日経平均は年内4万3,000円台?数年で10万円へ?世界的な供給網再編で追い風

――日経平均は年内にどのくらいまで上がると思いますか?

 日経平均株価は3月22日の取引時間中に4万1,000円台に到達しました。いったん調整していますが、年内に4万3,000円ぐらいに上がると思っています。数年内に10万円を目指す動きが始まると予想しています。

図:日経平均の推移

 日本経済を苦しめたバブル崩壊後のバランスシートの悪化、円高、産業空洞化は過去のものです。ここに米中が対立する新冷戦の時代が来て、半導体などのグローバル・サプライチェーン(供給網)の見直しが進んでいます。

 民主主義国家間のフレンドショアリングで、日本はその供給網の一角を占めるようになります。日本の潜在成長率は現在0.5%程度といわれますが、数年で1〜1.5%に上昇するとみています。

 TSMC(台湾積体電路製造)熊本工場(同県菊陽町)など半導体関連に弾みが付いて、投資がものすごく伸びます。半導体分野は生産性が高いので、潜在成長率0.5%のアップはあっという間です。

 日本は家電、鉄鋼、自動車などの完成品では精彩を欠いていますが、半導体分野では、最先端製品のコアとなる素材や部品、製造装置を持っていることは決定的な強みです。

 製品の原材料の調達や生産を一国だけで全てまかなう垂直統合の時代ではなくなりました。iPadやiPhone などは世界から部品を集めて水平分業で組み立てています。これから重要なのはコアとなる部品、製造装置を持っているか否かです。西側でサプライチェーンを組んで、一緒に共存共栄を図る時代に変わってきています。

 政府はTSMC熊本工場や、先端半導体の国産化を目指すラピダスの工場(北海道千歳市)の整備に多額の助成をして、半導体産業の発展に力を入れています。マイクロソフトが生成AI(人工知能)やクラウド基盤の強化のために日本のデータセンターを増強する動きもあります。日本にどんどん投資する流れが来ています。

 生成AIの急速な普及でデータセンターなどの電力消費が大幅に増えると見込まれていますが、NTTの(電子機器の制御を電気ではなく光で行う)光半導体が実用化されれば、光が電気の代わりになるので、電力不足の問題がなくなります。実用化されたら、日経平均は10万円では済まないかもしれません。それを目当てにした投資が海外からものすごく来ることになります。

――新冷戦時代の特徴は何でしょうか?

 新冷戦では経済安全保障が重視されます。生産要素の労働力、資源、マネー、技術の自由移動が制限されます。これまでグローバル化でデフレの時代が続きましたが、インフレ時代になることを意味します。インフレ加速は新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ戦争でより鮮明になりました。ポスト冷戦でグローバル化の恩恵を受けた新興国は厳しくなります。

 株価にはインフレや金利上昇は良くありませんが、実質金利が上がるわけではないのでマイナス影響は限定的です。むしろ、テクノロジーが飛躍的な進歩を見せており、成長が加速するので株価にはプラスです。

――NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)が今年拡充されて、個人投資家がすごく増えました。ただ、買っているのは日本株ではなく、S&P500など米国のインデックス投資信託です。

 日本株はこの30年間、低迷していたので、日本人に日本株は上がらないとの思い込みがあります。著書で言いたかったのは、新冷戦になって、資本流出から流入する逆回転が始まったことです。

 半導体の芽が出てきて、当然取引が増えます。企業収益は今よりさらに良くなってきます。自分が勤める会社の業績が良かったら、家でも買おうとなります。日本経済はこれから大復活して飛躍していくと思います。

 米著名投資家のバフェット氏や米資産運用会社のブラックロックは日本の持つ潜在的技術に大きな関心を持っています。日本人は敗北主義から脱して自分の潜在能力、技術を発見すべきです。

――外需主導が目立ち、日本企業による対内直接投資の動きが弱いです。日本企業も国内投資に動き出しますか?

 日本企業は海外への投資は強いけども、国内投資はまだ足りない状況ですが、いずれ上向くと思います。TSMC熊本工場がいい例ですが、外資が入ると国内の関連産業が新たな投資をします。熊本はすごく活気があります。

 だから日本各地で外資と国内企業での連携が広がれば、日本企業も否応なしに投資せざるを得ません。まさにウィンウィンです。日本経済はこの30年敗北が続きましたが、完全に変わったと認識すべきです。

 物価も上がり始めています。家計ではインフレに賃金が追いつかず実質賃金と実質消費のマイナスが続いています。しかし、企業がコスト増分の価格転嫁に成功したので、これからは賃上げが進み、実質賃金のマイナスから脱却できると思います。

 特に製造や小売りの現場は人手不足が厳しいので、賃上げは一過性ではなく今後も続くと期待できます。実質賃金がプラスに転換し、家計が積極的に消費する流れにつながっていくとみています。

――人手不足が日本経済成長のネックになりませんか?

 国内では人手不足の問題もありますが、労働力は一気に減りません。人手不足はこの5年ぐらいは足かせにならないと思っています。経済学では資本投入と全要素生産性が上がれば、労働力不足をカバーできます。まさに半導体やAI関連で生産性を上げて、時間を稼ぐことになります。

 10年後、20年後は、どういう国にしていくかとの議論に関わりますが、GDPの増大そのものを目指すのではなく、1人当たりGDPを増やす考え方の方が国民は幸せになれると思います。

 GDPを増やすことは安全保障的な側面もあり大事ですが、米国と技術面で協力することで、1人当たりGDPが大きくなったら一つのモデルケースになります。そこは政府が腹をくくるか次第です。

 長期的には移民を受け入れるかどうかの議論も必要になります。政府は少子化対策を進めていますが、桁が違う対策をすべきです。