バイデン氏撤退は織り込み済み、トランプ氏優勢変わらず
日本時間22日未明、バイデン米大統領が2024年11月の大統領選から撤退すると表明しました。そして、後継にはカマラ・ハリス副大統領を支持しています。支持率の低さが課題とされているハリス氏ですが、知名度の高さ、バイデン陣営が集めた政治資金を引き継げることから、民主党の正式な大統領候補となる可能性は高いとみられます。
バイデン氏撤退によって、民主党が大統領選で勝利する可能性はわずかに高まったと考えられますが、これは、ハリス氏の人気というよりも、副大統領候補者とされる中の複数人が、選挙の激戦州で政治基盤を築いているということが背景となります。ただ、仮に激戦州の一つを民主党が奪うと想定しても、トランプ氏優位の情勢には変化がないと考えられます。
そもそもバイデン氏の撤退に関しては市場で織り込みが進んでいたものと考えられます。米国の政治情報サイトRCP(リアル・クリア・ポリティクス)では、大統領選挙のベッティング・オッズ(賭け率)が公表されています。
直近時点では、トランプ氏が61.3%、バイデン大統領が9.7%と圧倒的な開きが生じる状況となっていましたが、その中にあって、ハリス氏はバイデン大統領を上回る17.7%をすでに占めていました。
第1回のテレビ討論会(6月27日)後のバイデン・トランプの掛け率の開きは、精彩を欠いたバイデン現大統領の「高齢不安」にスポットが当たり、バイデン人気が急低下したことが要因となります。
一方で、7月13日にはトランプ氏銃撃事件が発生し、その後はトランプ氏の評価そのものが高まる状況となっています。銃撃直後の拳を高く突き上げる姿などから、「強い指導者」としての印象が強まる格好になったとみられます。
トランプ・トレードで、防衛、金融セクターの株価上昇
トランプ氏優勢の見方が強まるに従い、金融市場では「トランプ・トレード」とされる動きが足元で活発化してきています。米国内外において、トランプ政権発足によってメリットを受けるであろうインフラ、防衛、金融セクターなどの上昇が目立ってきています。
また、16日に伝わった一部のインタビューにおいては、足元の外国為替相場に関し「対ドルでの円安や人民元安がはなはだしい」と指摘し、直後にドル安円高の動きが強まる状況にもなっています。
11月5日の大統領選挙に向けて、トランプ・トレードの動きは長期化していくとみられることで、バイデン氏撤退を受けた巻き戻しの動きが短期的に強まるのであれば、ポジティブ銘柄にとっては、短期的な押し目買いの好機となり得るでしょう。
トランプ政権誕生に伴う大きなリスクも考えられます。米国の最高裁判所は7月1日、トランプ前大統領が2020年の大統領選挙結果を覆そうと支持者を扇動し連邦議会襲撃を促したとの疑いで起訴された件を巡り、大統領は刑事訴追からの絶対的免責を受ける権利を公的行為に関しては有しているとの判断を下しました。
そして、大統領の行為が公務かそうでないかは下級審が判断すべきとして審理を差し戻しており、11月の大統領選よりも前に、この事件でトランプ氏が裁判を受ける可能性は低くなりました。
こうした流れは、トランプ氏にとっての大きな追い風となった一方、一部の判事は「今や大統領は法の上に立つ王となった」などと指摘、米国での「三権分立」の基盤を揺るがしかねないリスク要因につながるものともいえるでしょう。
対中半導体規制で半導体関連にはネガティブな影響が先行
いずれにせよ、今後の株式市場ではトランプ大統領の復権を想定する動きが一段と強まっていくものと考えられます。国内において、注目される関連セクター、銘柄の動向などを整理しておきたいところです。
まず、金融セクターにとってはポジティブな方向が想定されます。米国では減税政策に伴う財政悪化が見込まれるため、長期金利は上昇しやすいと考えられます。また、高関税政策(現状で、輸入品に一律10%、対中製品には60%の関税とも発言)に伴う輸入物価の上昇、移民政策による労働需給のひっ迫などもインフレにつながることで金利上昇要因となるでしょう。
米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)に対する利下げ圧力は強まるとみられますが、将来的なインフレ進行の可能性が高い中では、むしろ想定よりも利下げペースが鈍化する公算が大きそうです。
一方、為替相場のドル高・円安是正のため、日本銀行に対しても利上げ要請へのプレッシャーが強まる可能性があるでしょう。国内でも金利の上昇スピードが速まる余地があるとみられます。
市場の注目度が高い半導体関連銘柄にとってはネガティブな影響が先行しそうです。米国では直近、対中半導体規制でさらに厳しいルールを検討していると同盟国に警告しています。トランプ政権においては、こうした中国への規制をより強化させる可能性が高いとみられます。
国内半導体大手の東京エレクトロン(8035)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)、アドバンテスト(6857)などは総じて中国向けの売上比率が高く、ビジネス機会の減少につながる懸念があります。
また、トランプ氏では最近、「台湾が米国の半導体ビジネスを取った」などと指摘し、その後TSMC(台湾積体電路製造)が連日の株価下落となっています。対中規制の行方は実際にトランプ政権が発足するまでは不透明ですが、その間上値は限定的になるかもしれません。なお、半導体大手の中では、レーザーテック(6920)は中国向け比率が低くなっています。
金融、防衛、素材産業などがトランプ・トレードの買い銘柄候補
トランプ関連として、最も注目が高まっているのが防衛関連銘柄でしょう。トランプ氏は以前から、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の多くが国防費のGDP(国内総生産)比2%目標を達成していない点に不満を表明していました。
日本では、政府計画で2027年度にGDP比2%程度とする方針のようですが、足元で名目GDPの水準も引き上がっており、一段の防衛費増額も要求されてくる可能性があります。
さらに、地政学的な問題でも、台湾有事に際しての米国の関与は、バイデン政権時よりも低下する可能性が高く、その分、中国が実際に行動に移る可能性も上昇し、日本では防衛予算の増額といった対応を迫られる公算があります。
なお、上場企業における防衛調達実績上位企業は、三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、NEC(6701)、三菱電機(6503)、富士通(6702)、IHI(7013)、日立製作所(6501)、日本製鋼所(5631)、SUBARU(7270)などとなります。
米国市場ではエネルギー関連株への注目度も高まっています。トランプ氏は環境政策に反対の姿勢で、石油、ガス、石炭の開発を拡大させるとしており、石油生産を拡大することで社会保障制度の維持につなげるとも主張しています。米エネルギー株の上昇が国内関連銘柄にも波及する余地があるでしょう。
とりわけ、石油開発向けの装置や材料などを供給する企業はストレートにメリットを受けるものとみられます。石油株にとっては、脱炭素推進の動きが沈静化することで、ガソリン販売の短期先細り懸念なども後退しそうです。
一方、米国での原油生産拡大による供給量増加は、まずは原油価格の低下要因につながるとみられますが、トランプ氏では減少した石油戦略備蓄を補充する政策を公約に掲げており、これは原油需給をひっ迫させる要因になり得ます。さらに、地政学的にも、イランへの制裁強化など強硬的な政策が原油高につながっていく余地もあるでしょう。
前回の大統領就任時に大きな話題となったことで、インフラ投資の拡大も期待されるものとみられます。米国で展開する建設機械株や鉄鋼株などが主な範囲となります。ただ、米国第一主義のトランプ氏はキャタピラーを何度か称賛しているように、日本メーカーにとっては相対的に逆風となる状況も想定されます。
鉄鋼株に関しては、中国からの鋼材輸入減少が見込まれるため、価格下落リスクが小さくなることはメリットとなるでしょう。特に、電炉大手の大和工業(5444)のように、米国の持分法会社の利益貢献度が高い銘柄は、米国第一主義政策によるリスクなども小さいと考えられます。
ちなみに、この分野では、市場の拡大が期待できるのは米国市場に限られるため、国内の建設株などは物色対象となりにくいでしょう。なお、日本製鉄のUSスチール買収の成否なども目先は注目されることとなります。
鉄鋼、石油化学、紙パルプなどの素材産業、いわゆるオールドエコノミーも総じてプラス方向への反応が予想されます。米金利上昇によるグロース株からバリュー株への資金シフトが続くとみられるほか、米国需要拡大に伴う数量増効果が想定されます。
また、コスト面では、米国の原油増産などによる供給増加で原材料費の低下が見込まれるほか、環境対応コスト支出に対するプレッシャーが低下することもプラスになると予想されます。
再生エネルギーや米輸出関連には逆風
再生エネルギー関連銘柄にとっては、バイデン大統領とトランプ氏で政策が極端に対立しているため、最もネガティブな反応が予想されます。トランプ氏は「パリ協定」からの離脱やグリーン・ニューディールの廃止などをうたっており、世界的な環境意識後退の流れに向かう可能性もあるでしょう。
ちなみに、先の欧州議会選挙でも、緑の党が大敗する形になっており、全般的に環境政策対応への気疲れ感なども見受けられる状況にあるようです。日本ではエネルギー自給率引き上げに向けて、再生エネルギーの普及拡大を目指す必要性は高いと考えられますが、関連銘柄の株価という点では、世界的な潮流にあらがい切れない公算です。
脱炭素の動き後退という点では、EV(電気自動車)普及の遅れも顕在化してくる可能性が高いでしょう。米国ではEV向けの補助金は打ち切りとなる公算が大きいとみられます。
自動車メーカーにとっては、ゲームチェンジャーとなり得るEV戦略の方向性が不透明になるため、将来を見据える上では停滞期に入ってしまう懸念もあります(この面では設備投資も停滞せざるを得ず、機械などの設備投資関連銘柄にもネガティブ)。
また、最大の市場となる米国向け輸出においては、輸出関税が課せられてコストアップにつながると警戒されます。この点で言えば、ホンダ(7267)の米国向けはほとんどが現地生産であり、影響は限定的にとどまる可能性があります。
一方、マツダ(7261)などはネガティブな影響が強まる見通しです。さらに、自動車業界は円高デメリットが最も大きいセクターである点も買い手控え要因でしょう。トランプ氏は米製造業の復権を強く掲げており、そのためには一段のドル高・円安は許容しにくいでしょう。
日本のドル売り円買い介入は容認していくとみられ、日本銀行に対する利上げプレッシャーも円高進行につながるリスク要因となります。
そのほか、トランプ氏は自身に関連する暗号資産であるミーム・コインが発行されていることもあって、仮想通貨に好意的とされているようです。規制緩和などへの期待が高まる余地があります。また、中国に代わる大消費地としてインドがクローズアップされてくる可能性もあるでしょう。副大統領候補に指名されているJ.D.バンス氏の妻はインド系であるとも伝わっています。
なお、米国の関税引き上げ前の駆け込み需要拡大に対する思惑が、短期的に海運株に高まる局面なども想定されます。
なお、今後の大統領選に向けたスケジュールとしては、8月19~22日に民主党大会が開催され、9月10日には第2回テレビ討論会が行われる予定となっています。テレビ討論会は民主党の挽回の有無を左右する関ケ原となってくるでしょう。
トランプ・トレードで注目されるコア銘柄6選(三菱重工、日本製鋼所、大和工業、クレハ、三菱UFJ、スズキ)
1.三菱重工業(7011・東証プライム)
国内重機の最大手企業です。ガスタービンでは世界シェアトップとなっています。防衛省によると、2023年の防衛装備品契約金額は1兆6,800億円で、第2位企業の4倍強の水準となっています。防衛関連銘柄としては圧倒的な存在と捉えられるでしょう。足元では、ミサイル関連事業を推進しているほか、日英伊3カ国による次期戦闘機の共同開発も行っています。
また、脱炭素の移行期間先延ばしの可能性などは、ガスタービン事業にとってプラスとなりそうです。直近では株主還元にDOE(株主資本配当率)を採用、累進配当実現を目指していく方針となっています。
2.日本製鋼所(5631・東証プライム)
射出成形機などの産業機械が利益柱となっています。また、原子力発電所の原子炉に用いられる圧力容器では世界8割程度のシェアを占めているとみられています。国内火砲システムのリーディングカンパニー的な存在で、陸上自衛隊の運用する19式装輪自走りゅう弾砲、海上自衛隊の護衛艦に搭載される62口径5インチ砲、ミサイル発射装置などの防衛機器を手掛けています。
防衛事業の受注額が2023年3月期の361億円から2024年3月期に705億円にまで増加したことがサプライズとなりました。再生エネルギー市場停滞の可能性は原発関連事業の追い風となる可能性もあります。
3.大和工業(5444・東証プライム)
電炉メーカーの大手でH形鋼が7割近くを占める主力製品です。経常利益の75%が海外で占められており、とりわけ、米ニューコアとの合弁会社ニューコアヤマトスチールの持分法利益が高水準となっています。米大統領選でトランプ氏が勝利した場合、米国第一主義政策の強まりが予想されることで、最もプラスメリットが大きい銘柄とも判断されます。
最大の収益源は米国の合弁会社であり、米インフラ投資の拡大、法人税減税の可能性などによる恩恵享受が期待されます。時価総額5,000億円超クラスの大企業の中で、配当利回りの水準がトップクラスである点も注目材料となります。
4.クレハ(4023・東証プライム)
クレラップに代表される樹脂製品のほか、機能製品、化学製品などを手掛ける化学大手企業です。注目されるのは、シェールオイル・ガス掘削用途向けのPGA(ポリグリコール酸)樹脂加工品となります。
シェールオイル・ガスの掘削においては、フラックプラグという道具が使用されますが、PGAで作られたフラックプラグは、掘削プロセスの費用と時間を大幅に削減することができるようになります。
マーケットシェアは着実に広がっていますが、工業的に量産しているのは世界で同社のみのようです。トランプ政権下ではシェールオイル・ガスの開発が活発化する見通しで大いにメリットとなるでしょう。
5.三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306・東証プライム)
国内最大の金融グループです。米金融会社のモルガン・スタンレーと戦略的提携関係にあるほか、メガバンク内では想定的に海外展開で優位に立っているとみられます。トランプ氏が大統領に復権した場合、大規模減税による財政悪化懸念、高関税政策や移民政策によるインフレの進行などが強まるとみられ、金利の上昇につながるものと考えられます。
日銀への利上げプレッシャーも強まる可能性があり、国内では利上げスピードの加速化も想定されるところです。さらに、トランプ政権下では金融業界の規制緩和が進む公算もあります。メリットが大きい金融セクターのコア銘柄として注目されます。
6.スズキ(7269・東証プライム)
国内軽自動車の大手企業です。インド現地企業と合弁で「マルチ・スズキ」を展開しており、インドでの四輪車シェアは4割程度とみられています。トランプ政権が発足すれば、米中対立は現在よりも強まっていくと考えられ、その分、大消費国としてインドの存在がクローズアップされる可能性もあり、インド関連のコア銘柄である同社の注目度も高まる公算です。
また、自動車業界では米国向けの関税問題が懸念されているほか、今後の円高反転の可能性などもリスク要因となってきそうです。その分、欧米向け売上構成比が相対的に小さい同社は、自動車セクター内での資金の受け皿ともなってくる可能性があります。
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