日経平均はパッとしない展開

 6月に入り沖縄は既に梅雨入りしていますが、東京株式市場もパッとしない展開が続いています。米半導体大手エヌビディア(NVDA) が高い市場予想を超える好決算で買われたものの、日本の半導体株はさえない推移のままです。けん引役だった半導体株の動向がさっぱりなので、日経平均株価もパッとしない展開となっています。

 5月31日のプライム市場の売買代金は、2022年4月に市場区分が見直されて以降、過去最高の7兆7,612億円を記録しました。ですが、この空前の売買代金の正体は、オールカントリーが連動するMSCI全世界株指数の定期見直しに関する売買が推定3兆5,000億円ほど入ったからです。

 昨年の5月31日も、同じMSCIの定期見直しに関する売買が入りましたので6兆9,552億円となりました。「売買代金が7兆7,000億円まで膨らんだので、東京市場は盛り上がっている」と考えるのは大きな間違いです。実際、5月のプライム市場の平均売買代金は4兆5,500億円と、2月の5兆1,600億円、3月の5兆1,200億円と比べると減少しているのが一目瞭然です。

 東京株式市場の売買代金減少の原因は、日本銀行による金融政策の正常化が早いタイミングで実施されるかもしれない、といった思惑が高まっているからです。

 この思惑が高まっていることで、長期金利の指標とされる新発10年国債利回りは一時1.100%まで上昇したのです。この辺りの基本的なお話は「『金利のある世界』にNISAで買いたい日本株5選」にてご説明していますので割愛します。

流れが変わるのは?13、14日の日銀金融政策決定会合に注目

 では、この「思惑」が解消されるのはいつなのでしょう。ズバリ、来週13、14日に開催される日銀金融政策決定会合と考えます。もちろん、その結果内容と、日銀会合後の15時30分から行われる植田和男日銀総裁の記者会見の発言内容によりますが。

 日銀会合と植田日銀総裁のポイントは若干異なります。日銀会合では、国債買入の減額スケジュールと、追加の利上げ時期でしょう。そして、植田日銀総裁の記者会見では、日銀会合のポイントに、足元の円安に対する考え・施策などが加わると考えます。

 もっと砕けた表現をしますと、日銀会合で出た結果内容のバッファor 解釈・考え方を植田日銀総裁の記者会見で各メディアの記者が問い詰める、といった感じになるでしょう。日銀会合の結果という文字ベースの行間のバッファを植田日銀総裁にぶつけるわけです。記者会見の約1時間は緊張の時間帯となるでしょう。

 4月の日銀会合後の植田日銀総裁の記者会見を思い出してください。

 植田日銀総裁が「基調的な物価上昇率に円安が今のところ大きな影響を与えているということではない」と説明した後、記者からの「円安が進んでいることによる基調的な物価への影響は無視できる範囲か?」との問いに、「はい」と答えたことで、「日銀は足元の円安に対応する気はない」との見方が強まった結果、円安基調が加速。

 4月29日には160円台をつけたことで、政府・日銀による9兆円超の円買いドル売りの為替介入が実施されたとみられている。

※財務省が公表したデータでは4月26日~5月29日までに9兆7,885億円実施した、という情報にとどまる。日時でいくら円買い介入を行ったかのデータは8月に開示されるため「みられている」と表記としています。

 つまり、13、14日の日銀会合および会合後の植田日銀総裁の記者会見で、国債の買入額の減額に関する具体的な考え、追加の利上げ時期の見通し、そして、足元の円安に対する日銀の考え方などがある程度明確となれば、不透明感は解消されますので、市場はその方向性を織り込んで進みだすでしょう。

 ちょうど、今回の日銀会合は、FOMC(米連邦公開市場委員会)開催後(11~12日(結果発表は東京時間13日未明))ですので、今時点で市場が感じている「米国の利下げ実施の見通しはどうなっているのか?」「もしかしたら追加利上げもあるのか?」といった米国金融政策に対するモヤモヤとした不透明感も、ある程度払拭(ふっしょく)されているはずです。

日経平均は右肩上がりに転じるのか?

 とはいえ、日米中央銀行のイベントを通過したから一気に日経平均が右肩上がりに転じるのは難しいと思います。2025年3月期業績見通しが2024年3月期見通しよりも純利益ベースで減少していることが挙げられます。

 日経平均は、日経平均採用銘柄のEPS(1株当たり利益)×PER(株価収益率)で算出されます。PERは「期待感」と同じようなイメージですので、市場の状況によって強気なときもあれば弱気なときもありますが、EPSは企業業績の結果ですので好業績でなければ、EPSは増加しません。

 2025年3月期企業見通しは、為替動向が読みにくいこともあり、各企業は保守的な見通しを出しています。徐々に実態に基づいた業績見通しに収れんしていくものですが、2024年4-6月期決算が出る8月ごろは、まだ業績見通しの修正は出ないでしょう。さすがに半分が過ぎた2024年7-9月期決算、つまり上期決算が出そろう11月ごろ、企業は続々と2025年3月期通期業績見通しの上方修正を行うのではないかと考えます。

 もっとも、為替の円安基調が一服し、ドル/円が130円台になっていれば、想定為替レートの引き下げに伴い2025年3月期業績見通しは下方修正となるでしょう。

 日経平均は為替次第ということもありますので、政府・日銀による円安対策はそこまで頑張らなくてもいい、と考えることはできます。賃金が今後も上がり続けるのであれば、物価上昇の要因である円安も許容できるのですが、この辺りは各企業の業績もありますので読めないところですね。

下落時にコツコツ買いたい!中小型×高配当の日本株5選

 長々と足元の市場動向を書いてきましたが、早い話、日経平均の横ばい推移はまだまだ続くとみていますので、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)でコツコツと拾う絶好なタイミングだと考えます。とくに日経平均構成銘柄ではない中小型株で、足元下落基調が強まっている高配当利回り銘柄は、長期投資の観点では狙いどころだと思います。

「日経平均の調整局面長期化」「プライム市場の売買代金減少傾向に」といったパッとしないニュースが出ても動じることなく、高配当銘柄の押し目買いで、10年後、20年後を見据えた投資をしていきましょう。

銘柄名 証券コード 株価(円)
(6月3日終値)
ポイント
東亜建設 1885 984 新興国での大型港湾工事の整備などが堅調
ムゲンエステート 3299 1,155 金利上昇=脱デフレを意識する地合いに期待
タイガースポリマー 4231 834 中国景気の持ち直し機運が同社を見直すきっかけに
ユシロ化学工業 5013 1,722 引き続き北米地域の販売が業績のけん引役に
全保連 5845 686 独自開発の電子申込システムでDX化を推進する沖縄企業

東亜建設(1885

 海上土木をメインに手掛ける建設会社です。5月に発表した2025年3月期の各利益見通しが、2024年3月期実績を大きく下回ったことで株価は下落しました。新規受注獲得よりも手持工事の消化を優先させることから受注高が減少すると見込んでいます。

 一方、ケニアやカンボジアなど新興国を中心とした大型港湾工事の整備などは堅調に進むとみられます。また、同社は2024年3月期見通しも低めに設定し、結果として大幅に上回る着地となったことから、2025年3月期業績見通しは非常に保守的と捉えることができます。

ムゲンエステート(3299

 首都圏を中心に中古不動産の買い取り・販売事業を展開しています。首都圏の中古マンションの価格は高止まりしていることから注目したい業態ですが、どうしても有利子負債が多い業態なので、足元の金利上昇はネガティブ要因です。

 ただ、「金利上昇=脱デフレ」という捉え方に市場が変化してくれば、同社への見直し買いも向かうと想定します。投資家のマインドが低下傾向にあるタイミングで拾っておきたいところです。

タイガースポリマー(4231

 自動車部品用形成品やゴムシートなどの大手企業です。2025年3月期の経常利益と純利益の見通しを減益としたことから、株価は下落しました。

 決算短信には減益の要因の詳細は記載されていませんが、米国市場での為替見通しを保守的に見たほか、2024年3月期に苦戦した中国市場を引き続き厳しいと見ているのではないかと推測します。足元、中国景気は、PMI(購買担当者指数)が節目の50を上回るなどやや持ち直しが見られます。

 為替動向同様に、読みにくい外部環境ではありますが、国内の自動車部品や産業用ホースの販売が堅調に推移していることから2025年3月期見通しの上振れもあると考えます。

ユシロ化学工業(5013

 自動車の部品製造などに使用される金属加工油剤などを製造しているアジアトップシェアのメーカーです。2025年3月期業績見通しは、引き続き北米地域の販売がけん引すると見込み増収を予想していますが、経常利益見通しは為替差益の計上がなくなることから減益見通しとしています。

 1ドル145円で想定していますので、この辺りは他の企業同様、期初なので保守的な業績見通しとせざるを得ない、と理解しておいた方がいいかと思います。価格転嫁によってマージン改善が続いていることから、2025年3月期業績も堅調に推移すると考えます。

全保連(5845

 昨年10月に上場したばかりの独立系家賃債務保証会社です。上場して日が浅いので知名度はこれからだと思いますが、業界最大手の沖縄企業です。今年2月に発表した2023年10-12月期決算が、貸倒引当金を積み増したことが影響し伸び悩んだことで、株価は下落しました。

 一方、同社が開発した電子申込システムをベースとしたDX(デジタル・トランスフォーメーション)化を顧客にも推進していることから、2025年3月期は増収増益を見込んでいます。株価が見直される展開も近いと考えます。