金融、防衛、素材産業などがトランプ・トレードの買い銘柄候補

 トランプ関連として、最も注目が高まっているのが防衛関連銘柄でしょう。トランプ氏は以前から、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の多くが国防費のGDP(国内総生産)比2%目標を達成していない点に不満を表明していました。

 日本では、政府計画で2027年度にGDP比2%程度とする方針のようですが、足元で名目GDPの水準も引き上がっており、一段の防衛費増額も要求されてくる可能性があります。

 さらに、地政学的な問題でも、台湾有事に際しての米国の関与は、バイデン政権時よりも低下する可能性が高く、その分、中国が実際に行動に移る可能性も上昇し、日本では防衛予算の増額といった対応を迫られる公算があります。

 なお、上場企業における防衛調達実績上位企業は、三菱重工業(7011)川崎重工業(7012)NEC(6701)三菱電機(6503)富士通(6702)IHI(7013)日立製作所(6501)日本製鋼所(5631)SUBARU(7270)などとなります。

 米国市場ではエネルギー関連株への注目度も高まっています。トランプ氏は環境政策に反対の姿勢で、石油、ガス、石炭の開発を拡大させるとしており、石油生産を拡大することで社会保障制度の維持につなげるとも主張しています。米エネルギー株の上昇が国内関連銘柄にも波及する余地があるでしょう。

 とりわけ、石油開発向けの装置や材料などを供給する企業はストレートにメリットを受けるものとみられます。石油株にとっては、脱炭素推進の動きが沈静化することで、ガソリン販売の短期先細り懸念なども後退しそうです。

 一方、米国での原油生産拡大による供給量増加は、まずは原油価格の低下要因につながるとみられますが、トランプ氏では減少した石油戦略備蓄を補充する政策を公約に掲げており、これは原油需給をひっ迫させる要因になり得ます。さらに、地政学的にも、イランへの制裁強化など強硬的な政策が原油高につながっていく余地もあるでしょう。

 前回の大統領就任時に大きな話題となったことで、インフラ投資の拡大も期待されるものとみられます。米国で展開する建設機械株や鉄鋼株などが主な範囲となります。ただ、米国第一主義のトランプ氏はキャタピラーを何度か称賛しているように、日本メーカーにとっては相対的に逆風となる状況も想定されます。

 鉄鋼株に関しては、中国からの鋼材輸入減少が見込まれるため、価格下落リスクが小さくなることはメリットとなるでしょう。特に、電炉大手の大和工業(5444)のように、米国の持分法会社の利益貢献度が高い銘柄は、米国第一主義政策によるリスクなども小さいと考えられます。

 ちなみに、この分野では、市場の拡大が期待できるのは米国市場に限られるため、国内の建設株などは物色対象となりにくいでしょう。なお、日本製鉄のUSスチール買収の成否なども目先は注目されることとなります。

 鉄鋼、石油化学、紙パルプなどの素材産業、いわゆるオールドエコノミーも総じてプラス方向への反応が予想されます。米金利上昇によるグロース株からバリュー株への資金シフトが続くとみられるほか、米国需要拡大に伴う数量増効果が想定されます。

 また、コスト面では、米国の原油増産などによる供給増加で原材料費の低下が見込まれるほか、環境対応コスト支出に対するプレッシャーが低下することもプラスになると予想されます。

再生エネルギーや米輸出関連には逆風

 再生エネルギー関連銘柄にとっては、バイデン大統領とトランプ氏で政策が極端に対立しているため、最もネガティブな反応が予想されます。トランプ氏は「パリ協定」からの離脱やグリーン・ニューディールの廃止などをうたっており、世界的な環境意識後退の流れに向かう可能性もあるでしょう。

 ちなみに、先の欧州議会選挙でも、緑の党が大敗する形になっており、全般的に環境政策対応への気疲れ感なども見受けられる状況にあるようです。日本ではエネルギー自給率引き上げに向けて、再生エネルギーの普及拡大を目指す必要性は高いと考えられますが、関連銘柄の株価という点では、世界的な潮流にあらがい切れない公算です。

 脱炭素の動き後退という点では、EV(電気自動車)普及の遅れも顕在化してくる可能性が高いでしょう。米国ではEV向けの補助金は打ち切りとなる公算が大きいとみられます。

 自動車メーカーにとっては、ゲームチェンジャーとなり得るEV戦略の方向性が不透明になるため、将来を見据える上では停滞期に入ってしまう懸念もあります(この面では設備投資も停滞せざるを得ず、機械などの設備投資関連銘柄にもネガティブ)。

 また、最大の市場となる米国向け輸出においては、輸出関税が課せられてコストアップにつながると警戒されます。この点で言えば、ホンダ(7267)の米国向けはほとんどが現地生産であり、影響は限定的にとどまる可能性があります。

 一方、マツダ(7261)などはネガティブな影響が強まる見通しです。さらに、自動車業界は円高デメリットが最も大きいセクターである点も買い手控え要因でしょう。トランプ氏は米製造業の復権を強く掲げており、そのためには一段のドル高・円安は許容しにくいでしょう。

 日本のドル売り円買い介入は容認していくとみられ、日本銀行に対する利上げプレッシャーも円高進行につながるリスク要因となります。

 そのほか、トランプ氏は自身に関連する暗号資産であるミーム・コインが発行されていることもあって、仮想通貨に好意的とされているようです。規制緩和などへの期待が高まる余地があります。また、中国に代わる大消費地としてインドがクローズアップされてくる可能性もあるでしょう。副大統領候補に指名されているJ.D.バンス氏の妻はインド系であるとも伝わっています。

 なお、米国の関税引き上げ前の駆け込み需要拡大に対する思惑が、短期的に海運株に高まる局面なども想定されます。

 なお、今後の大統領選に向けたスケジュールとしては、8月19~22日に民主党大会が開催され、9月10日には第2回テレビ討論会が行われる予定となっています。テレビ討論会は民主党の挽回の有無を左右する関ケ原となってくるでしょう。