日銀は異次元緩和で自由奪われ、利上げは慎重になるざるを得ない
――日銀は金融政策の正常化を今後どのように進めていきますか?
日銀が利上げするといっても今の政策金利(短期金利)0~0.1%程度の水準からせいぜい0.25%まで引き上げるぐらいではないでしょうか。異次元緩和の後遺症で、本格的な利上げはできないでしょう。
日銀は政策金利を0.25%まで上げた後は市場で決まる長期金利がどのくらい上がるか考慮して、それ以上の利上げをしないかもしれません。1回の利上げ幅は通常0.25%ですが、0.125%など細かく刻むかもしれません。
異次元緩和の弊害は今後の金融政策の自由度を奪ってしまったことです。国債をあんなに買って、日銀の国債保有比率(除く短期国債)は50%を超えています。もし日銀が政策金利を引き上げて、長期金利が上がったら、日銀は国債の評価損が自己資本を超えてすぐに債務超過になります。
また住宅ローンを組む人の多くが変動金利で、金利が上がったら、利払い費の負担が増えます。そういった制約があるので、利上げペースは極めて緩やかにならざるを得ません。
異次元緩和で抱えた国債は満期到来で全部期落ちさせるのではなく、10年くらいかけて国債に再投資もしながら徐々に減らしていくことになるでしょう。保有する株式と不動産投資信託は当面手を付けないと思います。日銀が売っても市場への影響がなさそうなら少しは売るかもしれません。
――日銀が円安是正のために利上げをする可能性はありますか?
中央銀行は物価安定が目標であり、為替目標はありません。ただ、円安でインフレが加速すれば、日銀はインフレを抑える名目で利上げする可能性はあります。利上げを制約する要因が多いですが、円安で恒常的にインフレ率が物価目標の2%を上回る状況となれば、日銀も看過できなくなります。
ただFRBが利下げをしない状況で、日銀が利上げに動いても、円高効果は一時的です。ドル高にすぐ戻ってしまいます。
――異次元緩和の後遺症との話がありましたが、黒田東彦前総裁時代をどのように評価されますか?
日銀が2013年4月に第一弾の「黒田バズーカ」(大量の国債購入と資金供給拡大)を発表したときは、これから円安になって国内生産や輸出が伸び、賃金が上がると想像していました。しかし、輸出数量が全然伸びない。
日本企業はグローバル化と円高で、海外に工場移転をしたので、国内産業の空洞化が進みました。そのため円安による輸出刺激効果は薄く、金融緩和を起点に円安、輸出や生産の増加、労働需給の逼迫(ひっぱく)、賃金上昇、インフレ、消費や設備投資拡大、成長率の上昇といった好循環メカニズムが働かなくなってしまいました。
日銀が2014年10月31日にバズーカ第二弾を発表したその日の夕方に、日銀が民間エコノミスト向けに説明会を開いたんですが、その場で当時の幹部に産業の空洞化が進んでいるので、第一弾のバズーカをしても輸出数量や賃金が上がらなかったではないかと、聞いてみたことがあります。
その幹部は、中央銀行がインフレ目標を実現すると言ったら必ず達成すると言い出したんです。思い込みを信じろという話で、客観性がなく全く議論になりませんでした。
植田和男さんが昨年、総裁に就任して、「普通の金融政策」ができるようになりました。植田さんは世界的な学者で、日銀で審議委員を経験して実務も熟知しています。先進国の中央銀行の総裁は学者が多い。中銀総裁が国際会議で集まったときに金融論や経済学に超一流の知見がないと議論になりません。
――日銀は3月の決定でETF(上場投資信託)の新規購入の停止を決めました。これまでTOPIX(東証株価指数)の下落率が2%を超えたら日銀が買い支える暗黙のルールのようなものがありましたが、今のところ大きな影響はありませんでした。
株式市場には影響ありませんでした。日経平均がバブル経済期のピーク超えを達成できたことが大きいです。30年以上抜けなかった天井を超えて、一時は4万1,000円台まで行きましたから。
いったん下がっても、次もまた4万円を超えていく期待が持てます。もしバブル期のピークを抜けずに下落していたら心理的な影響で株価はズルズル下がってしまう恐れもありました。