南アフリカのPGM鉱山会社各社は、2023年中のPGMバスケット価格の下落への対応として、コスト削減を中心とした再編成計画を発表している。現金保有高を減らさないために、生産拡大プロジェクトなどを延期し設備投資を減らすとしている。現時点で発表されている再編成計画が直近の生産量に影響する可能性は低いが、過去に設備投資が減って徐々に生産量が減っていった状況が繰り返される可能性がある。WPICの2年〜5年先の需給見通しは公表されている生産目標を合算した中間点を使うので、バスケット価格の下落で設備投資が減り、そのために鉱山供給が減る状況については考慮されていないことを指摘しておきたい。

 コロナ対策で鉱山が閉鎖されて生産量が減った2020年を除くと、2024年の南アフリカのプラチナ生産は、我々が調査を始めた2013年来最も低い水準になる予測だ(図1)。『プラチナ四半期レポート』最新版では2024年のプラチナの鉱山生産予測は前年比でマイナス3%、170.7トンになるとした。PGMバスケットスポット価格だと赤字生産の鉱山もある計算になる2023年度のコストカーブと、このマイナス3%という緩やかな減産予測は大きな差があると感じるかもしれない。しかしバスケット価格の下落に対して生産量が変化しないように見えるのは、2022年と2023年の間のコストカーブの違いにその理由がある(図3と4)。2022年度と2023年度はロシア以外の鉱山生産の35%は赤字だったはずだが、ランド安(図6)と運営改善(コスト削減と増産)のおかげで2023年全体のコストカーブは平坦になっており、そのため2022年度は平均で-247ドルだった6E 1オンスごとの損失は、2023年第4四半期には平均-148ドルに改善され、運営としては損益分岐点に近づいていた。

図1:プラチナ供給は前年比マイナス1%

出典:2013年〜2018年はSFA(オックスフォード)、2019年〜2024年予測はメタルズフォーカス

 2:設備投資の減少は鉱山生産に影響

出典:ブルームバーグ,ジョンソン・マッセイ,SFA(オックスフォード),メタルズフォーカス,WPICリサーチ

 今後設備投資が減ればこのマイナス収益幅はさらに縮小するだろう。南アフリカのPGM鉱山会社は2024年度の運営維持に必要な設備投資を前年比でマイナス11%としており(図7)、それは6E 1オンス毎の総コストを平均で25ドル押し下げることになるからだ。これらが総合的に絡んで南アフリカの生産は持ち堪えており、鉱山寿命に達した鉱山の閉鎖や成長プロジェクトを延期するなどの再編成後も、南アフリカの精錬プラチナ生産が1%しか減らないと言えるのはこういう理由だ。収益の悪化に対するに対する鉱山会社の短期的な対策については昨年12月に発表した『プラチナ投資のエッセンス』にて既に述べたとおりである。

 しかし、一時的に収益悪化を免れられても、設備投資を減らせば鉱山供給は減る可能性がある。2008年から2023年の間、実質的に設備投資が減りつづけた時期(図2)、南アフリカの精錬プラチナ生産は減っている(2006年以降の年平均成長率-1.7%)。過去に見られた設備投資の減少に伴う減産傾向を上回る水準で今後の生産が減って、2028年までに年間で供給量が約7.8トン減るような状況になれば、我々が2025年から2028年まで平均16.1トンと予測したプラチナ不足はさらに拡大する可能性がある(図8)。

PGM価格の下落に対しPGM鉱山会社は効率化と設備投資カットに取り組んでいる

実質的な設備投資のカットは鉱山会社の生産維持能力に影響を与える。将来供給が減るリスクはプラチナ市場の供給不足を拡大する可能性

投資資産としてのプラチナ

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-水電解装置と燃料電池に使われるプラチナに投資することで将来性の高い水素経済に投資できる
-プラチナ供給は南アの電力問題と対ロシア経済制裁で問題多い
-自動車のプラチナ需要はガソリン車の代替需要で今後も成長期待できる
-プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて安い期間が続いている

図3:2022年の総コストは急激に上昇―第4四半期の6E 1オンス毎の生産コストは平均でスポット価格より247ドル高

出典:会社決算データ、ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:2023年の総コストは2022年より上昇が緩やかー第4四半期の6E 1オンス毎の生産コストは平均でスポット価格より148ドル高

出典:会社決算データ、ブルームバーグ、WPICリサーチ

図5:2024年のプラチナの鉱山供給は前年比マイナス3%―ロシアと南アフリカが減産

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図6:南アフリカランドは米ドルに対して2021年半から大幅に下がり南アフリカの価格競争力に貢献

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図7:2024年度の南ア鉱山会社の運営維持に必要な設備投資は前年比でマイナス11%の予測で、将来の総コスト軽減に貢献

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図8:設備投資の減少で生産が減れば、2025年〜2028年で年平均16.1トンと予測されるプラチナの供給不足は拡大する可能性

出典:2014年〜2018年はSFA(オックスフォード)、2019年〜2024年予測はメタルズフォーカス、それ以降はWPICリサーチ

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