半導体)を手がけているのではなく、各顧客の特定のユースケースに合わせたカスタムチップを通じてこの業界に参入している。例えば、グーグル(GOOGL)が手がけるオリジナルのTPUチップの設計などを担っている。

 ブロードコムは2023年秋に、クラウドコンピューティング企業のVMWareを690億ドルで買収した。この買収は、当時、2020年代で2番目に大きな買収ということで話題となったが、これによりブロードコムはインフラストラクチャ・ソフトウエア事業への参入機会を増やし、会社全体の売上が大きく伸びる結果となった。

ブロードコムの売上高推移と買収の歴史

出所:各種データから石原順作成

ブロードコム(週足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 ブロードコムのサクセスストーリーは、戦略的買収と最先端技術への絶え間ない注力のたまものだと言える。2009年、ヒューレット・パッカードの半導体製品グループからスピンオフして設立されたアバゴ・テクノロジーズが株式を公開したのが始まりだ。

 2013年には大手チップメーカーのLSIコーポレーションを66億ドルで買収した。大きく飛躍するきっかけになったのは2016年のアバゴによるブロードコムの買収だ。これにより多様な製品ポートフォリオを持つ半導体の大企業となった。買収時にアバゴは社名をブロードコムに変更したが、ティッカーシンボル「AVGO」は残したまま現在に至っている。

 2019年8月にはウイルス対策ソフト大手のシマンテックの法人向け事業を買収しサイバーセキュリティ分野への多角化を図っている。そして2022年5月に仮想化ソフト最大手の「VMware」の買収を発表、この買収が2023年11月に完了し、現在では8,000億ドル近い時価総額を誇る世界的な半導体およびインフラストラクチャ・ソフトウエアの巨人となった。