日本が直面するリスク

 米国で景気が陰り、金利が低下サイクルに入ると、ドル/円は続落しやすくなります。日本株は、米国株相場の影響も受けますが、ドル/円の下値が不安定な間は、腰を据えて買いにくい地合いが続くとみています。米景気の強弱シナリオごとに、米国株が逆業績局面に進むか否かで、日本が被り得る影響を整理します(図4)

シナリオ1:米景気軟着陸

 米景気は鈍化するものの、後退には至らず、比較的早くに底堅さを取り戻すシナリオです。インフレの鈍化で、利下げは限定的にゆっくり進み、米国株はしっかりとするでしょう。ドル/円も下落は軟化する程度で、下落は限定的と見込まれ、日本株は底堅さを保てるでしょう。

 ただし、軟着陸感が一気に形成されることはなく、市場は気迷いながら進むと想定されます。その間に、ドル/円も日本株もしっかりの場面には、日銀が利上げを急ぐなどして、不安定な市場を動揺させる展開があり得ます。

シナリオ2:米景気下降

 米景気後退への懸念とともに、利下げが速く大きくなり、ドル/円も金利に沿って下落しやすいでしょう。米国株が、景気後退に伴う逆業績相場の展開になると、日本株は、円高と米国株安のダブルでダメージを受けます。日銀は、日本の正常化への利上げをいったん棚上げせざるを得なくなるでしょう。

 再トライは、順当には次の業績相場局面です。米金融緩和が終わって再び利上げに向かい、ドル高円安と業績相場での米株高により、ダブルで日本株が押し上がりやすくなります。

シナリオ3:米景気堅調

 米金利は高止まり、株は景気不安が減退分はしっかりとしていても、折々に高金利と次の景気悪化リスクへの警戒を見せるでしょう。ドル/円は金利高を背景に堅調です。米国株も底堅くはあるので、日本株も堅調を保ちやすいでしょう。日銀はこの間に利上げを進めると想定されます。

 なお、円安、日本株高になると、また「円安には日本を卑下する論調」「株高には企業の業績や改革など国内要因の自画自賛」が浮上するでしょう。相場を動かす主要因を見失わないように、このレポートの趣旨を今一度ご確認ください。

図4:米景気・相場サイクル

出所:田中泰輔リサーチ

 まとめましょう。コロナ禍後の米国の景気堅調の持続、高インフレ、高金利、生成AIの恩恵が加わった株高を受けて、円安と日本株高が促されました。そこから日本は、デフレ克服、経済の自律性回復の入り口に何とか立てたといえます。その千載一遇のチャンスが、米国の景気の陰り、金利低下に伴う円高によって制約されるリスク局面に来ているのです。米景気・金利の速い下降は、円高を招き、ここまでの好循環を途絶えさせることになりかねません。

 日本は逆境においては、とにかく不安論がまん延しやすく、デフレ心理に戻りかねない危うさを拭えません。しかし、単にサイクルとして生じている現象なら、次のデフレ克服、自律性回復機会への局面、恐らくは、早くて米金融相場期、順当には業績相場期に照準を合わせるだけのことです。そのためにも、相場変動の力学ロジックをきちんと踏まえて、円安も円高も、株高も株安も、淡々とロジックに基づいて生かす目線を持っていただきたいと願っています。

■著者・田中泰輔の『逃げて勝つ 投資の鉄則』(日本経済新聞出版刊)が発売中です!